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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第一章 悪の組織

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第十九話 会遇

 ───翌日、アメリカ合衆国カルフォルニア州。日本時間14時15分。現地時間22時15分頃。


 夜の闇の中にアルカトラズ島の灯りが浮かんでいるのが見えた。


「こちらクロ、これより『アルカトラズ臨時刑務所』に潜入し瞬間移動装置を設置する」

『ひひひ!こっちの準備はもう出来てるから助手君の方の準備が完了次第乗り込めるぜぇ』

「了解」


 マッドサイエンティストの準備が出来ているのを確認し、陽動の為に別の現場で待機しているボスに連絡を入れる。


「ボスの方は問題ありませんか?」

『我の方も準備は出来ておる。我が愛しきクロの合図と共に動く事が可能だ』


 久しぶりに聞くボスの声を聞き流しながら、今回の標的であるアルカトラズ島を見据える。


───『アルカトラズ臨時刑務所』。


 アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島にかつて存在した連邦刑務所。

 脱獄不可能と言われる程厳しい環境に悪名高い犯罪者が収容されていた刑務所であり、映画の舞台になった事もあり知名度は高い。別名、監獄島。


 ただ、この刑務所が使用されていたのは1934年から1963年まで。現代では刑務所として活用はされておらず、人気観光地の一つになっていた。




 『悪の組織(俺たち)』が現れるまでは。





 アメリカは悪の組織(ベーゼ)による侵攻作戦の最初の標的だった。今でこそ悪の組織(ベーゼ)に対抗する組織である『ヴレイヴ』が存在するが、この時はまだ彼らも準備段階であり表舞台には出てきていない。


 現在は方針として素体の確保を優先しているが、当時は天敵と言えるヒーローの存在を確認出来ていなかったので、世界征服の為に悪の組織(ベーゼ)は破壊活動を行っていた。俺たちの力を世界に知らしめるのが目的だ。


 とはいえ、征服した後の事を考えれば無用な破壊や殺戮は後の支配に影響があるので最低限で済ませるべきなのだが、血や悲鳴に興奮したボスがより過激に攻撃を開始。


 既存の兵器をものともしない怪人を相手にヒーローのいないアメリカは為す術もなく、人や生物だけでなく建物にも甚大な被害が出た。


 この侵攻作戦の時には既に俺も悪の組織(ベーゼ)の一員となっていたが、ボスに操れない自我を持つ怪人という不確定要素だった事で、アジトでの待機を命じられていた。


 裏切る気は当時から既になかったが、善良な市民を相手に一方的な殺戮や破壊行動をするほど、人道から外れてはいなかったのでボスの判断は間違ってはいないだろう。


 やる気のない兵士がいるだけで現場のモチベーションは下がるからな。怪人には自我がないからボス以外には関係ないが⋯⋯。


 話を戻そう。俺はアジトでゴロゴロしていたので現地の様子を直接見た訳ではなく、テレビの映像越しで見たものと、後にマッドサイエンティストから語られた内容しか知らない。


 知っている事を挙げるとすれば、現地をより混沌に陥れる為に刑務所を狙って襲撃した事だろう。怪人の襲撃で刑務所が破壊され、囚人の多くが騒動のどさくさに紛れて脱獄した。


 怪人だけでなく刑務所に収容されていた悪人たちが一斉に世に飛び出る。アメリカはより大きな混乱に包まれる。




 ───筈だった。




 後に『悪夢の半月』とも呼ばれる悪の組織(ベーゼ)の第一次進行は順調に進んでいたのだが、侵攻作戦開始から半月が経過した頃、突如して現れた金色のヒーロースーツに身を包んだヒーローにボスが殴り飛ばされた事で呆気なく終結を迎えた。


 調子に乗って高笑いしていた所をヒーローに強襲され、マウントを取られてボコボコに殴られていたな。涙目で逃走するボスの様子は当時の映像として何度も流されていた。


 最初にヒーローが目撃されたのはこの時だったか。まだ『ヴレイヴ』の組織としての体制が整っておらず、ヒーローの独断専行だったとマッドサイエンティストから聞かされた。

 それが功を奏したのもあり、ヒーローを責める声は少なかったようだな。


 こうして悪の組織(ベーゼ)による第一次進行は失敗に終わり、ヒーローという存在が世に知られるようになる。『ヴレイヴ』が表舞台に出てきたのはこれより更に半月後ではあるが、悪の組織(ベーゼ)に対する抑止力にはなっていた。


