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ザコ弟子無双  作者: 古沢
3/5

03話 お姉ちゃん(仮)

 森の館に住むエルフ、トリーシャに拾われて半年が経った。


「ふわぁ、いい天気だなぁ」


 のどかな昼下がり、今日も僕はベビーベッドの上で、本棚からこっそり拝借した魔導書を読んでいた。


 前世、ゲームや小説が好きだった僕が、せっかく魔法のある世界に転生したんだ、魔導書を読み始めるのは自明の理というものだろう。


 少しだけ開いた窓からは心地よい風が吹き込み、レースのカーテンを揺らしている。

 絶好の読書日和だ。


「ふ~ん、ふふ~ん」


 しばらく良い気分で魔導書を読んでいると、


 ガチャ


 突然、ノックも無く部屋のドアが開かれた。

 僕は慌てて魔導書を毛布の下に隠して視線を上げると、ドアの前には、パンダのぬいぐるみを抱いた少女が立っていた。


「げっ」


 今のは僕の心の声だ。

 いや、実際声に出ていたかもしれない。


「ふふふ……お姉ちゃんね、アンタにプレゼントがあるの」


 絶対ろくなもんじゃない。


 自分を姉と名乗る少女は、片手を背中に隠したまま、金髪のポニーテールを揺らしてこちらに近づいてくる。青く鋭い瞳は、獲物を狙う猛禽類のそれだ。


 少女はベビーベッドをよじ登ると、身構える僕の上に跨り、マウントポジションを取ってきた。


「ほらっ!」

「ひぃっ!?」


 少女が隠していた手を目の前に突き出すと、巨大なカエルが握られていた。



【種 族】ジオフロッグ

【属 性】地属性

【備 考】森林や草原などに生息する大型の蛙。表皮は岩のように硬いが、肉質は柔らかく、南洋の群島国では食用にもされている。



「このカエルね、南の島の国ではご馳走なんですって」


 ゲェコ、ゲェコ、ゲェコ


「だからお姉ちゃんがアンタに食べさせてあげる!」


 冗談じゃない。

 僕は口を固く引き結び、顔を背けるが、


「む、むぅっ!! むぐう……っ!!」


 少女はお構い無しにカエルを押し付けてくる。


(う、うざってぇ……っ)


 なんとかこのアホをシバきたいところだが、



【名 前】クロン・エレウシス

【称 号】転生者

【種 族】人間

【性 別】男性

【年 齢】1歳

【属 性】水属性

【戦闘力】314

【精 神】F

【知 能】B+

【幸 運】F-



 これが今の僕の能力だ。

 あ、ちなみに『クロン』と名付けられました。



【名 前】スオミン・バイ

【称 号】白虎門

【種 族】人間

【性 別】女性

【年 齢】4歳

【属 性】風属性

【戦闘力】860

【精 神】D-

【知 能】F+

【幸 運】S



 そして、これがこの少女、スオミンの能力だ。

 僕はまだ赤ん坊なので、残念ながら戦闘力では敵わない。

 攻撃魔法もまだ練習段階だし、そもそも使う所を見せるわけにもいかない。


(あぁ、もう……! 僕は静かに魔導書を読みたいのに……っ)


 このスオミンという横暴な少女は、ここで一緒に暮らす孤児だ。

 僕の姉を自称し、暇さえあればちょっかいを出してくる。

 最初はだる絡みしてくるくらいだったが、勉強の邪魔なので無視していると、その行為はどんどんエスカレートしていった。


「口を開けなさいクロン! お姉ちゃんの言うことが聞けないの!?」

「むぐぅっ!! むううう……っ!!」


 そしてこの状況である。

 ウザさが天元突破している。

 今の僕にとっては、外の魔物よりもよほど危険な存在だ。


 とはいえ、このままやられっぱなしでいるつもりはない。

 力で勝てなくとも僕は転生者だ。前世で培った知恵がある。


 ばっ――


 僕はスキをついてスオミンの手を振り払うと、素早く息を吸い込み、


「 び ぃ え え え ぇ ぇ え え え っ っ ! ! ! ! 」


 絶叫を上げた。


「こっ、こらっ! 静かにしなさいよっ!」


 それは、通常の赤ん坊のぐずるような泣き方ではない。

 腹にありったけの力を込めて、喉を最大音量のサイレン変える。

 スオミンは僕の口をなんとか塞ごうとするが、


 ガチャン、バタンッ


 遠くからドアの音が聞こえた。

 どうやらトリーシャが僕の声に気付いてくれたようだ。

 すぐにここへ駆けつけて来るだろう。


「もうっ! 覚えてなさいよっ」


 するとスオミンは捨て台詞を残し、風のように窓から逃げていった。


「クロン!」


 入れ替わるようにトリーシャが部屋に入ってくる。


「……? 今、すごい声で泣いてなかった?」


 すでに泣き止んでいた僕に、トリーシャは戸惑っていたが、僕が穏やかに微笑んでいると、しばらくして部屋を出ていった。


「ふぅ……」


 静かになった部屋で、僕はホッと胸を撫で下ろした。


 これでようやく魔法の勉強を再開できる。

 そう思い、隠した魔導書に手をかけると、


 ゲェコ……ゲェコ……


 毛布の下から、さっきのカエルが出てきた。

 スオミンとの攻防のせいで、ずいぶんと弱ってしまっている。


「ごめんよ。君もあのアホの被害者だ」


 じゃあ、ここからは実践練習にするとしよう。



 ◇ ◇ ◇



 『魔法』


 それは人の願いやイメージを魔力によって実現させる(すべ)

 僕はカエルを両手で包み込むと、初歩的な回復魔法の唱句を詠んだ。



「定命に木漏れ日を――『光癒(ヒール)』」



 魔力によって自然治癒力(ホメオスタシス)が大幅に強化され、カエルは瞬く間に元気を取り戻していく。


 ゲェコ、ゲェコ、ゲェコッ


 次に僕は、指先に魔力を集中させてサッカーボールほどの水の球を生み出すと、


 とぷん


 カエルをそっとその中に入れた。


(よし……)


 ここからが難しい。

 僕はカエルの入った水の球を魔力で操作し、開いた窓へと徐々に近付けていく。


「くっ……」


 最初は綺麗な丸だった水の球は、僕の手から遠ざかるにつれて形が歪になり、動きのブレも大きくなっていく。


「はぁっ、はぁっ……」


 まだ遠隔操作は難しく、魔力の消費も大きい。

 それでもなんとか窓の外まで運び出すと、僕は水の球の魔力を解いた。


 ぱしゃん


 水の球が割れると、カエルは解放を喜ぶようにゲコゲコと鳴きながら、どこかへと去って行った。


「ふぅ……もうあのアホに捕まるなよ」


 一仕事終え、僕は大きく息を吐いた。

 思いがけないハプニングだったが良い魔法の練習になった。



【戦闘力】316



 ステータスを確認すると【戦闘力】が僅かに上昇していた。

 成長は嬉しいのだが、基本魔法の『光癒(ヒール)』と単純な水の生成と操作で、総魔力のほぼ全てを使い果たしてしまった。改めて己の未熟さを痛感する。


 とはいえ、僕はまだ赤ん坊だ。転生者というアドバンテージもある。

 つまり、伸びしろしかないというわけだ。


「よーし、やるぞーーっ!」


 僕は気合を入れると、傍らの魔導書を手に取り、勉強を再開するのだった。

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