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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第一章 悪の組織

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HEROES SIDE 2. 新たなヒーロー 後編

 場所は移り、男性用更衣室の室内。備え付けされたテーブルに書類を置き、椅子に腰掛けて丁寧に自分の名前を書く。プルプルと震える手で文字を書くのには苦労したんは内緒や。

 俺の後ろに立っている高橋はんが、名前の書かれた書類を見て満足そうに微笑んでいた。


「それでは、サインの確認も出来ましたので正式に『ヴレイヴ』に加入したという事で、申請をさせて頂きます」

「よろしゅう頼んます」


 ニッコリと微笑む高橋から黒い何かを感じて、心が磨り減っていくを感じる。サインしたのは失敗やったやろか?

 いや、でも『ヴレイヴ』以外に悪の組織(ベーゼ)と戦える組織はあらへん。復讐するって決めたんやろ?ちょっとブラックやったからって、揺れたらあかん!


 机の上の書類を高橋はんが回収し、新しいクリアファイルに入れてはる。


「そちらの書類は朝比奈様用の書類ですので、大切に保管しておいてください」

「分かりました」


 あーでも、失敗したわ。持ってきたショルダーバッグやとクリアファイルが入らんわ。あらかじめ言っておいてくれたら大きめの鞄で来たんやけどしゃーないな。

 困ってる俺の様子を見て『お預かりしましょうか?』と、お言葉をくれたのでお願いする。


「それでは施設の案内を再開いたします。まずはそうですね、朝比奈様が最も気になっているであろう、ヒーロースーツを受け取りに行きます」

「もう出来とるんか!」

「ええ。朝比奈様の適合率を見て博士が特注しております。ご挨拶も兼ねて研究室まで向かいましょう」


 更衣室の扉を開けて、廊下の外へと歩みを進める高橋はんの後を追いかける。


 ───俺の為に特注で作ってくださっとるっていうヒーロースーツがどんな物か分からんけど、ワクワクするわ。


 悪の組織(ベーゼ)と戦える力が手に入るってのもあるけど、ヒーローは子供の時の憧れではあった。そんなヒーローに俺はこれからなるんやで。そら、ワクワクするやろ!


 高橋はんの後をついて、突き当りのT字を右に曲がり更に奥へと進んでいく。途中途中でこの部屋は○○ですと説明を受けながら歩くこと10分、目的地に到着したのか高橋はんがとある部屋の前で立ち止まりはった。


 両開きの大きい扉がある部屋やね。扉の上に大きく『研究室』って書いてあるわ。ここが目的地で間違いなさそうやわ。


「到着しました。博士には先程、スマホでメッセージを送っておりますのでこのまま入って大丈夫です。さ、参りましょう」


 高橋はんが扉を三回ノックし、通りの良い声で『高橋です。入ってもよろしいでしょうか!』と、扉に向けて叫ぶと俺の想像の三倍くらい可愛らしい声で『どうゾー』って返ってきた。


 今の声からして女の子やね。博士って聞いてたから勝手に年配の男性をイメージしとったわ。まさかまさかやな。


 高橋はんが部屋の扉を開けるとその先にある部屋の全容が視界に広がっていく。部屋の内装は俺らがテレビなんかで見て、研究室ってこんな感じよねってイメージした感じに近いわ。

 壁にはぎっちりと棚が並んどるし見た事がない、薬品や器具がいっぱい置いてあるわ。


 その中でも一番気になったんは部屋の中心にある長机⋯⋯いや、よく見ればちゃうな。医療関係のドラマとかで見る手術台と思われる台に人が乗ってはる?


「怪人?」


 高橋はんの後に続いて研究室の中へ入ると、人と思っていた者が怪人である事に気づいた。入口からやと足しか見えへんかったから人間やと思ったけど、顔と腕がモグラへと変異してはる。見たところ、生きてはないみたいや。ヒーローが倒した後の怪人やろうか?


