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悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。  作者: かませ犬
第一章 悪の組織

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HEROES SIDE 2. 新たなヒーロー 中編

 ───体が震えるわ。


 出てくる漫画を間違えたみたいなキャラが目の前におるんやけど、どうしたらええ?


「あん?」


 あんってヤバない?俺が反応に困っとるとモヒカンの眉間にシワが寄っていく⋯⋯あかん、キレとる?いや、不審がってるんか!


「すんまへん。俺、高橋はんにヒーローとしてスカウトされて此処に来て、待っとくように言われたんやけど⋯⋯どないしたらええですか?」

「あー、ヒーロー候補って事ッスか!なら俺の後輩って事になるっスね」


 え?このモヒカンが先輩なん?え?嘘やないよね。ヒーローじゃなくてここの職員さんで先輩とかそんなんよね⋯⋯多分。

 こんな世紀末モヒカンがヒーローであってええ筈ないで。偏見で申し訳ないけど。




 ───床が一瞬光った?


 隣に気配を感じて慌てて体を向けるとそこには、高橋はんが居った。見知らぬ場所で見知らぬモヒカンと二人きりやったから見知った高橋はんが居ると、安心するわー。


「おや砂糖君じゃないですか。どうしたんです?」

「入口に登録のない反応があったんで念の為見に来たんッスよ」

「おや、こちらの手違いがあったかな。朝比奈様のデータは登録しておいた筈ですが⋯⋯そうですね、後で調べておきます」

「うぃーす!それじゃあ、俺はここで失礼するっス」


 二人のやり取りを口を挟まず黙って見ているとモヒカンの方が高橋はんに頭を下げてから、部屋を出て行きはった。えらい丁寧に扉を閉めはるんやね。殆ど音がせえへんかったわ。

 あんな見た目ではあるけど、侵入者ではないかと気にして来たみたいやし、人は見掛けによらんなー。


「高橋はん、今の人は誰ですの? 俺の先輩って聞きましたけど」

「彼は砂糖 礼二君ですね。おっしゃる通り朝比奈様の先輩ヒーローになります」

「佐藤はんか⋯⋯覚えておきます」

「恐らく今、朝比奈様が思い浮かべた苗字の字とは違うのでご注意ください。砂に糖分の糖と書いて砂糖です。これから連絡を取り合う事になると思いますので、頭の片隅にでも入れておいてください」


 一般的じゃない方の砂糖はんなんやね。俺に分かりやすいようにスマホで文字を打って見せてくれはった。『砂糖 礼二』はんか。見た目もそうやけど変わった名前やね。


「先輩のヒーローって事はサンシャインの一員よね。何色を担当してんの?ブラック?」

「砂糖君が担当しているのは桃色です。シャインピンクですね」

「はぁ!?」


 ホンマに言ってはるの!? あのモヒカンの先輩がピンクってホンマ? 戦隊ものでピンクって紅一点の女性やない? 固定観念にとらわれず柔軟な発想⋯⋯にしたって大柄なモヒカン男がピンクはびっくりするで。


「希望は赤だったそうですが、先に取られてしまいましたからね。赤に近いピンクを選んだそうです」

「なんで赤とかピンクが希望か、知ってたりしはります?」

「返り血が目立ち難くなるとか、そんな理由だったかと」


 やっぱり世紀末やんけ!そんなんがヒーローでええん?抗議も込めた視線を向けていると高橋はんが口元に手を当てて笑っている。


「あぁ見えて市民受けはいいんですよ。怪人に対しては過激ですが、市民に対しては物腰柔らかく、人命救助を最優先に行う。ヒーローの鑑のような御方です」

「そうなん?人は見掛けによらんのやな」

「怪人に対して過激なのもちゃんと理由はあるんですよ。砂糖君はご家族を怪人のせいで失っています。ヒーローとして戦うと決めたのも自分と同じような犠牲者を一人でも減らす為なのです」

「立派な人なんやな」


 高橋はんが、ニコリと微笑む。


 モヒカン───って呼ぶのはもう失礼やな。見た目で勝手に悪印象もって、内面を知ろうとしなかったのは俺の悪いところや。反省すべきや。


 ホンマに印象が変わるわ。それに砂糖はんと境遇が似ているのもあって親近感が沸いてきた。もしかするとこれから俺が目指すヒーロー像は砂糖はんが近いんかもしれんな。


「これから接する機会は増えると思います。共に戦う仲間として、絆を深めて頂けたら幸いです」

「仲良く出来るように心掛けるわ。高橋はんもよろしゅう頼んます」

「はい」


 ニコリと微笑んだ後、高橋はんが部屋の入口に向かって歩みを進める。


 付いていこうと思う前に、扉の前で立ち止まりゆっくりした動きで振り返る。自然と高橋はんと目が合った。


「遅れましたが、ようこそ『ヴレイヴ』へ」


 深いお辞儀と共に耳に入ってきた高橋はんの言葉に体が震える。今までテレビの向こう側にあった世界に俺も足を踏み入れた、そう強く実感したからや。

 

「それでは参りましょう。案内いたします」


 高橋はんが扉を開けると、部屋の外の様子が目に入る。


 第一印象は広い廊下やね。それに長いわ。部屋の入口から壁の突き当りが見えるんやけど、そこまでの距離でも100メートル以上はあるな。突き当りでT字に別れとって左右に続く通路がありそうや。

