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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第二章 悪の天秤

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第四十八話 太陽

 場所を変えないか、という太陽の提案に乗って日の出前の薄暗いを道を二人で歩く。


 特に場所を決めずに歩いていたが、先導する太陽が向かった先はかつて二人で遊んだ思い出の地。


 さりとて、二十代も後半へと差し掛かれば幼少期の記憶というものは薄れていくものだ。たどり着いた場所に待っていた変わり果てた公園を見て、本当に此処であっているのかと疑問に思ってしまった。


「なんや、えらい遊具減っとるやんけ」

「子供の事故防止の為だろうな」


 親友(とも)と遊び、青春を過ごした公園は姿を変えて俺の視界に映っていた。幼少期のやんちゃだった俺たちは本来の用途とか違った遊び方をしていた覚えもある。


 そういった遊び方が怪我へと繋がり、現代では怪我の抑止の為に遊び方の注意ではなく遊具そのものを撤去する手段を用いた。


 その結果とも言うべきか、かつての遊具の姿は跡形もなく、残されたものは鉄棒と塗装の剥がれたベンチだけ。何とも寂しい光景だ。


 先を歩く太陽は『子供の遊び場も少なくなったなぁ』と小さな声でぼやきやがら、ベンチへと腰を下ろした。


 以前であればその隣に腰を下ろして思い出話の一つや二つした事だろう。だが、残念ながら今はできそうにない。ベンチに腰を下ろした太陽を見下ろす形で視線を向ければ、暗く淀んだ瞳と目が合った。


「ええの?彼女さん一人で家に残して」

「夏目なら問題はない。それにあいつがいれば話しにくい事もあるだろう?」

「せやなー」


 夏目との関係は恋人関係ではないが、否定すれば関係についての追求が待っている。説明するのも面倒に思い、そのまま話を進める事にした。


 今のやり取りから分かる通りこの場にいるのは俺と太陽の二人だけだ。夏目は家で一人、俺の帰りを待っている。


 わざわざ場所を移したいという提案を俺にするくらいだ。二人で話したい事があったのだろう。太陽からすれば家に夏目がいた事は予想外だった筈。


 夏目もまたその真意を理解して俺たちに付いてくるような真似はしなかった。心配そうな表情が付いて行きたいという想いを物語っていたがな。


「先に聞いておこうか。此処で話すような内容か?」


 日の出前というのもあり、近くに人の気配はない。とはいえ、公園に隣接する位置にはアパートもありそこに住む住人もいる。大きな声を発すればその内容は第三者に聞かれる。


 俺からすれば大切な話をする場として、この公園は相応しくない。何時ものように雑談をする為にわざわざ会いに来た訳ではない筈だ。


「此処で話したいんよ、俺は。颯斗と、思い出の地でもあるこの場所で」

「そうか」


 ───思い出の地か。


 幼少期⋯⋯小学生の頃までは此処で良く遊んでいたか?


「覚えとる?此処で鈴木君を虐めとった横山たちと喧嘩したの」

「苦い思い出だな」


 昔から正義感が強かった太陽はイジメをしていた横山たちの事を許せなかった。大人を頼ったり、周囲を味方に付けるなり⋯⋯今になって思えば他にも取れる手段は幾つもあった。


