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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第二章 悪の天秤

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HEROES SIDE 3. もう一つの世界Ⅲ

「百年ってえらい長いこと続いたんやね」

「と言っても百年ずっと戦い続けた訳ではないよ。小競り合いだけで終わった年もあるし、全く戦っていない年も複数年ある。けど、この戦いでかなりの数が亡くなったのは確かだゾ」


 俺たちの世界で起きた百年戦争も休戦期間が意外と長く、断続的に起きたものやった。博士の世界も同じ感じやね。


 これに加えて上空では竜と神との戦いも繰り広げられていた。と言ってもこっちもこっちで休戦期間はかなり長かったそうやわ。力が拮抗しているせいで、お互いに相手の手を読み合っているうちに長期化したそうや。


「この戦いについて話すと本当に長くなるから、結末だけ話すゾ」

「お願いします!」

「先に決着がついたのは竜と神との戦いだったゾ。勝者となったのは神。戦いに敗れた竜は一柱を除いて神によって滅ぼされた。唯一生き延びた一柱の竜は神から逃れるように姿を消したゾ」


 竜って大きい印象があるんやけど、神の目から逃れる事って可能なん? いや、でも博士の口振りからすると逃げ延びたんよね。余計に気になるわ!


「竜と神との戦いに決着が着くと、間もなく地上も終戦したゾ。竜が敗れた事で竜を信仰する種族の士気が大幅に下がったのが敗因だった」

「まぁ、そうなるわな」

「その背景には人族を束ね、情報によって敵勢力を惑わせながら、巧みな戦運びで勝利に導いた一人の英雄の尽力もあったゾ」


 ───英雄?


「神が人族に授けた『異界から救世主を召喚する術』によって、呼び出された人間がいたんだゾ」

「そんな人がおったんやね」


 それだけ聞くと最近流行りの異世界転移ものみたいやね。そういう認識になると、召喚された主人公ポジションの人間が奮闘したみたいなストーリーが出来上がりそうやわ。


「竜戦争の後その栄光の元に人族は集まり、やがて彼は王として国を興した。その国の名は『フランス帝国』」

「は?」

「王となった英雄の名はナポレオン。太陽君も聞いた事がある名前じゃないかな」

「いやいやいやいや!え!どういうこと!?」


 見知った国の名前と、歴史の教科書に出てくる偉人の名前が出てきてめっちゃびっくりしたんやけど。


 え? なんで博士の世界にナポレオンがおるん?思わずスマホで調べたんやけど、セントヘレナ島に流刑になった後は消息が途絶えてるみたいやわ。


 え?流刑された後に異世界に召喚されたって事? 博士もこの世界に来てナポレオンの名前を知ってびっくりしたそうやわ。同一人物って事でええんやろうか。


「話を戻すゾ。ナポレオンは国を興した後、共に戦ったエルフや精霊族と共に竜を崇拝する種族の土地を奪っていった。土地を追われた種族は数を減らしながら辺境の地へ逃げるしかなかったゾ」

「戦争やもんな」


 負けた側の立場は悲惨や。だからこそ奪われないように必死になる。戦いが激化する要因はそれや。


 竜の崇拝者は戦争に敗れ、土地を追われた。戦争の結末としてはよくある話やな。


「そこから百年あまりは人族やエルフ、精霊族が手を取り合いながら世界を支配したゾ」


 神を崇拝する種族は他にもおるんやけど、勢力的に大きな力を持つのは人間と、エルフ、精霊族の三種族やったそうやわ。


 三大勢力に逆らえる種族はおらず、彼らが世界を支配する事で世界に再び平和が訪れた。


「けど、代を重ねる毎にいざこざが起き、やがて大きな火種となって同じ神を信仰する者同士で大きな争いが起きた」

「それでどうなったん?」

「戦いの勝者は人族だったゾ。エルフは人族の属国となりその支配下に置かれた。精霊族は争う事を選ばず人族の協力者としての立ち位置についた。竜戦争から約200年が経過した頃には世界の大部分を人族が支配していた」


 博士の話では竜戦争で敗れた種族たちは開拓の進んでいない未開の地に逃げたそうや。その先で竜を崇拝する者同士として種族関係なく手を取り合った。彼らもまた生きるのに必死やった。


「竜の崇拝者は人の支配を受け入れたん?」

「いや、受け入れてはいないゾ。彼らは僻地に追いやられても諦めていなかった。何故なら、彼らが崇拝する竜はまだ生きていたから」


 神との戦いで五柱のうち四柱は亡くなった。けど、まだ一柱の竜が残っとる。かつてのように竜がこの世界を支配してくれると信じて、崇拝者たちは抗っていたそうや。


「その願いが通じたのか、あるいは機会をうかがっていたのか⋯⋯竜は再び姿を現した。そして、自身を崇拝する者たちと共に再び世界の支配へと動き出したゾ」


 200年の時をかけて傷付いた体と失った力を取り戻した竜が再び表舞台へと現れたという事らしい。


「それやったら神も動くんとちゃう?竜を止めんといかんやろ」

「当然神も動いたさ。竜を止める為に一柱の神が下界へと降りた。武神と畏れられる武闘派の神───ヴァジュラがね」

「そして竜と神の戦いが、再び起こった訳やな」

「起こらなかったゾ」


 ───は?


