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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第二章 悪の天秤

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第四十三話 妹

 佐藤さんの実験は無事に成功した。と言っても最初から分かりきった結果ではあった。


「見た目は殆ど変わらなかったな」

「ひひひ、これは凄いな。ここまでの逸材は助手君以来だぜぃ!」


 怪人へと至った事で肉体の変化はあった。だが、それはウルフやロビンソンと比較しても分かるほど最小限。


 佐藤さんの変化は額に二本の小さな角が生えた程度。それはまるで鬼のようで。彼は正しく()()()へと生まれ変わった。


「適合率は幾つだ?」

「聞いて驚くなよ!その数値はなんと!なんと!94%だぜ!」

「そうか」


 なるほど、マッドサイエンティストが逸材と評価する訳だ。極めて完璧に近い適合。俺とマッドサイエンティストの期待を裏切らない成果を佐藤さんは出した訳だ。


 怪人へ変異して直ぐにナイフを片手に襲いかかってきた事だけは、減点だがな。


 その場で取り押さえて理由を聞いたら『好きな人の血が見たいから』等と適当な事をのたまっていたので、気絶させて床に転がしている。


「なぁ、助手君⋯⋯。適合率の高さは悪人であるほど上がるというのがフォリ様と助手君の見解だった筈だ」

「そうだな。それは検証を経て辿り着いた結論だ」

「その上で分かった事があるぜ。それは、人を殺した数は適合率には関係ないという事だ」

「一つの基準だな」


 マッドサイエンティストが言いたい事も理解出来る。今回の実験の結果でまた新たな知見を得た。


 人を殺せば殺すほど怪人細胞の適合率が上がるのかといえば、実はそうではない。怪人へと変異した悪人の中には佐藤さんよりも多く、人を殺した者はいた。


 だが、その適合率は平均より高いが、突出した数値ではない上に自我も持っていなかった。重要なのは殺した数じゃない。心の邪悪さ。あるいは狂気といったところか。


 その場合、何故ウルフの適合率が高いのかが疑問に残る。ウルフからは佐藤さんやロビンソンのように分かりやすい狂気や邪悪さは感じない。それはポチも同じか。


 共通点を探してそこから絞っていくという選択肢もあるがなかなかに、骨が折れる作業だ。特にその者がしてきた行いではなく、内面が影響しているのであれば解剖したとしても、答えには辿り着けない。


 内面を知るには会話を交えるしかないが、捕らえた素体一人一人と対談するのはそれこそ時間の無駄だな。怪人細胞の知見が進んだように見えて何も変わっていない。まだまだ謎が多い細胞だ。


 素体に関する基準は出来たから良しとしよう。闇雲に素体を攫うよりも、悪人に絞って拉致した方が効率が良い。それは組織全体に共有して行う。そうする事で無駄な犠牲も減らす事が出来る。


「一先ず、これからの方針としては前回の作戦で消耗した怪人の補充を優先するでいいだろう」

「そうだなー。けど、それよりも優先する事があるぜ助手君!」

「ボスのメンタルケアだな」

「その通り!」


 ビシッと俺の方を指さし『頼んだぜぃ』と他人事のようにほざくマッドサイエンティストを張り倒したいと思った。


 帰ってきて直ぐに佐藤さんへの実験を行っていたが、その最中に延々と愚痴を聞かされた。部屋に閉じこもったボスを説得するのがどれだけ大変だったか。


 どうにかして扉を開かせて怪人細胞を採取出来たそうだが、その後がまためんどくさかったらしい。センチメンタルに浸ったボスが昔の事を思い出して泣き、親父のこと浮かべて怒り、死んだ事を実感して喜ぶ。


 聞くだけでめんどくさいのが分かる。俺はコレのメンタルケアをしないといけないのか?テンションの下がる話を聞いてしまったな。


「さて、そろそろ真面目な話をするとしようか助手君」

「今の今まで真面目じゃなかったのか?」

「ひひ、まぁね。それほど重要ではないさ」


 よっこいしょと、椅子に腰掛けたマッドサイエンティストが机に頬杖をつきながらニヒルに笑う。冷たい笑みだな。マッドサイエンティストにとって『ボス』の価値はその程度のものか。


「それで、聞きたい事があるんだろ?」

「そうだな。聞かせて貰わないと困る事がある」


 ───妹の言葉が脳裏を過ぎる。




『パパを殺して、今どんな気分?』




 その場で殺してやろうと思った。妹とか家族とか関係なしに、俺の神経を逆撫でするその発言に殺意が沸いた。


 あるいはその殺意に気付いたからこそ、妹は直ぐにある人物の名をあげた。


「その様子だと、助手君の元に訪れたみたいだね。やれやれ⋯⋯こっちにはなんの報告もないぞ」

「いつから妹と繋がっていた?」

「ずっと前さ。助手君が怪人になる遙か前から」

「お前の手先だった訳か」


 妹はマッドサイエンティストが『ヴレイヴ』に送り込んだスパイだと語っていた。それが嘘ではないのは長年の付き合いから分かったが、同時に何を信じたらいいか分からなくもなった。


 俺以外の家族全員がこの騒動に関わっていた。俺だけが何も知らず⋯⋯流されるままに悪の組織(ベーゼ)の一員となった。


「ひひひひ!手先?違うぜ!助手君の妹───『フィクサー』とは上司や部下の関係じゃない。協力者さ」

「協力者だと?」

「そうさ。フォリ様たちが世界を支配し、世界に変革を起こした方がフィクサーにとって都合が良かった。だからこそフォリ様に接触し、協力関係を築いた。そして目障りなヒーロー共の情報を提供してくれた」


 日本の隠しアジトも、USAもイギリスの罠も、ヒーロー共が動こうとすると事前に妹から情報が提供された。


 その情報の提供がなければ幾つかのアジトがヒーローに突入され、俺たちは今以上に危機的状況に陥っていただろう。


「今の世界は、妹にとって生きづらいということか」

「ひひ、なに他人事みたいに言ってんだ助手君。残念ながら無関係じゃないんだぜぃ」


 それはもう楽しそうにマッドサイエンティストが笑い、最悪の一言を俺に突きつけた。


(フィクサー)は助手君と結婚して子供を産みたいのさ!だが、今の世界ではそれが叶わない!世界の変革を望んでいるのは全て助手君への愛!良かったな助手君!君の妹は近親相姦が望みのド変態だぜ!」


 ───脳が理解を拒んでいる。


 現実から逃れる為に思考は巡り。













 

「この部屋に、酒置いてあったよな」

「あるぜ!」


 飲まずにはいられなかった。

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