 だと言うのに俺と太陽が取った選択はあまりに幼稚で、テレビに映るヒーローのように戦う事を選んだ。


 こちらは俺と太陽の二人。相手は同学年にしては体格の良い横山とその取り巻き4人。無謀な戦いだった。


「ガキ大将相手によく勝てたと今でも思うわ」

「勝ててはいない。喧嘩両成敗だ」


 俺と太陽は喧嘩が強い訳ではない。その上相手の方が体格も良く、数も多い。ヒーローのように立ち向かったが、理想と違ってボコボコにされた。


 それでも、諦めはしなかった。ボコボコにされて、痛みに泣きながらも、俺たちは横山たちに立ち向かっていった。そんな俺たちに横山たちが怯んでいたな。


 そんな俺たちの無謀な喧嘩は、鈴木が呼んだ先生の介入によって治められた。


 勝ててはいない。けど、負けてもいなかった。俺たちもボロボロになって泣いていたが、横山たちも同じように泣いていた。


「颯人と仲良くなったんは、あの喧嘩がきっかけや。此処で颯人と深い絆で繋がった」

「ある意味で⋯⋯あの喧嘩がきっかけか」


 席が隣同士だった事で関わるようになり、遊んでいるうちに友達となった。


 ───気付けば20年近い付き合いか。


 友達と呼べる者は太陽以外にもいるが、親友と呼べるのは太陽だけ⋯⋯。


 無謀な挑戦を二人でしたからこそ、絆はより深まった。それは否定しない。


「此処で色んな事があったな⋯⋯」

「そうだな」


 ───薄れていった小学生の頃の思い出を必死に思い出しながら、二人で思い出話に花を咲かす。


「颯人がフラレたんもこの公園やったよな?」

「フラれてはいない。好きだった相手に恋人がいた事が発覚しただけだ」


 ───楽しげに太陽は語っているが、俺からすれば苦い思い出だ。


「颯人にとってはええ思い出がない場所やったりする?」

「それは太陽もじゃないのか?」

「え?」

「お前、この公園で漏らしてただろ?」


 ───その時の事を思い出したのか、太陽がぐぇっと声を漏らす。


 長い付き合いだからな。お互いの黒歴史はよく知っている。


「あかん、ホンマにええ思い出ないやん」

「苦い思い出の方が多いだろうな」


 ───記憶を遡れば遡るほど、嫌な記憶が蘇ってくるが、楽しい思い出よりも嫌な記憶の方が鮮明に残るのが要因だろうな。


 楽しい思い出も、あった筈だ。


「あ!颯人と仲直りできたんはこの公園のお陰ちゃうかった?」

「そうだったか?」


 些細な事で喧嘩して、暫くはまともに顔すら合わせなかった。二人揃って意地になっていたのが大きい。


「此処で颯人が謝ってきたのを覚えとるわ」

「いや、太陽が謝ってきた筈だ」

「いやいやいやいや、颯人やって!あの時の俺なんも悪い事してへんもん」

「それは俺もだ。あの時の喧嘩に俺に非はなかった。だから太陽が俺に頭を下げて謝ってきた」


 ───は?


「先に謝ってきたんは颯人やって!」

「記憶違いじゃないか?先に謝ったのは太陽だった」


 互いの主張が食い違い、どうでもいい言い合いになった。


 ───嗚呼⋯⋯そうだ。


「くくくくく⋯⋯ふふははは」

「⋯⋯なんやねん、急に笑い出して」

「いや、あの時の喧嘩の原因も⋯⋯主張の食い違いだったと思い出してな」

「⋯⋯せやったな⋯⋯ホンマに、くだらない事で喧嘩してたわ」


 二人して笑い合う。


 大きくなるにつれてそんな子供のような喧嘩は減っていったな。大人になった今では、喧嘩するような事もなくなった。


「なぁ颯人⋯⋯」

「なんだ?」


 太陽の声のトーンが落ちる。それは昔話の、たわいのない雑談の終わりを告げていた。


「何時から俺たちはぶつかり合う事を避けるようになったんやろうな⋯⋯」


 それだけ言って、俯いて地面を見つめる太陽。寂しさすら感じるその姿に、何か言葉をかけるべきと思いながらも、言葉として口に出る事はなかった。


「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」


 数秒の沈黙が続いた後、先に口火を切ったのは太陽だった。


「何も言わへんのやな」

「何をだ?」

「何時もやったら直ぐに聞いてきたやん⋯⋯。俺が背負っている剣⋯⋯気にならへんの?」


 背中に背負った剣を指さす太陽。


 部屋で会った時も、公園まで先導する道中でも、ずっと視界に入って目障りで仕方なかった。


 それでも自分から剣について触れる事はしなかった。心のどこかでそうじゃない可能性に縋っていたか?