「朝比奈様」

「ん!?なんやろか高橋はん」


 意識が台の上の怪人へと向いていたので、急に声をかけられてビクってしてしもうたわ。少し恥ずかしさを感じながら声のした方へ視線を向けると、高橋はんとその横に見知らぬ女性がいる事に気付いたわ。この人が博士やろうか?


「こちらに居られる御方が研究室の責任者にして、『ヴレイヴ』の技術開発を担っておられる博士───ハォリ様でございます」

「君がダイヤの原石くんだね。ようこそ!我が研究室へ!僕様は君を歓迎するゾ!よろしく!」

「よろしゅう頼んます」


 思ったよりテンションが高い人やったわ。年は俺と同じくらいやろうか?綺麗な人やって素直な感想が浮かんだわ。


 身長は目測で160センチ前後やろか?俺のオカンと同じくらいに見えるから、そんなもんやと思うわ。大きいサイズの博士服を着てはるのか、裾が床に触れとるな。良く良く観察すると裾が汚れている事に気づき、女性の人物像が何となく分かった。


 群青色の髪を低い位置でお団子のように丸めており、大人っぽく落ち着いた雰囲気の女性やなって第一印象では思ってたけど、言葉を交わすと印象が一気に変わる。


 楽しそうに笑いながら右目につけたモノクルに触れてはるわ。位置がズレているから触っている感じやないね。何か操作するように触ってはる。何をしてるんやろって気にしながら見てると群青色の瞳と目が合う。


「いいね!素晴らしい数値だ!」


 俺の事を指さして女性が満足そうに笑うと、その場でクルッと一回転した。ピタッと止まった時にふくよかな胸が揺れており、思わず視線がいってしまったんは男の悲しい性や。


「僕様の事は気軽に博士って呼んでくれて構わないよ!ハォリ様って呼びたい?それはもっと親しくなってからさ!」


 せやったらお言葉に甘えて博士って呼ばせて貰いましょう。腰に手を当てて豪快に笑う博士を見て、普段からこんな感じなんやろかって高橋はん見ると肯定するように頷いてはった。これが平常運転って事やね。


「ハォリ様、ここへ朝比奈様を連れてきたのはメッセージで送った通り⋯⋯」

「僕様特製のヒーロースーツを受け取りに来たって事だろ!ちゃんと準備はしてあるゾ」


 タッタッタと、軽やかな足音を立てながら部屋の奥へと向かったと思ったら、右手にベルトのような物を手に持って帰ってきた。アレがヒーロースーツって事やろうか?


「朝比奈様はヒーロースーツを見るのは初めてですよね。見ての通り、ヒーロースーツは必要時以外はこうして()()()おります。今回の場合ですと、ベルトに手を当てて『変身!』と叫べばヒーロースーツに変形します」

「あのベルトが変身アイテムって事なんやねー」


 ───ごつくない、あのベルト?


 チャンピオンベルトを連想するくらいにごつくてデカイんやけど⋯⋯。え?あれが変身アイテムって事はあのごつくて、でかいベルトを四六時中持ち歩かないかんって事?

 ベルトとして巻くことは出来るやろうけど、サイズが大きすぎて浮くで間違いなく。


「あれ、持ち歩くん不便とちゃう?」

「サイズやデザインは後から変更は可能なので、お気になさらずともよいかと」

「それなら良かったわ」

 

 思わず安堵の息が出た。あんなでかいベルトを四六時中付けとったら悪目立ちするし、腰を痛めるで、間違いなく。俺と高橋はんとのやり取りを聞いていた博士が、サイズを変更してくれるとの事で、今俺が腰に巻いてるベルトと同じサイズでお願いした。


「それで、君は此処に来たばかりだろ?何か気になる事はないかな?僕様は今、暇をしてるから何でも答えてあげるゾ」


 暇してるっていいながら、作業台までベルトを持っていき作業を始めはった。博士からしたら話しながらこなせる作業って事やろか? せやったら俺も気になる事は多いし、質問しよか。