 ヒーローを警戒したボスが前線から離れ、暫くの間アジトに引きこもっていたのが原因だ。ボスの操作で怪人たちは動くが、質はそこまで高くない。

 思っていた以上の戦果は得られず、徐々に体制が整ってきたヒーローたちによって悪の組織(ベーゼ)は押されていった。


 ボスやマッドサイエンティストが考えた策略通りに現地が混乱に陥れば付け入る隙はあったが、『ヴレイヴ』が表舞台に出て直ぐに囚人の確保や治安の維持に動いた。そのせいで思っていた以上の混乱は起きなかった。


 最終的にアメリカの刑務所から脱走した囚人のおよそ9割は捕まり、その中でも特に罪の重い受刑者が『アルカトラズ臨時刑務所』へと収容された。

 元々『アルカトラズ島』を再利用する計画があったのか施設は修繕と改築がされていたそうだ。


 ───現在『アルカトラズ臨時刑務所』に収容されている囚人の数はおよそ300人。全員が全員、殺人や薬物、重窃盗等の前科のある犯罪者たちだ。今から捕らえる囚人が全て怪人へと変異すれば、戦力の補充としては十分。


「さて、やるか」



 『アルカトラズ臨時刑務所』への潜入は容易であった。仮面に備わっている機能で侵入者対策で張り巡らされているセンサーも、島の周辺を照らす照明の動きも全て分かる。それら全てを掻い潜るように海面を蹴って、海の上を走って渡りきった。


「警備が甘いな」


 元々の施設であれば警備の目は厳しかっただろうが、臨時の刑務所という事もあり島の隅々まで手が入っている訳ではない。特に老朽化によって人の立ち入りが難しくなった場所は、監視カメラがあるだけで、警備という意味ではあまりに甘い。


 何かあっても直ぐにヒーローが駆けつけてくれるという慢心のせいだろうな。マッドサイエンティストの調べではこの刑務所の何処かに『ヴレイヴ』のUSA支部と繋がる瞬間移動装置が置いてあるそうだ。

 事を起きれば直ぐに通報がいき、ヒーローが駆けつけてくる算段になっている。それを加味した上で今回の作戦は練ってある。


「監視カメラの設置まで甘い。死角があるのは論外だろ。これでは潜入してくれと言っているようなものだ」


 ガバガバの警備に呆れながら、監視の目を掻い潜ってマッドサイエンティストがあらかじめ指定していたポジションに瞬間移動装置を設置する。作戦の立案の段階から警備の穴を見つけていたらしい。流石は大天才と褒めるべきか。


「こちらクロ。設置は完了した。いつでも作戦の開始は可能だ」

『了解ー!それじゃあまずはウルフとポチの二人から行っておいでー』


 それから間もなく今回の作戦の要であるウルフが姿を現す。彼女には怪人を率いて素体である囚人の確保を行って貰う。この時の為に準備した怪人30体を利用すれば『アルカトラズ臨時刑務所』の囚人全てを捕らえる事が可能だ。

 作戦の実行と、怪人への指示役。ウルフの役目は多いが彼女なら役目を全うしてくれるだろう。


「来たぜ先輩!」

「声のボリュームを下げろ」


 注意すると慌てて口を手で押えている。俺がこの地に潜入出来た時点でバレても問題はないが、少しばかり緊張感が足りない。


「⋯⋯⋯⋯!」


 ウルフに続いて瞬間移動装置で送られてきたポチが俺の元に駆け寄ると、いつものように吠えようとしたので、口を優しく押えて止める。


「静かにできるな」

「ワン⋯⋯」


 少なくともウルフよりは声のボリュームは小さかった。利口な犬だな。


 ポチの役目は二つある。一つは俺と共にウルフと怪人のサポートをする事。そしてもう1つ、こちらがメインだ。

 俺たちが襲撃を始めれば看守の手でヒーロー達に通報がいく。直ぐにヒーローたちが駆け付けてくるだろう。そのヒーローたちに邪魔をさせないように対処するのが俺とポチの仕事だ。


