祈りの残響 37
セーフハウスの扉が閉じられた瞬間、三人はようやく息をつくことができた。
薄暗い室内では、空調の低い唸りだけが静かに続いている。
だが、その静けさはいつもより重かった。
イチロウは背後のロックを三重に閉め、絡繰核で周囲の干渉値を確認する。
「…異常なし。尾行もなしだ」
その言葉に、ゴエモンが肩を落とした。
「いやぁ…今日はさすがに死ぬかと思ったぜ」
義手の接合部を外すと、金属がテーブルの上に乾いた音を立てた。
露出した端子は赤くただれている。
「酷使しすぎたな。部品が焼けてる」
「自分じゃ直せねぇしな。頼む、イチ兄」
「動くだけは動くようにしておく」
イチロウが工具箱を開く横で、アルカは胸元を押さえ、光球をゆっくりと取り出した。
弱まってはいるが、確かな脈動が残っている。
彼女はそれをそっと、モニターベッドの傍に置いた。
ちょうど、ゼロが横たわっていた位置の隣。
イチロウが手を止める。
「…ゼロを起こすつもりか?」
アルカは首を小さく横に振った。
「いいえ。まだその時ではありません。
ただ…ゼロとは、いずれ“触れ合う”必要があります」
「触れ合う?」
ゴエモンが眉を上げる。
「言葉ではなく、もっと……根の部分で」
言葉を探しているような声だった。
「とりあえず座れ。お前も休め」
イチロウの言葉に、アルカはベッドに腰を下ろし、静かにゼロの顔を見つめる。
ゴエモンも横から覗き込み、
「…似てるよな。やっぱり、おまえら何か繋がってるんじゃねぇか?」
と言って笑った。
アルカは小さく目を伏せる。
「…ええ。たぶん。ゼロが姉で、私は……妹、なのでしょう」
「だったら、仲良くできるかもな」
「…はい。そうだといいのですが」
アルカの声は、微かに震えていた。
疲労のせいか、それとも、胸の奥で芽生えつつある“感情”のせいかは分からない。