 何から聞こうか考えていると、手術台?の上に乗っている怪人を見て質問を決めた。


「そこにあるのって怪人の死体よね?持って帰って実験かなんかしてはるん?」

「その問いにはイエスって答えるゾ!怪人の細胞を採取して、細胞に含まれる物質を研究したり、怪人化に至る要因なんかを探しているのさ」


 コンコン、ドンドンと小気味良いリズムで作業音が響いている。ヒーロースーツの開発だけやなくて、怪人についても研究してはるんやね。


「主な目的は怪人に対する有効打を見つける事と、怪人へ至った者を人間に戻す治療法を探す為です」

「怪人を、人間に戻す?そんなこと可能なん?」


 高橋はんに思わず聞き返したけど、返事はない。真顔や。難しいって事やね。


「理論上は可能って言われているゾ!もっとも怪人細胞は未知の部分が多く、研究は難航しているんだ。将来的に怪人を戻す事は出来るだろうけど、先の長い話さ」

「順調に研究が進んでも二年は確実にかかるかと」


 博士の言葉に高橋はんが補足を述べる。


「そういえば、朝比奈様は気にしておりましたね。怪人細胞とは何かと」

「せやね。怪人細胞について全然知らへんから、怪人に変異させる細胞って認識しかないわ」

「お答えしますと、言いたいのですが先も言ったように怪人細胞は未知の部分が多く、研究は難航しております。何の要因で怪人へと至るのか、それはまだ分かっておりません」


 その要因さえ分かれば、怪人を人間に戻す方法が分かるんやろうけど、先は長そうやわ。


「今のところ分かっているのは怪人細胞の持ち主と、細胞が持つ特徴だけだゾ」

「特徴?」

「怪人細胞は生物の体内に注入されると、元々の細胞を破壊しながら侵食し、細胞を塗り替える性質を持つんだゾ」


 細胞が一定以上怪人細胞に塗り替えられると生物は怪人へと変異する。多くは変異する前に細胞が破壊された事で死に至るそうやわ。作業しながらも説明出来るんは器用やね。


「知らないと思うけど、怪人の多くは自我を持っていないんだゾ。これも怪人細胞が持つ特徴で、脳細胞を侵食し汚染する事によって体の主導権を奪っているんだゾ」

「脳細胞を侵食⋯⋯」

「脳細胞を破壊はしないのが重要でね。体を動かす信号を発信している脳みそはそのままに、主導権だけを奪う。脳細胞を破壊してしまうと操る事さえ出来なくなるからね」


 精神汚染によって主導権を奪われた怪人に自我はなく、怪人細胞の持ち主であり全ての元凶───『悪の組織(ベーゼ)』のボス、ユーベルの操り人形へとなる。

 このユーベルこそが、怪人細胞の持ち主で、この者を倒さない限り怪人が減る事はないそうや。


「正直に言って怪人は私たちの敵ではない。自我を持っていない事もあり、動きは単調だからね」


 テレビの中継とかで見る限りでも、怪人を相手にヒーローが圧倒している映像が多かったわ。テレビの特撮のように苦戦する事もなく、ヒーローの強さを魅せてくれた。その強さに市民は安心してはるんやと思う。


「けど、極小数だけど自我を持つ怪人がいる。その内の一体は最初期から目撃され、多くのヒーローを殺した事でその外見的特徴から『仮面の怪人(ペルソナ)』と恐れられている怪人。そしてつい最近、新たに自我を持つ怪人が発見された」


 高橋はんが二枚の写真を近くのテーブルの上に置いて見せてくれた。オオカミの耳と尻尾を持つ女の怪人で、黒いスーツに顔を隠す仮面を付けている。もう一人は仮面を付けた男の怪人? ついつい疑問に思ってしまうくらい外見的特徴がない。

 他の怪人のような変異が見当たらない。仮面の下が変異してるんやろうか?


