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第六話 金

 ウルフとシャイングリーンが交戦を開始してから5分が経過した。戦況に関しては特に触れる事がないくらい、ウルフがシャイングリーンを圧倒しており、今も俺の耳にシャイングリーンの情けない声が耳に入ってくる。


「待つんだ怪人!金が欲しいならくれてやるから攻撃の手を緩めるんだ!」

「いらねぇよ!そんなもん!」


 ───俺とウルフが付けている仮面はマッドサイエンティストが開発した物であり、強度もさることながら戦闘を補助する機能がついている。その内の一つに変声機能というモノがある。

 要はボイスチェンジャーのようなモノで、仮面の額の部分を連続して2回叩くと声が変わるという仕様だ。


 普段よりも一段と低い声で、ウルフがキレながらシャイングリーンが投げた札束を振り払い、距離を一気に詰めた。マスメディアが逃げた事で外見など気にしていないのか、怪人相手に交渉しようとしているのはヒーローとしてどうなんだ?


「まて!金をやるから止めるんだ!金持ちの僕が止まれと言っているんだ!」


 命乞いとも静止命令とも呼べない意味の分からない主張を述べるシャイングリーンの顔面にウルフの拳がめり込み、きりもみ回転しながら吹き飛んでいく様子を見ながらマッドサイエンティストに報告を上げていく。


 ヒーローとして対面し戦った時も思ったが、ウルフの戦闘センスは抜群に良いな。怪人細胞の適合率が70%を超えていた事もおり、これまでの怪人とは一線を画す強さになっている。


「このまま戦いが続けばウルフの勝ちは明白だが、どうする?」

『それはウルフと戦っているヒーローをどうするかって事でいいかな?フォリ様は素体として連れ帰って良いとは思うけど、助手君はどうだい?』

「ただの直感だが、ウルフのような自我を持つ怪人にはならないだろう。失敗作になる可能性が高いと判断している」

『それなら無理に連れ帰らない方がいいねー。助手君が先程連れてきた素体の方が期待出来るぜぃ』


 ヒーローとしての強さは持っているが、素体としてはゴミと言っていい。連れ帰る労力と見合う対価が得られるとは思えないし、殺す方が手っ取り早くていいな。



 ───それにボスはまだウルフの事を疑っている。



 経歴が元ヒーローという事もあり、裏切る可能性もあると考えているようだ。ウルフが怪人化しても自我を持っていた事も危険視しているようだな。

 だからこそ今は働きで信頼を得るしかない。ウルフの実力なら生きていればボスにも認められると思うが⋯⋯。


「ウルフの件、明らかにボスの私情が入っていたな」

『ボスの事かい?アレはボスのメスの部分が出たね。ウルフに嫉妬しているのさ』

「その話は聞かなかった事にする」


 仮にも組織のトップだぞ。悪の組織、秘密結社のボスだ。上司がメスの部分を出していたなんて、部下としては聞きたくない。


『ボスは間違いなく嫉妬してるぜぃ!ウルフを危険視するようになったのは、自我を持っている事が分かった時じゃなかった。助手君が部下として手元に置くと言った時からだろ?』


 耳を塞ぎたい内容だ。頭の中で響いているから耳を塞いだところで、マッドサイエンティストの声は聞こえてしまう訳だが⋯⋯。


 ウルフの希望もあり、俺の部下として扱うつもりだとボスに報告したのが不味かったか?

  組織の幹部として任命権を持ってはいるが、ボスの判断を仰いでから決めるべきだった。

 いや、ウルフに嫉妬していたというなら俺から遠ざけた可能性が高い。そうなればウルフもまたボスに対して不信感を持つ。組織として見れば最悪だ。


 面倒な事になったとため息が出た。


「貧乏怪人め!金持ちヒーローを力を受けて見ろ!」

「うっぜぇぇんだよ!さっきから!」


 そうこうしている間にも戦闘は続いている。シャイングリーンが掌から金塊を放出し、ウルフが紙一重で交わして肉薄する。

 攻撃方法はギャグみたいに見えるが、金塊が直撃したビルが倒壊している様子からその威力が分かる。


 時間経過と共に消えているのを見ると金塊も本物ではないようだが、怪人を倒す為とはいえ、少しばかり建物を壊しすぎだ。

 サンシャインの中でも特にシャイングリーンは人気がないが、その理由が分かった気がした。一度家を壊された住人がクレームを入れたそうだが、金で黙らせたという話を聞いた事がある。嫌なヒーローだな。

 

「金持ちガード!」

「無駄なんだよ!!!」


 肉薄したウルフの拳を受け止める為に体の前に巨大な金塊を生み出すが、金塊ごと殴り飛ばすという脳筋戦法にやられ、吹き飛んでいくシャイングリーン。


「終わりだ」


 ウルフがトドメを刺そうとシャイングリーンに近付こうとした瞬間、空から黒い鉄の塊が飛来する。アレは『苦無(くない)』と呼ばれる物だったか?忍者使う道具であり、漫画やアニメの影響で認知が広がった物だ。


