記録都市2222
西暦2222年、メガトキオ。
都市全体が巨大な記録装置と化した未来。
人類はひとつの理想に到達した。すべての出来事を記録できる社会。それは監視ではない。保障であり、安全網であり、「証明」である。
「記録があるから、そこにいたと言える」
「記録があるから、正しく評価される」
「記録があるから、嘘が暴かれる」
記録は正義であり、通貨であり、存在の証明そのものになった。
生体ログ、移動データ、視線の動き、SNSの投稿、ため息の湿度、etc etc。すべてが記録され、分類され、点数化される。
誰が、どこで、何をし、何を言い、何を思ったか。
“記録”こそが価値を決める。
“記録”がなければ、存在しないも同然。
都市メガトキオでは、個人識別タグと絡繰核というデバイスが一体化し、人間の視線・言語・生体反応・消費行動、あらゆる情報がリアルタイムにサーバーへと送られる。
すれ違う人間が笑っていたか、怒っていたか。
深夜に食べたものがラーメンかそばか。
一年前に誰と何を話したか。
それら全てがログとして残され、数値化され、アルゴリズムによって評価される。
それが「公正」だと信じられている時代だった。
そんな社会にあっても、もちろん例外はある。
彼らは《隠密》と呼ばれる。
表向きは便利屋や警備会社。だが実態は、社会の“記録不能案件”を引き受ける合法影法師集団。
「誰にも知られたくない仕事」
「記録に残すと不都合な事件」
「証拠が残せない善行」
そういった“曖昧で、でも必要な仕事”を、彼らは日々こなしている。
「よォ新人。よく来たな。今日からお前も、忍者だ」
そう言った初老の男は、
清掃会社の制服を着て、なぜか背中に日本刀のレプリカを背負っていた。
「清掃会社……ですか?」
「表向きはな。だが裏の顔は、“忍務請負会社”だ」
「……なんですかそれ」
「要するに、“記録に残せない仕事”を引き受ける会社だ。人の手が届かねぇ、データに映らねぇ、法律にも載ってねぇ、そんな仕事をやる。誰かがやらなきゃ、社会が腐るからな」
記録が全てを支配する社会において、
“記録されない者”こそが、最後の自由人である。
都市に巣食う“記録操作”や“虚偽ログ”、
記録を基にした犯罪、AIによる追跡、そして、かつて“消された記録”の亡霊たち。
それらに立ち向かうのが、
人知れず雇われ、記録されずに動き、
仕事が終われば何事もなかったように姿を消す。現代の忍び(オンミツ)である。
そしてこの物語の主人公、
影道イチロウ(26歳・非正規忍者)はというと、
「また猫の捜索かよ…マジで俺、何屋なんだ?」
今日もコンビニの梅ソーダを片手に、
型落ちの絡繰核を叩きながら、誰にも知られず“記録に残らない仕事”へと出かけていく。
本作は、記録に残されるべきかどうかも分からない男の、ちょっと笑えて、ちょっと切ない、未来忍者の記録である。