 今の流れやったら確実に戦いが起こるやろ!?武闘派の神を下界に送って竜と話し合いでもしたん?


「何があったん?」

(ヴァジュラ)が竜に恋をしてしまったのさ」

「はぁ!?」


 予想外の答えに思わず声が出てしまう。今、恋って言うた? 博士の顔を見るに冗談とかではないな。


 え?本気で言うてんの?


「冗談では、ないよね?」

「信じ難いかも知れないけど事実だよ。(ヴァジュラ)は竜に惚れていたんだ。二百年前に起きた竜戦争の時からね。だからこそ自ら下界に降りる事を立候補した。好意を抱く竜に会いたい一心でね」

「はぁ⋯⋯」

「その好意を竜は当初は利用しようと考えたそうだけど、(ヴァジュラ)が竜へと向ける真摯な愛に次第に惹かれていったそうだゾ」


 ───俺はいったいなんの話を聞かされてるんやろ?


 悪の組織(ベーゼ)について博士に教えて貰ってる筈やのに、異世界の神様の恋愛事情を聞かされても反応に困るんやけど。


 敵対関係にある竜と神の二人が惹かれあって愛し合う関係になるのはええよ。それと何の関係があるん?


「すんまへん。話に水を差すようやけど、その話って悪の組織(ベーゼ)と関係あります?」

「あるゾ。なんたってこの二柱の間に生まれた子供こそが、悪の組織(ベーゼ)のボスであるユーベルなんだゾ」


 ───竜と神との間に生まれた子供が、悪の組織(ベーゼ)のボス?


「下賎な話で申し訳ないんやけど、竜と神っていう異種族間で子供なんてできるん?」

「実際出来ているからなー。神の方が竜に姿を変えて交わったなんて記録も残っていたような。詳しくは悪の組織(ベーゼ)のボスに聞いたらどうだ?」

「聞けるか!?」


 悪の組織(ベーゼ)のボスと対面している場面は間違いなく殺伐としとるで。俺たちにとってはラスボス的な立ち位置の相手に、両親はどうやって子供作ったん?なんて聞けるか!


 いや、もうその話はええわ。どうせ聞かんし。


 それにしても悪の組織(ベーゼ)のボスが、竜と神の血を引いているとは⋯⋯。流石に想像もしてなかったわ。

 

「話を戻すよ。竜と神との間に子供が出来た事で、ようやく天界に住む神々も異変に気付いたんだゾ」

「え?なに?つまり子供が出来るまで他の神は二柱の事情を知らんかったん?」

「戦ってるフリをしながら愛し合っていたとか何とか。(ヴァジュラ)が偽の報告を上げても疑わなかったのが大きな要因だと思うゾ」

「言ってしまえば他の神からの信頼が厚かったちゅーことか」


 博士から補足で説明されたんやけど、竜と神の実力が拮抗していたって事を忘れてたわ。

 戦いの勝者は神で、四柱の竜を滅ぼした事は聞いたよね? 神の方も決して無傷って訳やなくて、竜を滅ぼす為に力の大半を失ってしまったそうやわ。


 長い時間をかけてゆっくりと力を取り戻している最中に竜が再び表舞台に現れた。神の中でも全盛期に近いレベルで力を取り戻した神───ヴァジュラが竜を倒すって豪語したので信頼して送り出したら、敵に惚れて寝返っていたと。


 神からしたら悪夢みたいな話やな。


 ───こうして、竜とその崇拝者たちに新たに武闘派の神が加わった事で、地上の勢力図は塗り替えられていったそうや。


 人族が支配していた土地は徐々に竜の支配下へと変わっていった。その背景には人族の支配をよく思わない種族が多かったというのがあるわ。力による支配は反感を買いやすいから仕方ないな。


 と言っても、天界に住む神や人族の抵抗も激しかったから大陸の半分を竜が支配するまで7年ほど時を有したそうやで。


「属国となっていたエルフが人族を裏切って、竜についたのが決定打だったゾ。唯一の味方である精霊族がいるとはいえ戦力差は明白。人間は竜の支配下に下るか滅びるかの二択を迫られた」

「どっちを選んだん?」

「選ばなかったゾ。人族はどちらでもない三つ目の選択肢を選び博打に出た。神から授けられた『異界から救世主を召喚する術』でナポレオンを召喚したように、この窮地を救う英雄を求めた」


 博打扱いされている理由はエルフとの戦いの際に召喚した人間がめちゃくちゃ弱くて直ぐに死んだかららしいわ。


 抗議の意味で人族が神に確認したら、将来性は高かった事が判明。死なずに成長していた救世主になっていた可能性が高いとか。


 百年に一度しか使えない秘術なんやけど、ソシャゲみたいに当たり外れがあるんやと。


「こうして異世界から召喚された五人の人間の中に、人族の窮地を救う救世主がいたんだゾ」

「へぇー」

「太陽君もよーく知っている人物だゾ」


 ───俺が知っている人物?


 首を傾げて疑問符を浮かべる俺の反応を楽しむように博士がニマニマしている。気になるから早よ教えてやって催促すると『仕方ないなー』と博士が口を開く。


「総一郎だよ」

「え?⋯⋯総一郎って颯人のオトン?」

「そう!黒月 総一郎さ!当時16歳だった総一郎は異世界へと呼び出され───そして、英雄となった」

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