HEROES SIDE 3. もう一つの世界Ⅴ
こっちの世界でも博士の世界みたいに戦いが起きてるのは、博士のオカンが装置を作り悪の組織のボスと一緒に逃げ込んだせい。
けど、そこに至るまでに色々とやらかしてる存在もおるんよな。
そもそも竜が神に喧嘩を売らなければ戦争は起きてへんし、神が人族に『異世界から救世主を呼ぶ術』なんて授けてへんかったらこっちの世界は無関係で終わったんや。
博士の世界の人間がもう少し自分で頑張れたら、また違ったやろう。ナポレオンに一度救われたせいで、直ぐに救いを求めたんやろうけど。
俺から言わせたらそっちの問題はそっちで解決してくれって話やわ。なんでこっちの世界まで巻き込むねん。
颯人のオトンたちは召喚されて戦いに巻き込まれた側なんはしゃーないわ。けど、種族を滅ぼすのは悪手やった気もするなー。遺恨が残るで確実に。
話し合いとかでは無理やったんかな?殺して、倒して、滅ぼして終わりなんて最後に行き着く手段とちゃう?
実際の戦場とか現場を知らん俺が言える事ではないかも知れへんけど⋯⋯。
ほんでもって、せめて頼むから悪の組織のボスを倒しとってや!颯人のオトンに両親を殺されとるし、戦争にも負けたしで悪の組織のボスが人間の事めちゃくちゃ憎んでるのが手に取るように分かるわ。
そんな存在がこっちの世界に逃げ込むってヤバいで。実際ヤバい事になってるやけど⋯⋯。
「んー、なるほど」
隣に座る博士がスマホを操作し、何やら険しい顔で考え事をしている。何やろうか?
「何かあったんですか?」
「つい先程中国の拠点から連絡が入ってきてね。どうも上海の方でユーベルが暴れていたらしいんだ」
「悪の組織のボスが?」
「そうそう。既に撤退した後らしいけど、タイミングが嫌な感じなんだゾ。これはやられたくさいかな」
俺とは違うビジョンが博士には見えとんやろうな。中国の方で悪の組織のボスが暴れてて、もう撤退したって話やろ?
ヒーローが撃退したんやろうけど、被害が思ったより大きかったんやろうか? タイミング⋯⋯陽動? それは違う気もするな。
「まぁ、対策は後で考えるとするゾ」
そう言いながらもスマホを操作して、何やら指示を出している様子やね。俺は特にする事もなかったから、机の上のクリアファイルをペラペラと捲って中身を確認する事にしたわ。
一応、続き見てもええか確認はしたで。機密情報が乗ってたらあかんし。
「なるほどなるほど」
クリアファイルに挟まれた絵とか書かれた情報を見ると戦争が終わった後、博士のお母様が作ったであろう装置を解析し、行き先が俺たちの世界である事が判明。
その機械を使って悪の組織のボスたちを追おうとしたけど、しっかり対策済みで使用出来ないようにセーフティをかけていたみたいやね。
幸いな事に現物があったお陰で、博士のお爺様や生き残りのドワーフの職人が協力し、全く同じ装置の複製に成功。
その装置のお陰で颯人のオトンたちはこっちの世界に帰ってくる事ができたみたいやな。
博士の世界の住人は世界に残って欲しいと懇願したみたいやけど、悪の組織のボスが逃げ込んでいるのが分かっている以上放置は出来ないと戻った訳や。
颯人のオトンと一緒に召喚された四人に加えて、博士のお爺様と博士、それと颯人のオカンもこっちの世界に来たみたいや。
へぇー、颯人のオカンって精霊やったんやねー。道理で外見が日本人やない訳や⋯⋯。
「って!初めて知ったわ!」
───頭可笑しくなりそうや。なんやねんこの情報の量は⋯⋯。
「博士の世界で過ごした時間は、こっちの世界でもちゃんと過ぎていたと」
颯人のオトンとか高橋はんは行方不明扱いになってたりで色々と騒がしかったみたいやで。その間に動いたのは一緒に召喚されていた人たち。
そのうちの一人がアメリカの資産家であったらしく、こっちの世界に逃げ込んだ悪の組織のボスを探す為に秘密裏に組織を立ち上げた。それが『ヴレイヴ』の前身やね。
このアメリカの人が『ヴレイヴ』の総帥やったと思う。実際に会ったことはないけど、名前と写真を高橋はんに見せて貰ったから覚えとるわ。
で、博士のお爺様や博士、それと颯人のオカンとかの身元の情報を捏造してこの世界で住めるようにしたのもこの人や。お金の力って凄いな。
けど、肝心の悪の組織のボスは見つからなかったみたいやわ。世界中を探したみたいやけど⋯⋯。
「見て分かる通り、僕様の母は上手くこの世界に潜伏していてね。時間と人を使って探しても見つからなかった」
「みたいやねー。途中で方針を切り替えとるわ」
探すのを止めた訳やなくて、探しながら悪の組織のボスが動き出した時に対応出来るように備える方針へと変えた。簡単に言えば戦う準備を始めただけや。けど。
「竜とか神とかを殺せるくらい強い、颯人のオトンたちがおるのに博士たちはヒーロースーツの開発をしてたん?」
「それはね、こっちの世界に帰ってきて総一郎たちが弱体化したからだゾ」
「え?弱くなったん?」
「総一郎たちが突出した強さだったのは、僕様の世界に召喚された際に神に与えられた加護のお陰だったんだゾ。こっちに戻ってきて」
「加護がなくなってしまったと⋯⋯」
博士が頷く。
完全になくなった訳ではないけど、全盛期の半分くらいの力しか出せなくなったって書いてあるわ。
このままでは悪の組織のボスを倒せないと判断し、戦う為の武器の生産を開始。博士のお爺様が様々な武器を生み出した。
日本支部の武器庫とかに大量に置いてあったけど、それが多分お爺様が造った武器よね?