 それと、突き当りまでの途中に4つほど部屋らしきモノが見えたわ。左右それぞれに等間隔で二つずつ部屋がある感じやね。


 俺が今いる部屋と同じように白で統一された壁、視界に入る範囲では窓らしきモノは見当たらへんな。


「朝比奈様」


 他に何かないやろかって観察をしてると高橋はんから声がかかり、そこでようやく待たせている事に気付いて高橋はんの傍に駆け寄った。


「歩きながら施設の説明をさせていただきますね。私たちが今、現在いる場所は転送室です。見ての通り此処に来る際使用した『瞬間移動装置』が置いてあります」

「えらい大きい機械やね」

「この瞬間移動装置で日本中どころか、世界の何処へだって移動出来ますからね。性能が高い分大きくなってしまいます」


 此処に来る時に使った機械ではあらかじめ設定したポイントにしか飛べへんそうやわ。


 この部屋の説明は終わったらしく、高橋はんが歩き出したのでその後をついていく。少し歩いて右側の二つの部屋が『男性用更衣室』と『女性用更衣室』だと説明された。

 部屋に入るには指紋認証がいるそうやわ。これも後で登録するそうやで。


 反対側の二つの部屋、転送室に近い部屋が『物資保管庫』らしいわ。『悪の組織(ベーゼ)』との戦いに使用する武器や防具、乗り物なんかを置いてあるそうやわ。俺専用のアイテムも今、博士が造ってくれてるって。


 で、残りの一つが『医療室(メディカルルーム)』。怪人との戦いで傷付いたらこの部屋で治療してくださいとのこと。

 室内に置かれた機械を使えば、骨が折れていように一日ほどで完治するそうや。凄い技術やね。


「更衣室と、この二つの部屋はこれから利用する機会が増えると思いますので覚えておいて頂けると助かります」

「分かりましたわ」


 満足そうに高橋はんが笑った後、スーツの胸ポケットからスマホを取り出して何やら操作をしてはる。『困りましたねー』と、小さく呟いたのを俺の耳が拾った。なんやろ、アクシデントでもあったんやろか?


  顎に手を添えて困り顔の高橋はんに『どないしたん?』と尋ねると、申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ありません。本来ならばこれからこの支部のトップである白星(しらほし)司令官の元へ案内する予定だったのですが⋯⋯」

「もしかして、おらんの?」

「はい。本部からの急な召集があったようで、30分ほど前に日本支部を後にしたようです。司令官補佐がいればと思ったのですが、付き添いで行かれたようですね」


 予定変更です、と困ったように高橋はんが笑う。


 本来の予定では、まずは日本支部の司令官はんと面接をする予定やったそうや。面接言うても、軽く挨拶する程度らしいけど、素質があるかないかを司令官はんが直々に見て判断しとるそうや。

 ちなみにこの、素質言うんはヒーロースーツの適合率についてやなくて、ヒーローとして戦えるかどうか、性格とか志について確認しとるみたいやわ。


 それで司令官はんに合格を貰ったら、司令官補佐に契約についての話を聞いて俺が同意したら『ヴレイヴ』に正式加入という形になるらしいわ。で、肝心の二人が今は不在と。あかんやん。

 

「という事はあれですか?今日、此処にきても『ヴレイヴ』の一員───ヒーローにはなれへんって事です?」

「いえ、私の方でも人事に関する権限は持っておりますので加入した、という形で進める事は可能です」


 少々お待ちくださいと、高橋はんが右手に持っていた鞄を床に置いてゴソゴソと漁っている。その様子を黙って眺めていると、高橋はんが鞄からクリアファイルを取り出すのが見えた。


「こちらは契約についての書類です。目を通して頂いて、内容に問題がなければサインをお願い致します」


 手渡されたクリアファイルの中身を確認する。一番上にあった書類は求人票のように業務内容、契約期間、就業場所、労働時間、休日、賃金などが記載されている書類やったんやけど。


「気になる事は質問してもええんですか?」

「はい。私がお答えいたします」

「労働時間と休日の欄に不定って書かれてはるんですけど、これは?」


 尋ねると高橋はんが、ニッコリと笑う。


「我々が相手をするのは『悪の組織(ベーゼ)』の怪人です。何時、何処で、襲撃する等という宣告ありません。ですから『労働時間不定』『休日不定』という形になります」

「えっと⋯⋯」

「怪人が現れれば昼間であろうと、深夜であろうと関係なく出動して頂けると助かります。加入して頂けますとお渡しする事になる、ヒーロースーツに怪人の出現を知らせるアラートがついております。アラートが鳴りましたら原則として現場に向かって貰います」


 ニッコリと高橋はんが笑う。


 ───出会った時の優しげな笑みとは違う、黒い何かが見え隠れしとる。


「休日に関しても同様です。怪人が出現しなければ休みという扱いで構いません。場合によっては連勤が続くかも知れませんが、私共の方で調整は致しますのでご安心ください」


 あかん、一ミリも安心出来へん。笑みを浮かべる高橋はんを見て、書類を持つ手が震えてるのが分かる。


「どうしました?他にご質問があればお答えしますよ」

「えーと、この給与欄の『成果報酬型』って言うのは?」

「それはですね⋯⋯」
















 

 

 

 

 ───書類にサインする時の俺の手はプルプル震えとった。正義(ヒーロー)やのに、えらいブラックやわ。

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