 愚かな考えだと思わず自嘲する。


「ヒーローの装備か何かか?と聞くのが自然か?」

「せやな⋯⋯。けど、ちゃうんよ」


 悪の組織(ベーゼ)の幹部ではない俺ならばこう聞くだろうと、絞り出した問いかけは太陽に否定される。


 分かっていた事だ。太陽があの剣を背中に背負っていた時点で、最初から。


「その剣から聞いたんだな?」

「⋯⋯⋯⋯」


 俯いていた顔がゆっくりが上がる。


 ───色んな感情が混ざり合った目だ。


 怒り、悲しみ、恐れ、苦しみ、憎しみ。


 負の感情。そこにあるのは俺の知らない太陽の瞳。俺が変わったように太陽もまた変わった。


 きっかけは太陽の父親が怪人によって拉致された⋯⋯事実上の死。


 憎しみや怒りに駆られるように太陽はヒーローとなった。あの時点では俺に対して負の感情をぶつけるような事はしなかった。だが、今は違う。太陽は知ってしまった。


 ───俺が悪の組織(ベーゼ)の一員である事を。


 聖剣(あのおんな)がどこまで話したから知らないが、少なくとも仮面の怪人(ペルソナ)である事は伝えている筈だ。


「俺の事、騙してたんやな」

「⋯⋯そうだ」

「否定⋯⋯せぇへんのか」

「する気はない。事実だ」


 ギュッと拳が強く握られた。


「なんで!なんでや!」


 勢いよく立ち上がった太陽の右手が伸びて、俺の胸ぐらを掴む。昔の俺なら少しは苦しさを感じたか?


「なんで颯人(おまえ)が!悪の組織(そっちがわ)におんねん!!!!」


 怒り⋯⋯いや、それ以上に感じるのは悲しみか。


 どういう想いで俺と向き合っているのか、分からないほど鈍感ではない。


 だからこそ、俺の胸ぐらを掴む手を怪人()として振り払う。


「なっ───!」

「何を語ったところで、太陽(おまえ)が納得する回答になりはしない」


 どれだけ抗弁を垂れたところで相手が納得しなければ意味はない。いや、そもそも俺の語る言葉に正当性などありはしない。


 理由もない。


 原因もない。


 流されるままに悪に堕ちた。


 死にたくない。ただ、その一心で。


「現実もまた、何も変わらない」

「っ───!!」


 太陽(おまえ)は否定して欲しかったんだろ?


 聖剣(あのおんな)に何を聞かされたか知らないが、俺が悪の組織(ベーゼ)の一員ではないと、そう言って欲しかった。


 長い付き合いだ。お前の想いは手に取るように分かる。


「俺は悪の組織(ベーゼ)の一員だ。お前の父親を殺した組織に所属し、お前の先輩を殺した張本人であり───」

「⋯⋯⋯⋯」

「世界の敵だ」


 太陽が拳を強く握り締め、何かを噛み締めるように唇を噛む。その様子を眺めながら周囲に起きた変化を感じ取る。


 ───少し騒がしくなかってきたか?


 もう直ぐ日が昇る時刻だ。


 太陽の怒声も静かな空間ではよく響いた。公園に隣接するアパートの一室、また一室と明かりが点っていく。寝ていた者もいたと思うと、申し訳ない気持ちにもなる。


「話は終わりだ」


 直に人もやって来るだろう。話を聞かれるのも、姿を見られるのも好ましくはない。この場を去るのが最良の選択だな。


 スーツのポケットから小型の瞬間移動装置を取り出す。


「この場では殺さない。それが親友に対する⋯⋯せめてもの慈悲だ」


 悪の組織(ベーゼ)の幹部として、この場で何もせずヒーローを見逃すのは許されない行為だろう。だが、今この場だけは⋯⋯悪の組織(ベーゼ)の幹部としてではなく親友として⋯⋯。


「太陽⋯⋯」


 瞬間移動移動装置を起動し最後の言葉を告げる。もう二度と親友として接する事はないだろう。そう、思っていた。



 だからこそ、その言葉は───


「次に会う時は親友としてではなく敵として───」

正義の味方(ヒーロー)として!親友として!俺が颯人を止めたる!!!せやから覚悟しときぃ!!!!」













 ───太陽のように眩しかった。

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