忍犬たちのストライキ事件
【発端:AM08:17/社内廊下にて】
影道イチロウ、出勤。
絡繰核から演歌を流し、靴箱を開ける。
そこには、1枚の紙。
【ボクたちは怒っている】
【納豆ごはん味のドッグフード連続7日目、これはメシハラです】
【改善が見られなければ、忍務ボイコットに入ります】
社内忍犬労働組合代表「ムサシ」&他5名(肉球印あり)
「…犬に組合って何? てか、筆跡うますぎない?」
【AM09:00/社内食堂】
衝撃的なニュースが飛び交う。
「任務キャンセル!? 忍犬部隊が“正座して無言の圧”出してるって本当!?」
「フード用オートディスペンサーが“牛丼味パウチ”で詰まって止まってる!」
「誰だよ納豆ごはん味、連続で発注したの!?」
イチロウ、静かに挙手。
「……俺、フード注文ローテ設定いじったかも……」
全社員「てめぇかああああああああああ!!!!」
【AM10:22/屋上】
社内忍犬たちによる“無言の集団座り込み”が開始。
首輪には「NO MEAT NO PEACE」の手書き札がぶら下がっている。
ミレイが報告。
「現時点で、忍犬10体中8体がストライキ状態。2体は脱走して帰ってきません」
「記録庁からも“貴社の犬ログが破綻してます”って警告きてます!」
「犬畜生に圧倒されるとはな」
と、すっかり弱るイチロウ。
【AM11:00/交渉会議】
会議室。
片側に忍犬5体が並び、代表のムサシ(柴犬型・高性能)が前に座る。
月城ミレイが仲裁役。イチロウもなぜか“加害者枠”で参加。
ムサシ(音声翻訳機)「ドッグランを月2回→週1回に。職場内炭酸飲料禁止。夜勤手当倍増」
「え! なんで? 梅ソーダのめないの!?」
狼狽するイチロウ。
「多分、他の柑橘系の炭酸飲料の匂いが犬のストレスになっているんだと思います」
ミレイが的確に解説する。
とんだ流れ弾だった。
「あと、尻尾ふるだけで“かわいい”って言うな。侮辱だ」
翻訳機を使い、ムサシが言った。
「じゃあ何て言えばいいんだよ!?」
「“お慶び申し訳げます”が適切」
「わかるかそんな世界観ッ!!」
【PM13:00/妥結】
・ドッグラン:週1回提供
・フードローテ:和牛すじ煮込み味、追加決定
・柑橘系の炭酸飲料は持ち込み禁止。梅ソーダは可。
・イチロウは犬たちに“忠誠焼き芋”を3日間手配するという謎の罰則
ムサシ「交渉は成功した。吠えれば、ログは変わる」
イチロウ「やっぱお前絶対中に人入ってるだろ」
【PM14:30/忍犬たちの任務復帰】
再起動した忍犬たちが、整然と出撃。
背中には新装備“自動おやつ配布型絡繰カプセル”が搭載されていた。
一部忍犬が、「これまじでストしてよかったわ…」みたいな顔をしていたという未確認情報あり。
【PM15:00/社内備忘ログ】
【タイトル:犬たちは見ている】
【作成者:影道イチロウ】
「次、あいつらに嫌われたらたぶん俺の自宅座り込みされる。怖すぎる。社畜って人間だけじゃなかったんだな…」
ということで、これがオンミツ社を震撼させた一日、「忍犬ストライキ事件」の全容だ。
記録はされなかった。でも確かに、社内の空気が一度“犬に負けた”。