 このまま決着が着くかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。どうやらヒーロー側の救援が来たようだ。


 苦無が飛んできた方向に視線を向けると、俺と同じようにビルの屋上から戦場を見下ろす二人の人影が見える。黄色と白のヒーロースーツを見に纏った二人組み。シャインイエローとシャインホワイトか。


「助けに来たで!優馬はん!」

「うわ、優馬伸びてるじゃん!ちょーうける!!」

「アホな事言ってないで行くで!」


 ビルの屋上から飛び降りた二人組は地面に衝突する瞬間に浮遊し緩やかに着地した。『ゼログラビティシステム』と呼ばれる重力装置だな。高所から落ちてもダメージを受けないように全てのヒーロースーツに備え付けられている機能らしい。


「梨沙はんは優馬はんの回復を頼むで。その間はうちが怪人の相手をするわ!」

「オッケー!任せたよー」


 シャイングリーンの傍にシャインホワイトが残り、一人でウルフの相手をするつもりなのかシャインイエローが前に出た。


 その後ろでシャインホワイトが倒れたシャイングリーンに触れると体が淡い白い光に包まれて、徐々に傷が癒えていく。


 ───回復役(ヒーラー)か。

 

「対話なんて出来へんやろうけど、ここからはウチが相手するわ」

「お前一人でオレ様の相手をするつもりか?」

「っ───!!怪人が言葉を喋りおったで!」


 当然と言えば当然の反応ではあるが、やたらとリアクション大きいなあのヒーロー。時間稼ぎか? いや、単純に驚いているだけか。


 これまでヒーロー共が対峙してきた怪人たちは自我を失っている為、奇声を発する事はあっても言葉を喋る事はなかった。だから言葉を喋る怪人は初めてという訳か⋯⋯。


 当初はシャイングリーンも喋っても無駄だと判断していたらしく何も言わずに戦っていたが、ウルフが喋る事が分かると直ぐに命乞いを始めていたな。なんとも情けないヒーローだ。


『ウルフ、ヒーローと対話する必要はない。シャインイエローを無視してシャイングリーンにトドメを刺せ』


 さりとて、ヒーローと対話をするのはそれこそ時間の無駄だ。特に後ろに回復役が控えているなら、会話の時間も相手の優位になる。

 俺の命令を受けたウルフが動き、阻止する為にシャインイエローが動く。


「あのビルか」


 先程の様子を見るに仲間を救う意識が先行して、こちらに気付いた様子はない。ウルフと戦闘を開始した今、こちらに意識を向ける余裕はないだろう。移動するなら今だ。


 ビルの屋上から屋上へと飛び移って移動し、先程までヒーローの二人がいた場所へと移る。

 ウルフから聞いていた情報だと屋上の入口の近くに隠してある筈だ。植木鉢で囲んでいると言っていたが⋯⋯見つけた。


「ウルフが言っていた場所と同じだ。情報に間違いはない」

『ひひひひ!それは良かったぜぃ!ウルフの事はフォリ様も信用してやるとするか!じゃあそこに設置されている瞬間移動装置の情報を送れ。フォリ様が解析してヒーローの拠点を見つけてやるぜ』

「仮面を通して映像を送る。必要な情報が揃ったら言え」


 仮面の左頬を4回連続でタッチすると俺が見ている光景が、マッドサイエンティストのパソコンから見えるようになっている。

 マッドサイエンティストは普段からずっと見えるようにしておいてくれと言っていたが、プライバシーもクソもないので却下した。


「これで見えるな」


 ───画面共有を行った状態で、植木鉢によって隠されていた瞬間移動装置を手に取る。一見するとマンホールのようにも見える60センチ程の黒い円盤、これがヒーローたちが利用していたとされる瞬間移動装置である。


 大きさから判断して、これは子機だな。瞬間移動装置には親機と子機の二種類が存在し、形状はどちらも同じマンホールのような黒い円盤ではあるのだが、大きさに決定的な違いがある。どれくらい違うかと言うと親機の大きさは子機の約10倍である。数字にすると6メートル。


 子機は置く場所を選ばない代わりに、あらかじめ登録してある親機の元にしか飛ぶ事が出来ない。子機から子機と言った風に移動する事は不可能だ。

 親機は置く場所を選ぶ代わりに全ての瞬間移動装置間を飛ぶ事が出来る。連携さえしておけば、親機から親機へ、親機から子機へといった風に制限なく飛ぶ事が可能だ。


『なんだなんだヒーローともあろうものが使ってるのは旧式かよ。ひひひ、ならやり方は簡単だ。助手君、旧式の瞬間移動装置は人体にマイクロチップ埋め込むタイプではなく、カードキーによる起動だ。ウルフから受け取っているな』

「あぁ」


 スーツのポケットから昨日の夜にウルフから預かったカードキーを取り出す。見たところカードの挿入口は見当たらないので、カード内部のチップを読み取っているのだろう。


 瞬間移動装置の上にカードキーを置き機械の起動を待つが、反応はない。俺のやり方が間違えているのか?