「準備は出来ているな」

「任せてくれ」

「ワン」


 二人の返事を確認してからスーツのポケットに手を入れると、ジャラジャラと複数の硬いものが触れ合って音を立てた。ポケットから引き抜いた俺の手には複数のサイコロサイズの黒い物体がある。


「始めるぞ」

『ひひひ、作戦開始だぜ』


 刑務所の上空に向けて黒い物体を投げると共に、ウルフが外壁を破壊して侵入を開始。ポチもまた翼を広げて空を飛んで刑務所へと侵入。


 そして、刑務所の上空へと投げられた黒い物体が次々と怪人へと変異していく。マッドサイエンティストが開発した、特別製のケースに入った怪人を圧縮装置によって小さくしてここまで持ってきた訳だが、


「おい、既にダメージを負ってるぞ」

『おっと、これは改善の余地がありだねー。圧縮する時に骨とかにダメージがいった可能性が高いな。まー怪人ならその程度の痛みは問題ないさ』


 事を起こす前からボロボロの怪人を見て、思わずため息を吐く。この作戦は次から使えないな。


 今回の作戦では怪人は素体の確保がメインでヒーローとの交戦予定がないから問題はないが、あそこまでボロボロではヒーローに瞬殺されてしまう。せっかく作った怪人なんだ。もう少し丁重に扱えよと、苦言を呈しながらウルフとポチに続いて刑務所へと侵入した。














 



 


 




 ───ヒーローがまた一人、地面へと倒れた。


 通報を聞いて駆け付けてきたヒーローはこれで7人目。そのうち5人は既にポチによって葬られている。戦況を見るにポチの優勢は変わっていない。残りの二人も直に片がつくだろう。


「思っていたより、少なかったな」


 想定よりも刑務所へ救援に来たヒーローが少ない。


 此処とは別に陽動の為に怪人を引き連れたボスがワシントンで暴れている。『アルカトラズ臨時刑務所』への救援よりも、ボスの対処を優先したのかも知れない。


 それもまぁ仕方のない事だ。前回、少しばかりボスは暴れ過ぎた。その時の雪辱を果たす為にヒーローたちはボスの元へと向かったのだろう。予定通りだな。


『今、ちょうど200人目が送られてきたぜぃ。あと100人、しっかり頼むぜ助手君』

「わかっている」


 殺人や薬、中にはテロの容疑で捕らえられた囚人もいるが所詮は人間。いくらボロボロであっても怪人相手では為す術もなく、次々に捕まった囚人たちが瞬間移動装置でアジトへと送られていく。順調だ。


 数が減るにつれペースは落ちているが、このままヒーローの介入がなければ30分ほどで作戦は完了するが、




「そう上手くはいかないか⋯⋯」




 ───俺の視線の先で、ヒーローにトドメを刺そうとしていたポチが吹き飛んでいく。


 轟音を立てながらポチが建物に埋もれるのを見送った後、視線をヒーローたちの方へと向ければ見覚えのないヒーローが一人増えていた。


 アメリカのヒーローはアメコミから飛び出たような見た目をしているが、新たに現れたヒーローは違う。初めて見るヒーロー。だと言うのに見覚えのある姿形。


 黒と白を基調としたどこぞのライダーのようなヒーロースーツ。三日月が特徴的なマスク。その姿は幼い頃にテレビで見た仮面のライダーに酷似していた。

 

「スーパー戦隊の次は仮面のライダーか」


 次々と現れる敵が幼い頃に憧れたヒーローたちである事に嫌気がさす。


「ポチは無事だな」


 建物が崩れ瓦礫の下敷になっていたポチが這い出てくるのが見えた。埃で汚れてはいるが目立った外傷はない。ポチが真っ直ぐに見据える先にいるのは、仮面のライダーか。

 自分の楽しみを邪魔したヒーローが許せないらしい。怒りをぶつけるように吠えるポチを見て、ヒーローが決めポーズと共に叫ぶ。

 

 


「マスクザヒーロー『ムーンシャドウ』遅れて登場や!」




 ───聞き覚えのある声に思考が停止した。

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