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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第二章 悪の天秤

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第三十七話 策略

 ───親父が使っていた剣だ。


 巨竜の姿となったボスに踏みつけられ、遺体と一緒に跡形もなく消滅したと思っていた。その剣が何故か俺の家にある。


 現地に落ちていた剣を持ち帰った訳ではない。


 アジトでの話し合いを終え、筋肉痛の体にムチを打って夏目と共に帰った俺の家の床に、この剣は突き刺さっていた。帰宅した俺たちを迎え入れるように金色の光を放っていたな。


 頭の中に『敷金』という言葉が浮かび上がったが、些細な事だと気にしないようにした。


 夏目が気味が悪いと一度捨て行ったのだが、翌日の朝になったら同じように刺さっていた。まるで呪いの人形だな。


 朝イチにブチ切れた夏目がへし折ろうとしていたが傷一つつかず、俺も筋肉痛で体を動かすのがダルいので放置している。


 正直、どういう原理で俺の元へやってきたのか分からず不気味で仕方ないな。それに最後に見た時から少し形が変わっている。


 マッドサイエンティストの話では、親父のかつての戦友たちの魂がこの剣に宿っていると言っていたか。同様に親父の魂もこの剣に宿ったのかも知れない。


 その証明のようにブレイドに埋まった宝玉の数が一つ増え、存在感を放つように金色の光を放つ。鬱陶しいから物置にでも放り込んでおくか。


 チカチカと光を放つ剣を夏目も鬱陶しそうに見ている。気持ちは同じらしい。


「先輩⋯⋯」

「ん?⋯⋯あぁ、例のやつか」


 夏目の視線の先を追うと、黒い画面に赤いウロボロスの紋様がテレビに映っている。昨日の話し合いでマッドサイエンティストが言っていたやつだな。


 全ての放送局をジャックして全世界に同時に放送している筈だ。


『聞こえているかぁ!この世界の愚かな住人共よ!』


 ───ボスの声だ。


 ただ、ボスは現在進行形で燃え尽きており、部屋で尻尾を抱いて眠っているという報告がきている。これはあらかじめ収録しておいた音声だな。


 しばらくボスの演説を聞いているとテレビの画面が変化し、怪人とヒーローが戦う映像が流れる。これは先日のイギリスでの戦いだな。


 更に画面が切り替わり竜の形態のボスがヒーローを薙ぎ払い一蹴している。煌びやかな光を放ちながらそびえ立つビルの群れは見覚えがある。ボスが暴れている場所は中国の上海か。


 中国政府による経済成長と国際的地位向上を象徴する権力の表象とも言えた高層ビルの群れ。それがボスによって次々と破壊されていく。


 また、画面が切り替わる。


 場所はフランスの首都パリ。フランス革命100周年を記念して建てられた鉄骨の塔。パリのラウンドマークでありフランスの象徴とも言えるエッフェル塔が怪人たちの手で倒壊していく様子が映されている。


 また、画面が切り替わる。


 場所はシンガポール。最初に映ったものが象徴とされるマーライオンだった為、国は直ぐに分かった。先程までの映像を見ていれば何をするかは簡単に予想がつく。案の定、怪人たちの手によってマーライオンが破壊されていく。


 これは何の嫌がらせだ?


 次々と映像が切り替わり、国の象徴とも言える建造物が破壊されたり、国によっては都市部のインフラが破壊されたり、宗教組織のトップが殺害されたりとかなりの被害が出ている。


 映像がまた切り替わり、今度は竜の姿をしたボスが演説を始めている。


「これってヒーローが悪いですよって言ってんだよな?」

「回りくどく話しているがな」


 演説の内容を要約すると、映像で流れた怪人による被害は全てヒーローたちのせいだと責任を擦り付けようとしている。


 ヒーローたちが悪の組織(おれたち)のアジトを探るような真似をしなければ、こちらもこのような行いをしなかった、と。


 全面的に悪いのは破壊活動を行った悪の組織(おれたち)なのは間違いない。ただ、今回の報復とも取れる破壊活動は全て、ヒーローたちに責任があると、強く訴えかけている訳だ。


 普通に考えれば悪の組織(ベーゼ)が悪いで済む話ではあるが、『ヴレイヴ』がちょっかいをかけて虎の尾を踏んだ結果の報復だと、非難の声が上がる事が予想されている。実際にアメリカでは前回の報復で非難の声が上がったからな。


「うわ、国同士でもいがみ合わせるつもりなのか⋯⋯」

「そのようだな」


 テレビの映像を見て、夏目が若干引いている。元が正義の味方というのもありマッドサイエンティストが考えた策略に否定気味なのかも知れないな。


 ───あえて国名は上げないが、資金の提供と共にとある国を襲ってくれとのお願いがあったと、ボスが演説している。


 今回の被害にあった国の幾つかは要請があり、積極的に行ったと。


「なぁ、先輩。この資金提供って実際にあったのか?」

「資金提供があったのは事実だ。だが、()()()()()()()()()国を襲ってくれという要請はない」


 悪の組織(ベーゼ)に対して資金提供を行っている国は幾つか存在する。俺たちが世界を支配した時を見据えて、国としての地位の向上を狙って擦り寄っている国もあれば、他国を陥れる手段として使っている国もある。


 ───今回の演説で非難の声は『ヴレイヴ』に向き、国同士でどの国が悪の組織(ベーゼ)に要請したか探り合い、いがみ合う。


 元々国同士で仲が悪い国ほど悲惨な事になるだろう。今回植え付けた疑心暗鬼の種は簡単には取り除けない。


 悪の組織(ベーゼ)という世界の脅威がいるにも関わらず、人間同士で争いあう。




 ───なかなかにえげつない手を使う。




「これでしばらくは時間が稼げる。今のうちに組織の体制を立て直さないといけない」

「あー、怪人かかなり減ってたもんなー」

「『アルカトラズ島』で捕らえてきた素体はほぼ無くなったと考えていい。また、候補をピックアップする必要があるな」


 イギリスでの戦闘でもそうだが、映像で流れた破壊活動で多くの怪人を使っている。無事にアジトに帰還したのは全体の一割。


 ヒーローによって多くの怪人が倒されてしまった。しばらくは素体の補充に専念だな。


 まぁ、なんとかなるだろう。











 ───その日の夜。


 これが夢であると瞬時に理解した。


 夢でなければありえない光景が目の前に広がっていたからだ。


「やっと会えたね颯人!ほら、遠慮しないでママに甘えておいでーー!!」


 ───知らない金髪の女が、ママを自称して迫ってきた。夢であって欲しいと強く願った。


 

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