『ひひひ、まぁそうだよな!生死不明のヒーローが持っていたカードキーなんか敵に利用されても困るから使用出来ないようにロックをかけるに決まっているぜ』

「つまり、このカードキーは使えないという事か?」

『いや、ちゃんと裏技があるさ!ウルフから暗証番号とウルフの生年月日、日本支部の司令官の生年月日を聞いているな』

「全て耳にしている」


 本当に必要なのかと思いながらマッドサイエンティストに言われるがままにウルフから聞き、暗証番号とウルフの生年月日はスマホのメモ機能に入力しておいた。司令官の方の生年月日は俺の親父と一緒だった為、メモはしていない。


『それじゃあフォリ様の言う通りに操作するんだぜ!』


 瞬間移動装置の側面をよく観察すると赤く点滅している部位がある。その部分が瞬間移動装置の『上』という扱いになるらしい。

 ソレを踏まえた上でマッドサイエンティストに操られるように、瞬間移動装置を触っていくと、ATMなんかでよく見る画面が浮かび上がってきた。数字の他にアルファベットのCとEの文字があるが、C(クリア)E(エンター)のだろうな。


『旧式を使ってるようじゃまだまだ!セキュリティもあまあま!フォリ様にかかればこんなもんだぜぃ!』

「今の操作はなんだ?」

「開発者だけが知っているマスターコードってやつさ。それはまぁいいから、フォリ様の言う順番通りに数字を打ち込んでいけ」


 最初に打ち込むのは司令官の生年月日。打ち込んだら一度C(クリア)を押してウルフの生年月日を打ち込む。同じような手順でCを押して最後に暗証番号を打ち込みE(エンター)を打ち込む。


「今のもマスターコードか?」

『ひひひひ!助手君も良く分かってるじゃないか!この瞬間移動装置を生み出したのを誰だと思ってる!何を隠そう!この大天才フォリ様が開発したのさ!』


 顔は見えないが間違いなくドヤ顔をしているだろう。容易に想像がつく。


 聞いてもいないのに開発の苦労話をマッドサイエンティストが語り始めたのを適当に聞き流すこと15分、ようやく瞬間移動装置が起動した。正規の起動法ではないから時間がかかったのようだな。

 コレで何時でも使用する事が可能という訳だが、今これを使えば敵陣地のど真ん中に俺一人で突入する事になる。


 死にはしないだろうが、流石に面倒なので情報だけ読み取って電源を切っておこう。


『よくやった助手君!これだけのデータがあればどこの拠点かが割り出せる⋯⋯なるほど⋯⋯ひひひ、そんなブラフにフォリ様が引っかかるかって⋯⋯ほい、ほいっと!む?⋯⋯っ!目がぁぁぁ、目がぁぁぁぁぁ!!』




 ───五月蝿かったので通話を切った。




 一先ず俺の仕事は完了だ。瞬間移動装置を元の位置に戻し、俺が触れた形跡を消しておく。あとはマッドサイエンティストが子機の転移先を割り出すのを待つだけだな。それまでウルフとサンシャインの戦いの様子を眺めているとしよう。


「ほぅ⋯⋯」


 ───戦況は変わらずウルフが優勢。

 シャインホワイトによってシャイングリーンが治療されたらしく戦線に復帰していた。

 前線担当しているシャインイエローのサポートを徹底しており金塊を飛ばしたり、金塊が壁を作ったり、なかなか鬱陶しい動きをしていた。


「ちっ!鬱陶しいなぁ、おい!!まとめて!吹き飛ばす!!!」


 流石に埒が明かないと判断してらしく、ウルフがヒーロー達から大きく距離を取る。大技で一気に決める気だな


「あかん!やばい一撃くる!避けぇ!」

「今から避けるのは無理ぽよー。だからあーしを守れよ優馬、役目でしょ」

「金持ち使いが荒いギャルだね!見よ!これぞ金持ちフルパワーガード!!!」


 ───ウルフの飛び蹴りによって金塊ごと蹴り飛ばされたシャイングリーンが再び宙を舞い、しれっと避けていたシャインホワイトが爆笑していた。


 緊張感のない戦場を呆れながら見ていると、ボスから緊急の連絡が入った。


「なんだと!?」


 流石の俺も思わず声が出てしまった。













 ───明日、ボーナスが支払われるらしい。ボスが待っている隠しアジトに一人で来いと言われた。

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