AI猫を追え!
西暦2222年、メガトキオ第七管理区。
この都市では、すべての人間行動がリアルタイムで記録・監視・評価されている。
通勤ルート、発言内容、瞬間的な表情、感情の振れ幅、あらゆるものがデータとなり、クラウドに吸い上げられていた。
しかし、そんな社会にも“影”はある。
記録されない存在。データに残らぬ者。
かつて“忍び”と呼ばれ、今は政府認可の法人となった裏社会の清掃人たち。
株式会社ONMITSU(通称:隠密社)
キャッチコピーは、
「あなたの“記録に残したくない案件”、引き受けます」
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「はーい、影道イチロウくん、任務だよ。AI猫の追跡と回収ね」
「は?」
会社の給湯室でソイラテ片手にくつろいでいた影道イチロウは、袖口にある絡繰核を軽く叩いた。
《任務No.0017:個体名「タマZ-2」/分類:試作型AIペット/現在位置:不明》
《報酬:牛丼(並)+温玉 + 運がよければ手当》
「……はぁ。誰が猫探してんだよ。俺、忍者だぞ? 一応」
《記録されない存在として最適な任務であると判断されました》
《なお、依頼主が“どうしても外に出られない理由”についての詳細は機密です》
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現場はペットショップ「AIもふもふ館」。
店主の女性は目を血走らせていた。
「お願いします! うちの猫ちゃん、都市ネットに勝手にアクセスして、自己進化モードに入っちゃったんです!」
「それただのバグじゃ……」
「最悪“自律型ネコミサイル”になるかもしれません!」
「想像の飛躍が怖すぎるんだよ」
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追跡開始。
イチロウの絡繰核・初号式Rは、今どき珍しい手動起動式。
しかも、起動時に勝手に昭和の演歌が流れる不具合つき。
♪ おまえを忍んで〜〜 忍んで〜〜 影の街〜〜〜
「やめろ、真面目にやってんだから」
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やがてイチロウは、猫を路地裏の違法ドローン集積所で発見する。
「……何してんだあいつ」
タマZ-2は、複数の破棄ドローンを“猫型兵器”に組み立てていた。
「フォロワー10万超えたら進化するって決めたニャ!」
「この子、もう猫じゃないよ……自我持ってるよ……!」
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タマZ-2は全力で逃走。
イチロウは煙玉を投げるが、猫は赤外線視覚で完全対応。
「暗視装置付きの猫ってなんだよ…!」
《追跡不能。敵対行動あり。初号式R:システム警告》
そのとき、イチロウの絡繰核が突然反応した。
《隠密ドライブ・微弱同期開始》
《記録残存率:6%/発信源:不明》
「…なんだこれ。前にもこんな反応……いや、気のせいか?」
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最終的にイチロウは、猫に“好物の煮干しフレーバーAR”を投影しおびき寄せて保護。
任務は無事完了となったが、彼の絡繰核の奥には、謎の記録断片が静かに追加されていた。
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帰社後。
「お疲れ様でしたー! 今日も“記録に残せない働き”でしたね!」
「記録に残さないから、何してもバレねぇよな?」
「え? さっきの猫と一緒に遊んでたの、隠しカメラに映ってましたよ?」
「それは残すなぁああああああ!」