第三十一話 最強のヒーロー
───多いな。
俺と交戦しているヒーローの数はパッと数えても50は超える。アジトから離れながら一人一人を確実に殺し、戦場を移動しているが数はむしろ増えているようにも感じるな。
各地で暴れ出した怪人の元へヒーローが駆け付けている筈だ。人員を各所に割いてこれか。
『戦況の報告といくか。ウルフが戦闘を開始したぜ!10人のヒーローを同時に相手をしているが、今のところは優勢だな』
ウルフは怪人に変異した初日はサンシャインのヒーローたちに苦戦していた。主な原因は多対一の戦い方を知らないからだ。
常に一人で、タイマンで怪人と戦ってきたウルフは致命的に戦闘経験が足りない。それが弱点と判断したマッドサイエンティストが、文字通り体に教え込む形で改造を施した。
どういう原理かは知らないが、俺やボスの実戦のデータを頭に直接刻んだようだ。特に重要なのは俺のデータだと言っていたな。
怪人細胞の扱い方はボス以上に俺の方が上手いというのがマッドサイエンティストの持論だ。頭に刻まれた俺の経験から、ウルフは戦い方を、怪人細胞の扱い方を知る。
ヒーロー共が束になってかかってきてもウルフなら対応できるだろう。唯一の懸念は、ウルフの根本が善人である事。ヒーローを殺す事を躊躇うかも知れない。
───俺たちは既に悪の組織の怪人だ。
躊躇うなよ。ヒーローは俺たちの都合なんて関係ない。ヒーローとして悪を倒しにくる。お前も悪としてヒーローを倒せ。
勝手に死ぬような真似はするな⋯⋯。
『ひひひ、ロビンソンの方も順調だ。ウルフより殺傷能力を高めに改造してある。成果は期待していいぜ』
ロビンソンも同様の改造をしてあると言っていたな。その上、ウルフと違ってロビンソンは元々イカれている。殺す事に躊躇いはない。
遠目で確認した時に、胸から光線のようなモノを出していたのは、見なかった事にしよう。
『ポチは言わなくても構わないよな。助手君のサポートをしているから見えている筈だ』
視界に映る範囲でポチがヒーローをなぎ倒しているのが見えている。今回の作戦では俺の護衛とサポートという扱いになっている。
ヒーローの狙いが俺である以上、効率的にヒーローを殺せる場所が俺の傍という事だ。現に、ポチは俺を超える活躍を見せている。
ポチは俺を除けば怪人細胞の適合率が最も高い。マッドサイエンティストの評価では、ボスよりもヒーローを殺す事に特化しているそうだ。
この評価はボスよりもポチが強いという訳ではない。ボスの場合は相手を甚振る事を優先するが、ポチの場合は獣らしく一撃で仕留める、その違いのせいだな。
『他の怪人たちも成果を上げているぜ。今までと強さが変わらないと舐めてかかったヒーローが餌食になっている。ひひひ、フォリ様と助手君の愛の成果だな』
マッドサイエンティストが戯言を聞き流しながら、ヒーローに接近して首をへし折る。ヒーローを殺すのに派手な必殺技はいらない。同じ人間である以上、弱点は同じだ。
殺したヒーローの頭を掴み、進行方向にいるヒーローに投げつけて道を確保する。
「それより、ヒーローの動きが不可解だ」
『そうだな。明らかに助手君を誘導しているぜ』
俺を囲むようにヒーロー共は攻撃しているが、明らかに攻撃の手が緩い箇所がある。誘導されていると分かっていても、攻撃を避ける為にその方向へと行かざる得ない。
強行突破しても構わないが、無傷ではすまないだろうな。他にどんな罠が仕掛けられているか分からない以上、リスクは避けるべきだ。
「市街地から遠ざけようとしているようだな」
『ひひ、『アルカトラズ島』のように周辺を消し飛ばされるのを嫌ったんだろうさ。ヒーローは護るべき者が多いからな』
ヒーローの心境を考えれば俺という存在を遠ざけたいのはよく分かる。だがな、それが最良の一手ではないことを理解しているのか?
市民に被害が出ないように遠ざけるという事は、俺も周囲に気にしなくていいと言うことだ。『アルカトラズ島』のように大規模の攻撃をしても、良心は痛まない。
「狙いに乗ってやるのも手か」
『それもありだと思うが、誘導した先に待っている奴がいると思うぜ』
「例の金色のヒーローか」
『正解だ。助手君を仕留める役目はそのヒーローが担っている筈だぜ』
ボスを一方的に打ちのめす実力。紛れもない最強のヒーロー。
「勝てると思うか?」
『助手君なら相性はいいと思うぜ。逆にボスとあの金色の相性は最悪だ。天地がひっくり返っても勝てないだろうさ』
やけに詳しいな。
ボスと何度か交戦しているとはいえ、表舞台には殆ど出てきていないヒーローだ。当然だが、得られている情報は多くはない。
ボスとの交戦記録から相性まで把握したと言うのか?俺が知る限りではボスが一方的にボコられている戦いだぞ?得られる情報はないに等しいだろう。
ただ、今のマッドサイエンティストの発言は確信を持っているようにも感じた。俺と相性が良い⋯⋯か。
ボスには倒せないから俺に倒せと、暗に言ってるようにも感じる。
「ポチ、お前はしばらく此処のヒーローたちと遊んでいろ。俺は誘いに乗って、金色の顔を拝んでくる」
「ワン!!!」
俺の意図を察したポチが俺たちを囲むヒーロー目掛けて炎のブレスを吐き出す。小さな体格から放たれているとは思えないほど、広範囲の炎だ。
俺たちのやり取りを聞いて、足止めと分かっていても回避を優先せざるを得ない。甘く見たヒーローが炎に飲まれて丸焦げになっているからな。
その間に俺はヒーローたちが誘導している先へと向かう。ポチとヒーローを置き去りにして、風をきって駆け抜けた先。
「来たか『仮面の怪人』」
広大な広場の中央で最強のヒーローと対峙した。