「本来なら怪人細胞に脳を侵食されて自我なんて保てないんだけどねー」

「うわっ!びっくりしたで!」


 気付いたら俺の横におった博士にびっくりした。博士は不思議そうな表情で俺と同じようにテーブルの上の写真を覗き込んでいる。

 博士が断言するくらい自我を持っている事は普通やないんやね。


「脳を侵食されても尚、自我を保つ精神力かな?あるいは精神汚染されても影響がないくらい元から狂ってるとか」

「狂う?」

「そう。愛に狂う、生に狂う、力に狂う、血に狂う⋯⋯悪意の持つ狂気は上塗りを許さないくらい強固なんだゾ」


 自我を保つ狂気ってなんやねん。元々狂ってるから精神汚染されんって化け物やんけ。


「まぁ、でも机上の空論だゾ。重要なのはこの二体の怪人が他とは比べ物にならないくらい強いってこと」

「『仮面の怪人(ペルソナ)』に関しては日本支部のヒーローは危険性から交戦を禁止されております。その強さから『悪の組織(ベーゼ)』の幹部ではないかと推測します」

 

 他の怪人が自我を持っていないって時点でその二体が特別なんは分かるわ。その上強いんやろ?なら間違いなく幹部やんけ。

 ヒーローとなった以上、俺はこの二体と戦う可能性もあるんよね。勝てるんやろうか?


 俺の不安が顔に出ていたのか、高橋はんと博士の二人が顔を合わせた後、全く同じタイミングで笑った。


「大丈夫ですよ。朝比奈様ならこの二体の怪人が相手でも勝てます。それだけのポテンシャルを持っておいでです」

「そうだゾ!君のポテンシャルに加えて僕様が開発したヒーロースーツがあるんだ!必ず勝てるゾ!」


 この二人は俺が勝てるって信じてくれとんやね。なら、俺が不安がったり迷ったらあかん。二人の期待に応えたい!強いヒーローになるんや、俺は!


「博士、ヒーロースーツを」

「ほいさー!これが君のヒーロースーツだゾ」


 博士から赤いベルトを手渡されたけど⋯⋯サイズだけやなくてデザインまで変わってへん? なんて言うかモロやんこれ。サイズは確かに小さくなっとるけど、仮面のライダーが身につけるベルトみたいになっとるやんけ。


 カッコイイけど、四六時中身につけるのは恥ずかしいんやけど⋯⋯。俺26歳やで。変身ベルト腰に巻いて外には出れへんで。


「さ!早く変身しておくれ!」

 

 ニッコニッコの博士の一言に喉元まで出てきていた抗議の声が消えていく。期待の籠った眼差しに何も言えへんなったわ。


 手渡されたベルトを腰に巻く。後はベルトに手を当てて『変身!』って叫べばええんよね。


「へ、変身!」


 気恥ずかしを感じて声は思っていたより小さかったが、俺の声に反応し変身ベルトが起動する。




 ───なんやこれは!




 変身は一瞬やった。俺の体を黒い光が包んだと思ったら5秒と経たずに霧散する。最初に感じたのは体の奥底から溢れ出てくる力の奔流。体が作り変わったと錯覚する程の全能感!


 これなら戦える!これがヒーロースーツの力!


「姿見はあちらにあります。ご確認を」


 高橋はん示す先には言葉通りに姿見がある。そこに映るヒーローの姿は幼少期の頃に見たヒーローそのものだった。


 ベルトから予想はしてた通り、戦隊物ではなく白と黒を基調とした仮面のライダーのような戦闘スーツ。どこぞ独眼竜の兜のような、立派な三日月が特徴のマスク。


 ───脳裏に浮かぶ日本のヒーロー、サンシャイン。その隣に自分が並び立つ姿を想像すると、俺だけめちゃくちゃ浮いてるのが分かる。


 仲間外れやんけ⋯⋯。


 そんな俺の心境を無視し、メガネをクイクイしながら高橋はんが言葉を紡ぐ



「朝比奈様はサンシャインの一員としてではなく、日本の新たなヒーローとして活動して貰います。その名は」


















 ───マスク ザ ヒーロー 『ムーンシャドウ』


「ダサない!?」

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