02話 見知らぬ森
「ん、んん……」
僕が再び目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中だった。
雰囲気からして早朝だろうか、周囲は澄んだ空気に満ちている。
あの光る果実をかじってからの記憶が無い。
それに、なんだろう、頭が重いような……、
と、そこで違和感に気付く。
なんと僕の体が小さく縮み、赤ん坊になっていた。
「なぜ?」、「どうして?」疑問が頭の中をグルグルと巡るが、やがてひとつの可能性に辿り着く。
まさか……これが『異世界転生』ってやつか?
突飛な話だが、今の状況を総合的に考えるとそうとしか思えなかった。
「でも、なんでこんな所に……」
これが異世界転生だとして、僕に両親は居ないのだろうか?
まさか、森に捨てられたとか?
とにかく人を探そうと、僕は意を決して体を起こした。
ガササッ――
その時、近くの茂みから、黒い影が飛び出してきた。
【種 族】コボルト
【属 性】無属性
【戦闘力】510
【精 神】G
【知 能】E-
【危険度】G+
【備 考】狼の頭を持つ人型の魔物。臆病で危険を察知すると一目散に逃走する。
「ま、魔物!?」
それはコボルトという種族の魔物だった。
「ぐるるるる……」
そのコボルトは左目に傷があり、喉を鳴らし僕を威嚇してくる。
どうやら弱い種族のようだが、この体では抵抗する術がない。
「く、来るな……っ」
僕は手を振り回して必死に追い払おうとするが、コボルトは唸り声を上げながらジリジリと距離を詰めてくる。
「グルアアアアッッ!!」
「っ……」
そして間合に入った瞬間、牙を剝きコボルトが飛びかかってきた。
「『火炎砲』!!」
その時、木々の合間から飛来した火の玉がコボルトに直撃した。
「ぎゃぃいんっ!?」
不意討ちに驚いたコボルトは、火達磨になりながら地面を転げまわると、情けない声を上げながら、茂みの中へと逃げていった。
そして、森に静寂が戻る。
「た、助かった……」
危機が去り、僕は大きく息を吐き出した。
それにしても、あの火の玉は一体……。
まるで、意思を持つようにコボルトに吸い込まれた気がする。
ここが異世界だとすると、もしかしてアレが『魔法』というものだろうか?
と、そんなことを考えていると、
「なんでこんな所に赤ん坊が……」
木陰から、緑色のケープを羽織った金髪の女性が姿を現した。
【名 前】トリーシャ・エレウシス・リョースアールヴ
【称 号】賢者
【種 族】エルフ
【性 別】女性
【年 齢】3,025歳
【属 性】木属性
【戦闘力】88,276
【精 神】A+
【知 能】S-
【幸 運】A
女性は、人間離れした美しい容姿と長い耳を持つ、トリーシャという名のエルフだった。
どうやら彼女がコボルトを追い払ってくれたようだ。
「よしよし、もう大丈夫だよ」
トリーシャは、僕を抱きかかえながら優しく語りかけてくる。
それは初めて聞く言語だったが、何故か僕は理解する事が出来た。
「こんな場所に捨て子とは……ウチに来るか? ん?」
こうして僕は、トリーシャというエルフに育てられることになった。