11 ミシェルとのお茶会と将来
「ん~~~! 美味しい~~~」
「マリー、間抜け顔になってるよ」
「もう、ミシェルの意地悪。美味しいものを食べてるときに顔が緩むなんて、普通のことでしょ?」
薬草学校に入学して数か月が経ち、ミシェルとも呼び捨てで呼び合えるようになってきた。
そんな私だけど、今日はミシェルと一緒に街でも有名なカフェにスイーツを食べに来てる。
「それにしても、あんなに付きっきりでポーション作成を教えてもらったお礼が、こんなのでいいの?」
「こんなのって……屋敷に軟禁されてた私にとってはスイーツなんて夢のまた夢だったんだよ!」
「そういえば家族に軟禁されてたんだっけ。バルシュ王国じゃ考えられないな~」
「コピク王国では当たり前のことだったけどね。長男、次男ならともかく、三男以下は手に職付けさせて領に従事させるってのがパターンだって、使用人が言ってたわ」
バルシュ王国に来てから思ったことだけど、本当にコピク王国はやることがエグイ。
そもそも自我すら薄い赤子に対して、魔法契約を施し、当主の言いなりにさせること自体、コピク王国以外では人権問題になるらしいのよね。
「でも、マリーは次女? だったんでしょ?」
「うーん、本当は唯一の跡取りのはずなんだけどねぇ」
「? お兄さんに追い出されたって言わなかった?」
「義兄ね。コピク王国では貴族の屋敷で生まれないと、貴族としては認められないの。義兄も義姉もお父様が余所で作った子供だから、家は継げないし貴族としても認められてないの」
「ふーん、それで義兄、義姉呼びなんだ。普通は血がつながってれば異母兄、異母姉って呼ぶじゃない?」
「そうそう。血は繋がっているから義兄、義姉って呼んでたけど、もう関係のない人たちね」
そういえば、義兄はお父様が爵位を譲ったって言ってたけど、本当だったのかしら?
まあ、魔法契約が解除されたから本当なんだろうけど、直系がいるのに養子を次期領主にするなんて、大変だったんじゃないかしら?
私には関係のないことか。
「謎が一つ解けたわね。……で、マリー。そんな扱いを受けていたなら、故郷に帰ろうなんて思わないわよね?」
「まあね。もともと家から出られたら~って妄想してたから、バルシュ王国まで逃げてきたんだもん。もう家になんか寄り付かないわよ」
「ふーん、じゃあバルシュ王国に……っていうか、ルグラン領に骨をうずめてくれるのよね?」
「うーん、どうだろう? 薬草学校を卒業するまで……あと一年半ちょっと? くらいはいるだろうけど、それから先はわからないな~」
ミシェルとも仲良くなったし、薬草学校の先生たちも優しいから、薬草学校に通うのを途中でやめようとは思わない。
でも、だからと言って、一生をここで過ごす覚悟ができているかというと、よくわからない。
「そうなんだ。あ~あ、私は薬草学校を卒業したら、実家の商会で働かされるか、どこかに嫁がされて働かされるから、マリーも一緒に来てくれるかな? って思ったのに」
「ミシェルの実家はともかく、さすがに嫁ぎ先はムリでしょ。……いやいや、ミシェルの実家も無理だけどね。お兄さんが継ぐんでしょ?」
実家はともかく~、なんて言ったから、ミシェルがキラキラした目で見ていたけど、友達の兄とはいえ見ず知らずの他人が経営してる商会の薬師なんて気疲れしてしまう。
ミシェルの話を聞く限りでは、商会を継ぐお兄さんはお父様のように利益が一番で、その利益を使って何かをしようとするタイプじゃないみたいだし、私と相性が悪すぎる。
「商会お抱えじゃなかったら、マリーは将来何になるの? 今みたいにポーションを作って冒険者ギルドに卸す?」
「それもいいけど、どうせなら私だけの薬屋を経営したいわね。冒険者だけじゃなくて、街の人とかも気楽に入れるような」
「ルグラン領だと無理じゃない? 冒険者はギルドでポーションを買うし、街の人は商会から買うわよ?」
「それなのよね~。小さな村に住むか、他の国に行かないと無理かもね~」
「やだやだ、マリーと離れ離れになっちゃうじゃない」
「まあまあ、まだまだ先の話だから。薬草学校を卒業するまでは一緒。それに、もしかしたら、この街の近くに良い場所があるかもしれないしね」
ミシェルをなだめるのは苦労したけれど、本当に自分の将来も考えないと。
ようやくペルヴィス家から解放されたのだから、自分だけの幸せを考えて行動しないとね。




