HEROES SIDE 3. もう一つの世界IV
流石にびっくりしたわ。
ナポレオンの時も驚いたけど、見知った人が登場するんはそれ以上の驚愕や。畳み掛けるように召喚された五人の中には高橋はんもいた事を補足されたんやけど⋯⋯。
って、あの人も異世界経験者なん!?そういう素振りとか一切なかったやん!?颯人のオトンもそうやけど、異世界に召喚されてた割に普通に生活してへん?
なんかあるんとちゃう、普通?
あかんわ。情緒が可笑しくなるわ。急に色んな情報をぶん投げてくるせいで、理解が追いついても受け入れきれてへんわ。もう少し心の準備をさせてや、ホンマ。
「いい反応をするなー。流石は太陽君だ」
「俺で遊ばんといてくださいよ」
楽しそうに笑う博士に文句を言うと、ごめんねーと謝りながらクリアファイルを数ページ捲る。
自然と博士が開いたページに視線が向かう。そこには竜に剣を刺す人間の絵が描かれている。よくよく見ればその人間は颯人のオトンのように見えなくもない。
この絵の情報だけで何があったか察するんやったら、颯人のオトンが竜を倒したって事でええんやろうか?英雄になったって言ってたもんな。
「この絵見る限りやと、颯人のオトンが竜を倒したんやろうか?それで戦いが終わった」
「この絵は結末を描いたものだから、そういう解釈で間違ってはいないよ。ただ、そこに行き着くまでに壮絶な戦いがあったと言っておくゾ」
博士がまたページを捲る。そこに描かれた絵には数多の種族に囲まれながら孤軍奮闘する五人の人間。多分、召喚された五人やと思うわ。
「異世界から人族が召喚された時点ではかなり劣勢だったゾ。その五人突出した力を持っていたとしても戦況を覆すのは簡単ではなかった」
「数には勝てへんかったって事やろうか?」
「そうだゾ。人族の領地が大きかったのもあって、攻め入る大軍全ての対応まで手が回らなった。総一郎たちがいる場所で局地的な勝利を得ても全体で見ればジリジリと押されていった形だゾ」
異世界モノの作品みたいに無双する展開ではないんやなー。そうやわなー。アレはあくまでも創作で、作品を盛り上げる為のご都合主義みたいなもんやし。
現実は個人が突出した力を持っていても数が勝る方が勝つ。
「総一郎たちが召喚されて三年あまりは苦しい戦いが続いていたゾ。転機となったのは、総一郎たちと共に戦っていた『聖女』の死」
博士がページを捲った先に、血を流し倒れる女性と嘆き悲しむ男性の絵が描かれている。多分、これ颯人のオトンや。
「この世界では人を殺すことは禁忌とされているよね?」
「そうやね。国によって微妙に違いはあるけど、人を殺せば法の裁きを受ける事になる。場合によっては死刑やね」
「総一郎はね、そういう国で生きてきたからこそ敵対する相手であっても殺せなかった。なんとか殺さないように無力化する事に尽力していた」
───その甘さが、最愛の女性を殺した。
「無力化したと思っていた相手は、決死の覚悟で聖女を狙った。何故だと思う?」
「回復役やからよね」
「そう。ただでさえ強い総一郎たちに傷を癒す者がいるとどうなる?誰も彼らを倒せない。それを厄介視したからこそ、聖女を優先的に狙い殺めた」
RPGのゲームとかしてたら回復役の有り難さとウザさは分かる筈や。味方にいればこれ程心強い者はいないのに対して、敵にいればこれ程鬱陶しい敵はいない。
せっかく与えたダメージが回復する光景を見て苛立つ人も多いやろう。せやから多くは回復役を最初に倒す。それがセオリーや。
聖女はんは、それで狙われたんやね。
「聖女の死をきっかけに総一郎は変わった」
博士がまたページを捲る。
開かれたページには颯人のオトンと思われる人物が、無数の屍の上で剣を構える絵が描かれている。
───殺す事への躊躇いがなくなったんやね。
「最愛の女性を殺された総一郎は自分を責めた。聖女を護る事が出来なかった自分の無力さを憎み、考えの甘さを嫌悪し、認識の甘さに悲観した。そして亡くなった彼女の想いを引き継ぎ、戦いを止めるために剣を取った」
颯人のオトンの心情を思うと、かなりキツイでこれ。自分の甘さのせいで恋人が亡くなるとか、自分の事一生恨む自信がある。自己嫌悪とか酷かったやろうな。
「殺す事への躊躇いが消えた総一郎はたった一人で戦況を変えたゾ。攻め入る軍勢を一人で薙ぎ倒し、敵対する種族を次々と滅ぼしていった」
「滅ぼした?」
「そうだゾ。共に召喚された人間に過激な思想を持つ者がいたんだゾ。宗教戦争は根元から絶たなければ、同じような争いが何度も起こる。聖女のような犠牲者が増えると総一郎に説いた」
「それが大きく影響してるんやな」
博士が小さく頷く。
それが間違っているとは否定は出来へんのよな。二百年前の竜戦争がそうやろ? 戦いには勝った。けど、敵対勢力が逃げ延びた事で再び戦争が勃発した。
雑草と同じように根元から絶たなければ終わらない。いや、根元から絶ったとして本当に終わるんやろうか? 終わらん気がするなー。
「多くの種族が総一郎に滅ぼされた。その中には僕様の種族であるドワーフもいたゾ」
「⋯⋯えーと、自分の種族であっとるよね?なんでそんな淡白なん?」
「同族が滅びたのは悲しいと思うゾ。けど、過去に拘って何か得があるかな? 総一郎を恨んでも亡くなった同族は蘇らない。何より!当時はまだ僕様は赤子だったゾ。この話だって人伝に聞いたものだから実感がないのさ」
あ、博士が実際に体験した話ではないんやね。人伝って誰やろうか?
