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14 捕らぬ狸の皮算用(マルク視点)

「はっ!? 今、何と言った!?」


「ですから、薬草学校からの報告で上級ポーションを作成した学生が出たそうです」


 執務室で月に一回の定例報告を聞いて、俺は自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。

 父上の作った薬草学校に通っている学生が、上級ポーションを作成しただとっ!?

 あの、熟練の薬師でも作成するのが難しく、国から求めの多い上級ポーションを!


「いったい、誰がっ!?」


「モーリス様が特待生としたマリーという学生です。モーリス様は初めからわかっていたようですが、やはりモーリス様が選んだだけあり、優秀でしたな」


 父上が特待生に……確か今年は特待生はいないはずだから、父上と口論になった原因の小娘か!

 だが、去年は初級ポーションを三本作るのが精一杯だったはず……まさか、実力を隠していたのか?


「……不正はなかったんだろうな?」


「は?」


「教師が手を貸したとか……あるいは、教師の作った上級ポーションを自分が作ったと詐称しているとか」


 そうだ! 初級ポーションを作るのが精一杯だった人間が一年と少々で上級ポーションを作成するだなんてあるはずがない!

 だったら、これには何か不正があるはずだっ!


「あるはずないでしょう。報告をしてきたのは教師ですよ? 不正があったのなら、その旨をモーリス様に報告していますよ」


「ぐぬっ」


 報告をしているのは父上の代から仕えている執事だから、俺に対して当たりが強い。

 だが、確かによくよく考えてみれば、街の噂ではなく教師から報告がきているのに、教師が手を貸したり、不正を見逃したりといったことはないだろう。

 一瞬だけハニートラップを考えたが、一年前に小娘を調査したときに、女性としては全くと言って良いほど魅力がないことを知っているからな。


「それに、去年は中級ポーションを作成して販売しているのですから、不正などする必要はないでしょう」


「はっ!? 中級ポーション!?」


「ええ、初級ポーション作成実習の初回で中級ポーションを三本作成。その後も校内の薬草や市場の薬草を買い取り、中級ポーションを定期的に冒険者ギルドに卸していたと、報告されていますが」


「中級ポーションの材料が栽培できたなどという報告は来ていないぞ!」


「でしょうな。マリーが作成した中級ポーションの材料は初級ポーションのものですからな」


「は!?」


「薬師を名乗る者ならば知っていることですが、作成方法によっては下級素材で上位のポーションを作成することが可能なのです。ですから、初級ポーションの素材で中級ポーションを作成するのは、それほど不自然ではないかと」


 確かに座学では、そう教わっていたが、それを出来るのは上級薬師レベルの腕を持つ者だけだろう?

 俺もそうだし、俺の周囲にだって、初級ポーションの材料では初級ポーションを作成するのが精々で、中級ポーションを作成できた人間などいなかったぞ!


「……特待生は優秀、ということか?」


「超……優秀ですぞ。彼女を逃せば、ルグラン領の損失になるレベルの」


「むむ」


「薬草学校では既に一年受講期間を延ばして更なる研鑽を積むか、あるいは教師として残らないかと打診しているようですが、返事は芳しくないようですな」


「破格の待遇じゃないかっ! 何が不満なんだっ!」


「彼女は彼女でやりたいことがあるのでしょう。貴族ならば当主から攻めるのですが、彼女は平民。この領を気に入ってもらえてると祈るしかないですな」


 クソッ! あり得ないだろ。小娘が薬師としての教育を受けたのは、ルグラン領の支援があってこそだぞ?

 それなのに、平民だからと言って他領に出ていく可能性があると?

 ……何かいい手はないのか? ……そうだ!


「こむす……マリーとかいう女は冒険者ギルドにポーションを卸しているのだな?」


「は? ……そうですが」


「ならば、冒険者ギルドに指名依頼を出せ! 上級ポーションを作成するようにとな!」


「……お待ちください! 彼女は冒険者ギルドに所属しているわけではなく、単なる販売者の一人なのですぞ」


「うるさい! 領主命令だ! とっとと冒険者ギルドに指名依頼を出しておけ!」


 そうだ、俺は領主だぞ! 領の資産を使って上級ポーションを作成した小娘を逃すなんてことができるわけがないだろう!

 領主命令で縛ってしまえばいい! そうだ、そうしよう。

 街の外れに監禁用の家を用意して、そこで上級ポーションを量産させるんだ!

 それを国に卸せば……王宮から名誉称号を得ることも。そうすれば、俺のことを認めない年寄り連中も俺を尊敬するはずだ!

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