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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第二章 悪の天秤

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第二十四話 モヒカン

 先輩の死に落ち込み、迷っていた新人ヒーローは親友との会話で覚悟を決め、再び立ち上がる。出来すぎた台本だな。


 太陽の相談に乗らなければ、ヒーローを辞めていたか?


 いや、それはないな。時間はかかるだろうが、あいつは自分一人でも立ち上がる事が出来る人間だ。長い付き合いだからよく分かる。


 俺がした事なんて、ただ愚痴を聞いてアイツの後悔を吐き出させてやっただけだ。それで立ち上がれるなら、俺が何もしなくても勝手に復活していた。


 何はともあれ太陽は元気を取り戻した。


 太陽はヒーローとして、次は明確な殺意をもって俺に挑んでくるだろう。




 ───本気で俺を殺しにこい。




 俺は親の仇である悪の組織(ベーゼ)の幹部。お前の先輩を殺した悪の怪人。


 躊躇うな。俺を殺す事に全てを捧げろ。


 そうすればきっと太陽(おまえ)の殺意は俺へと届く。




 ───止めて欲しいのか?




 人間でなくなり、悪に染まりきる前に太陽の手で⋯⋯。


 その答えはきっと、太陽と戦えば出るだろう。


 俺が殺されるか、俺が太陽を殺すか。


 ───天秤が傾くのはどっちだろうな。




「もう、そんな時間か」


 ふと、腕時計に視線を落とすと7時28分を示していた。


 家からアジトまで15分ほどかかる。企業のように時間厳守とはなってはいないが、8時17時の契約で、かつ定時には帰宅しているので出勤時間はしっかりと守りたいところだ。


 まだ時間はあるか⋯⋯。


 7時40分には出れば十分に間に合うと判断し、部屋の隅に座る夏目の元へと近付く。俺のせいで落ち込んでいるのだから、フォローするのも俺の役目だ。


 何もしなくても夏目なら一緒についてくるだろうが、間違いなくパフォーマンスは落ちているだろう。


 組織としては俺の部下として扱っている以上、上司としての俺の責任にもなる。今回に限って言えば、夏目自身に非はないしな。


「夏目」

「⋯⋯先輩。オレじゃ、ダメなんですよね。タイプじゃないって⋯⋯。何がダメなんですか?先輩の為ならオレなんでもするから、だからオレを捨てないで欲しい」


 女心はイマイチよく分からん。


 なんでここまで落ち込むんだ? タイプじゃないと言っただけのつもりだが、俺が言ったのが不味いのか⋯⋯。


「先に言っておく。お前が悪い訳じゃない。好きか嫌いかのどちらかで言えば好きと言える」

「え?」


 あくまでも、他の女と比べた時の話だ。向日葵は女として見た事がないから比較にはあげない。付き合いが長すぎて接し方が妹みたいになっている。


 ボスとマッドサイエンティストは性格面が最悪であるし、見た目が幼過ぎて好き嫌い以前に犯罪の匂いがしてその気にはならない。


 九条院?───ふっ、論外。


 他にも知り合いにいない訳ではないが、最近は疎遠になっているしな。最近親しくしている女性の中では夏目が一番好感が高い。


 その無駄にデカイ胸がなければ、夏目の期待の展開もあったかも知れない。


「以前話したな。元カノにフラれたって。俺の中では吹っ切れたつもりではいたが、頭の片隅に残っているらしくてな。胸がデカイ女はどうも、苦手なんだ。元カノを思い出すから」

「⋯⋯⋯っ!」


 ───ギリっと歯を食いしばる音がした。


「ふざけんな!!!クソアマ!先輩を不幸にして!オレ様の邪魔ばかりしやがって!!!くそ!くそ!くそ!!!生きていたら、この手で地獄を見せてやったのに!!!」


 急に立ち上がって吠えた夏目に少し驚いた。


 夏目の怒りに呼応するように髪がユラユラと揺れている。腰から生えた尻尾がピーンっと立っているのも面白い。


 髪ではなく尻尾が怒髪天を衝く勢いだ。


 今はこの怒りの矛先が亡くなった元カノに向かってはいるが、言葉や対応を間違えれば俺に向いていた可能性もあった訳だ。


 くわばらくわばら。


「先輩!」

「なんだ?」


 今度は俺に対して怒るかと身構えたが、声に怒りは乗っていない。気がかりなのは覚悟を決めたような真剣な表情だな。


「オレ、先輩に好きになって貰えるように頑張ります!元カノの事なんか綺麗さっぱり忘れられるようにオレで上書きします!」

「そうか」

「最悪、フォリ様に頼んで胸⋯⋯小さくして貰うんで」

「そこまではしなくてもいいぞ」


 そこまでしたら、逆に引く。


「さて、そろそろ行くか」

「はい!」


 元気を取り戻した夏目と共に家を出て、いつものようにアジトへと向かった。















 

 ───現在の時刻は15時34分。


 午前の業務は大きな問題もなく終わった。


 仕事の進捗として報告を上げるのならば、先日捕らえた素体の半分の実験が終了。今のところ全ての素体が怪人へと至っている。


 悪人であればあるほど、怪人へと変異する確率が高いという俺の持論は証明された訳だ。


 まだ捕らえた素体は半分ほど残ってはいるが、先に変異した怪人に改造を施すという事で後回しになっている。


 ウルフはマッドサイエンティストの補助としてアジトに残り、ポチは素体が逃げないように見張りとして待機している。


 で、俺はというと。次に予定している作戦の為に現地の確認に向かったのだが。


「お兄さんまだ若いんッスから、早まったらダメっスよ!」


 ───世紀末から出てきたようなモヒカンに、自殺を疑われて説得されている。

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