そして、たまたま見た特撮から変身スーツのアイデアを得て制作を始めたそうやで。かなり難航したらしく完成まで10年の月日がかかったみたいや。博士も10歳くらいから開発に携わっていたみたいやね。
「これ見てる限りやと、ギリギリやったんやね」
「そうだねー。完成まで後一歩ってところで、最後のピースが見つからなかった。総一郎は試作品のヒーロースーツで出撃したからヒヤヒヤしたゾ」
世界で一番有名な、初めてヒーローが現れた時の事やと思う。それまで誰も手も足も出ず、暴れる怪人と悪の組織のボスを見ている事しか出来なかったところに颯爽と登場して、悪を倒す。痛快な映像やで。
それにしても颯人のオトン、本当に強いな。
全盛期の半分の力、かつヒーロースーツは試作品やったのに悪の組織のボスをボコボコにするとか⋯⋯。
正に最強のヒーローやな。
「総一郎が持ち帰った怪人のお陰で最後のピースが見つかりヒーロースーツは完成した」
「なるほどなー」
最後のピースが怪人ってとこが気掛かりやけど、博士の黒い笑みを見ると追求せんほうが良さそうやわ。
俺の予想でしかないけど、ヒーロースーツに怪人細胞が使われているような気がしてます、はい。聞きはせーへんけど。
「悪の組織のボスって人間の事、恨んどるやろ?」
「それはもう恨んでるだろうね」
ここまでの話を聞いて、分かった事は博士の世界で起こった戦争が場所を変えてこの世界で行われているという事。
もう一つは、めちゃくちゃ人間を恨んでいるのが分かるので和解はほぼ不可能という事。
「特に颯人のオトンの事、恨んどるよな?」
「親の仇だから蛇蝎のごとく嫌っているし、憎んでいると思うゾ」
「そうよなー」
悪の組織のボスの立場で考えれば、そうなっても仕方ないとは思うで。
だからって許せる訳ではないけどな。
「颯人って大丈夫やろうか?」
「総一郎の息子かい?」
「せや。憎くて憎くて仕方ない相手の息子に手を出すって良く聞くやん」
特に颯人のオトンみたいに強過ぎて本人には手が出せないパターンやと、身内を狙うのは選択肢として上がってくるわ。
人質やったり、お前のせいで息子は死んだ⋯⋯みたいな嫌がらせの意味でも有効や。せやから、話を聞いてる途中から颯人の事が気になって仕方ないんよな。大丈夫やろうか?
颯人のオトンは、この戦いに巻き込まない為に絶縁したみたいな事言ってたけど、物騒な今の世の中を考えたら突き放すんやなくて近くで保護しておいた方がええ気がするんやけど。
「それに関しては大丈夫だと思うゾ。総一郎は親バカだから、絶縁して突き放したって言ってもちゃっかり警護の者を付けてあるからね」
「そうなん!?」
「太陽君の時のように遠くから常に見守ってる者が付いているゾ。何かあったらボタン一つで総一郎の元に連絡がいく仕組みになっているから、息子に危険が迫ったら警護の者が持っている瞬間移動装置の元へと直ぐさま駆けつけるさ」
ちゃんと颯人の事は考えてくれてるんやね。
かなり用心しているらしく、一定時間毎に連絡を寄越すように命じてあるそうやわ。
「気になるなら見てみる?総一郎の息子についての連絡は僕様の端末にも届いてるから確認できるゾ」
「ええの?」
お言葉に甘えさせて貰って、博士のスマホから颯人についての報告を確認する。
最初の方は颯人が一日何をしていたか事細かく書き出した報告が来てたらしいけど、半年が経ったら流石に面倒になったらしく『異常なし』と短い報告だけで終わっとるな。
何かあったらボタン押して緊急の連絡するやろうし、細かい内容までは必要ないんかな?
チラッと中身見たらお風呂に入った時間まで細かく書いてあったし、颯人のプライベートの こと考えたらその方がええ気がするわ。せや!
「その緊急の連絡って俺にも届くように出来ます?」
「ふふふ。総一郎の息子は色んな人に愛されているなー。もちろんできるゾ。ヒーローとして親友を護りたい、その気持ちを尊重するゾ」
「ありがとうございます!」
俺はもう、これ以上失うのはごめんや。その為に手に入れた力やからな!ヒーローとして颯人の事も護ったるわ!
「ん?」
「何やら騒がしいね」
バタバタと複数人が廊下を駆け巡る騒音が響いている。
怪人が出現したって警報が鳴ってもここまで騒がしくないで。
容易ならぬできごととちゃうか、これ?
どうします?と、博士に問いかけようとした時、バンっと大きな音を立てて扉が開いた。
視線を入口へと向けるとそこには見慣れたモヒカンの男───砂糖はんの姿があった。
「⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯博士!」
砂糖はんの顔色が悪い。間違いない、悪い知らせや。
大きく息を吸って吐いて、息を整えた砂糖はんが震える声で俺たちに告げた。
「本日イギリスで作戦を遂行中のヒーロー『ワールド』が⋯⋯白星司令官が⋯⋯殉職したと、つい先程連絡がきたっス」