気になって確認すると、颯人のオトンとかの話は高橋はんから。戦争の話や世界についての話は、博士の祖父に聞かされたそうやわ。
「って、ことは博士のお爺様は生きてるん?」
「生きてるし、この世界にも付いて来てるゾ。今頃アメリカで技術者の育成をしているかな?早く育って欲しいねー」
ドワーフは滅ぼされたって聞いてたから、博士が最後の一人やと勝手に思ってたんやけどちゃうやん。
今、アメリカに居るん? その気になれば会いに行けるやん。
「え?滅びたんよね?」
「一応生き残りはいるゾ。人族に寝返ったドワーフは確か28人ほどいた筈⋯⋯」
勢力という意味では滅びてはいるんやね。種としてはまだ辛うじて残っている状況ってこと?それにしても絶妙な数やな。多いとも少ないとも言い難い。
その内の一人が博士のお爺様で、当時赤子だった博士を連れて寝返ったそうや。その時の安否の保証をしたのが高橋はんらしい。高橋はんの庇護下に置かれた事で戦争が終わった後も、不自由のない生活を送る事が出来た。
博士とお爺様がこの世界に付いてきたのは高橋はんから受けた恩を返す為らしいわ。
───高橋はんの貢献度えぐない?
「話を戻すゾ。総一郎の活躍もあり聖女の死から二年後、人族は戦争に勝利した」
「竜と神様はどうなったん?」
「総一郎が殺したゾ」
颯人のオトン強ない?
え? なんで普通に神様と竜を倒してんの?
「仲間と協力して?」
「総一郎一人の力って聞いてるゾ」
化け物やんけ!
もう全部こいつ一人でいいや、状態と違う? 殺す覚悟を決めるだけで無双するって颯人のオトン主人公みたいやな。
「こうして異世界から召喚された総一郎たちの活躍もあり竜は滅び、世界に平和が訪れた」
「ちょい待ち!竜と神との間に生まれた悪の組織のボスは?」
「殺せなかったから、今に至っているんだゾ」
あー、それもそうか。颯人のオトンたちが倒してたらこんな事にはなってへんのよな。
竜とか神とか殺せるくらい強いんやったら、悪の組織のボスも博士の世界で倒しとってやって思うんは欲張りやろうか?
「倒すのは無理やったん?」
「争いの根元を絶つ為に総一郎たちも動いたけど、見つからなかったって聞いてるゾ。ユーベルの傍に付いていた僕様の母のせいだね」
「博士のお母様が?」
「そうだゾ。戦局が悪化し始めた頃には既に逃げる準備をしていたみたいだゾ。総力を上げて隠れ処を見つけた時には既にこの世界に逃げ落ちた後だった。相手が上手だったと褒めるしかないね」
博士がまたページを捲り、そこには見た事がある円盤の絵と唖然と立ち尽くす颯人のオトンたちが描かれている。
多分、隠れ処を見つけて突入した後の絵やと思うわ。この絵の装置を使って悪の組織のボスが逃げ落ちた。
世界を渡る装置を作ったって考えたらとんでもない事してるはるな、博士のお母様。それはそれとして。
「こんな事言うのは大変申し訳ないんやけど、この世界がこないな事になった原因、博士のオカンやないか!」
「そうだよー」
───こんな話、聞くんやなかった⋯⋯。




