第二十六話 スカウト
───ヒーローをやっている? この見た目で?
脳が現実を拒んでいるようだ。
幼い頃に見たヒーロー像とかけ離れているせいで、拒絶反応が出ているのもかも知れない。
「ヒーローってもしかして、サンシャインか?」
ヒーローショーでアルバイトしている可能性もまだあるか? いや、それだと人助けをしているとは言わないな。
認めたくない現実だが、このモヒカンはヒーローなのだろう。
ヒーロースーツを着ればこの見た目でも分からない。身バレを防ぐ為に、体型をある程度隠す機能が備わっていると夏目が言っていた。
夏目のあの無駄にデカイ胸と、この男のモヒカンも、ヒーロースーツは綺麗に隠し通している訳だ。能力といい、性能面でもヒーロースーツが優れている事が分かる。
「そうッス!サンシャインの一員っスよ!シャインピンクを担当しているッス」
───この見た目で?
『ヴレイヴ』の採用担当が正気か、脳を解剖して確認したいレベルだが、シャインピンクの人柄を考えるとこのモヒカンは一致する。
シャイングリーンと違ってシャインピンクの民衆受けは良い。
怪人に対して過激な面が目立つが、市民に対する対応や言動は優しく、身を呈してまで市民を護るヒーローの鑑のような行い。そして怪人に必ず勝利する姿からシャインピンクを信頼や期待を込めて応援する者は多い。
サンシャインで最も人気があるヒーローはもしかしたら、シャインピンクかも知れない。その中身がコレ?
「あ、ちなみになんスけど。勘違いする人が多いで先に訂正しておくと砂糖は、砂に糖分の糖って書いて砂糖っスよ!」
「珍しい苗字だな」
世間一般的に『さとう』と聞かれれば頭に浮かぶのは『佐藤』の方だろう。砂に糖で砂糖なんて、全国で探して何人いるのやら。
───砂糖か。
夏目から聞いたヒーローに『さとう』 礼二という男がいると聞いた覚えがある。俺の知っている佐藤さんと名前が似ていたので、もしかしてって思ったが違ったようだな。
「その情報、一般の人に話して大丈夫なのか?」
「問題ないっスね!俺の家族は妹だけですし、妹には『ヴレイヴ』の職員が警護で付いてくれているんで。俺が不祥事起こさなければ問題ないっス」
「そうか⋯⋯」
「それに、誰にでも話す訳ではないっスよ。お兄さんだから話してるっス」
どういう事だと疑問に思っている内に、モヒカンが学ランのポケットを漁り何かを取り出した。見たところ名刺入れのようだな。
不慣れな手つきで名刺を取り出しているところを見るに、場数を踏めていない事が分かる。俺に向かって差し出した名刺も逆向きだ。
「逆だぞ、向き」
「おっと!申し訳ないッス!前任の者が急遽退職して、今日からスカウトを担当する事になったんスよ。俺こういうのやるの初めてなんで⋯⋯これでいいっスかね?」
名刺の向きを直してから再び俺に差し出してきた。指摘したい事は山ほどあるが、それは俺がするべき事ではない。このモヒカンの上司がやる事だ。
名刺を受け取って目を落とす。
───『ヴレイヴ』日本支部。
人事課 スカウト担当 砂糖 礼二
TEL 080-××××-××××
正直に言って目の前のモヒカンがヒーローであると分かっていなければ、怪しさしかない名刺だ。電話番号の記載はあるが、住所等は一切書かれていない。悪の組織にバレるリスクがある以上、仕方ないと言えば仕方ないが。
ただ、『ヴレイヴ』側の事情もあるのは分かるが、それにしたって選ぶべき人選を間違えていると言わざるを得ないな。
「それで、この名刺が俺にヒーローと明かしても問題ない、訳か」
人事課、スカウト担当か。つまりこいつが今、俺に説明した理由は⋯⋯。
「そうッスね!お兄さんをヒーローにスカウトしようと思ったッス!」
「理由はなんだ? お前から見て俺は、飛び降りしようしている人間に映っていた筈だ。何を血迷ってヒーローにスカウトしようとしている?」
俺がスカウト担当だったとしたらまず間違いなく選ばない人選だな。飛び降りを考えるような人間は絶望している者が多くだ。
肉体は疲弊し、心は安寧を求めている。とてもではないが戦える状態ではないだろう。
何をもってして俺を選んだ?僅かな会話で素質でも見出したと戯言をほざくのか?
「直感ッスね!」
呆れて言葉が出ないというのは本当らしい。返す言葉が思い浮かばん。
「お兄さんと話してビビってきたっス!お兄さんはヒーローになれる素質をもってるっス!」
「俺がか?」
「そうッス!俺の直感は当たるんスよ。断言するっス!お兄さんは最高のヒーローになれるッス!!」
漫画だったら背後にバンっと音喩が出ているような迫力だ。やりきった顔をしている。本人からすればこれでいけると思っているのだろう。
「無理だな。俺にはヒーローの素質はない」
「そんな事はないと思うッスけど?」
「お前は、視力は良いみたいだが人を見る目はないな。俺は誰かの為に戦うなんて出来そうにはない。死にたくないから、必死に生きているだけの人間だ。ヒーローのように、知らない誰かを助けるなんて出来ない。自分の事すら助けてやれていないんだ」
───何よりも悪の組織の幹部を、ヒーローに勧誘しているという事実が面白くて仕方ない。
吹き出さずに断り文句を言えた自分を褒めてやりたいところだな。
「お兄さん⋯⋯」
スカウトを断られて落胆しているのか、あるいは俺の言葉を真に受けて心配しているのか、なんとも言えない表情でモヒカンが小さく呟く。
ゆっくり俺に向かって歩み寄ってきたと思えば、肩をポンと叩き気遣うような表情で俺を見てこう言った。
「俺、良い先生知ってるッスよ。紹介しましょうか?」
「余計なお世話だ」
小話
実は主人公のヒーロースーツの適合率は100%だったりする。
主人公も採血を受けていたので、その結果は『ヴレイヴ』にも伝わっており、本来なら太陽と同じようにスカウトがくる筈だった。
だが、何者かによって適合率のデータが消されていた。
その結果、ヒーローのスカウトが主人公の元に来る事はなく、求人を見た主人公は悪の組織へと落ちていった。




