01話 知恵の実
目を覚ますと、そこは一面の花畑だった。
「なんでこんな所に……」
ぼんやりとした頭で記憶の糸を手繰っていく。
車道に飛び出す少年――迫るトラック――宙を舞う視界――サイレンの音。
あぁ、そうか。
僕は車道に飛び出した少年を庇って……
「死んだのか……」
どうやらここは天国のようだ。
衝撃の事実に、僕は近くにポツンと生えていた木の根元に力なく座り込む。
僕の名前は、志田 景斗。29歳。
まだ20代なのでギリギリおっさんではない。
……おっさんではない。
子どもの頃は、人並みに夢もあった気がする。
だけど大人になるにつれ、一つまた一つと何かを諦めていった。
「平凡な人生だったな……」
でも、最期に子どもを助けられたんだ、僕の平凡な人生にも少しは意味があったと思いたい。
「……ん?」
ふと見ると、木の葉の間で何かが光っていた。
僕は木の幹に足をかけ、その光に手を伸ばしてみる。
「なんだこれ?」
それは、淡く光る林檎のような果実だった。
鼻を近づけてみると甘くいい香りがする。
くー
匂いにつられ、思わずお腹が鳴ってしまった。
そういえば朝から何も食べていない。
「……美味しいのかな」
得体の知れないモノへの警戒心を、空腹と好奇心が上回った。
ダメそうなら吐き出せばいいかと、僕はその実をかじってみた。
かぷっ
【名 前】詳細不明
【称 号】詳細不明
【種 族】詳細不明
【性 別】詳細不明
【年 齢】詳細不明
【属 性】詳細不明
【戦闘力】詳細不明
【精 神】詳細不明
【知 能】詳細不明
【幸 運】詳細不明
「――!?!」
すると、雷に打たれたような衝撃と共に、頭にステータスのようなモノが浮かんだ。
「なんだ、これ……っ!?」
それを皮切りに、膨大な情報が洪水のように流れ込んでくる。
見知らぬ景色。
見知らぬ人々。
強制的に流し込まれる『誰かの記憶』に脳が焼き切れそうになる。
「ぐっ……ううぅぅ……――……――」
途切れかける意識の中、僕の目に、ふと幸せそうに微笑むピンク髪の女性が映った。
「キミ、は……」
彼女を見て、僕は何かを思い出しそうになるが、
「……――――」
次の瞬間、視界が白く染まり、僕は完全に意識を失った。