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竹取妖呪~Act.4 かぐや姫の帰還/4

「―――油断したわね。サクラ」

「あら、油断じゃないわよ。ただの失策。まさか、物の怪を操っていたのが、彼だと思わないじゃない?」

 それを油断というのよ。トモミは笑いながらそう言って、森の奥に潜むそれを見つめた。

「あなたが呪縛王? かぐや姫ならもう竹取妖呪を読み始めているわよ。そんなことをするくらいならば、すぐにでもかぐや姫の元に向かって、直接彼女を殺すべきじゃないかしら」

 サクラの失策。それは、本来現れる予定のなかったものがここにきて現れ、しかも正宗丸を人質に取ったということ。どうにか彼を追い詰めて時間稼ぎは出来たものの、トモミが来るまで双方動けないような状態に陥ったのは、完全な失敗だったのだ。

 巨大な木を背にし、正宗丸を人質に取っている妖。骨と皮だけの即身仏のような体をした彼こそが、竹取妖呪が『呪縛王』であると物の怪たちを騙し、彼らをこの山へ連れてきた張本人である。本物の呪縛王―――藤原不比等その人だ。

「偽者は私が始末したわ。あなたに代わって竹取妖呪を手に入れて私を呪い殺そうとしたみたいね。わざわざあなたの子孫だって言ってきたのよ。滑稽だったわ」

「―――これまでか」

 呪縛王は呟き、正宗丸を解放する。そして、トモミを見た。

「妖忌妃よ。私を殺すとは、さすがだ」

「殺してなんかいないわよ。あなたの本当の気持ちを伝えてあげたじゃない。―――どちらかといえば、恋のキューピットよ」

 それとも、と彼女は冷酷な目で彼を見つめ返す。

「あなたも長すぎる生に、心を狂わせたのかしら?」

「その逆だよ、妖忌妃。私は長く生きすぎた。それ故に、今目前に迫る死を受け入れられない。死がたまらなく怖いのだ」

 呪縛王はそう言って、トモミに助けを請う。

「死ぬ前に、あなたの手で殺してはくれないか? 不死である私を殺すことが出来るのは、あなただけなのだ。頼む」

 ダメよ、と妖忌妃は笑う。

「人を呪わば、穴二つ。―――誰かを殺そうと呪うなら、その願いの成就は、すなわち自分の死。あのタツヤを名乗る妖も言っていたわ。あなたは自分の呪いに食い殺されたって。まさか、自分が不死だって嘘付くとは思ってなかったけど。傑作だったわよ」

 喜んで死になさい、あなたはこれで救われたわ。トモミはそう言い、再び姿を消す。だが、その場に残ったサクラは呪縛王を見つめている。

「―――霊冥姫・・・。助けてくれ」

 差し伸べた手を、サクラは蹴る。

「私の使用人を人質に取っておきながら、随分な口が利けるのね、呪縛王。―――私も驚いたわ。まさか、自らの呪いの成就を恐れて、わざわざ自分から出向くなんてね。しかも、物の怪までけしかけさせて。大迷惑よ。そのせいで、物の怪の長が一人死んだんだから」

 その責任、取る覚悟は出来てる? サクラはそう訊ねて、正宗丸の刀を抜いた。すると、正宗丸は刀に宿り、刃は深い闇の色に包まれる。

「―――呪いが成就するその時まで、あなたは不死なんでしょう? 今日死んだ物の怪たちの恨み、受け取ってから逝きなさい」

 サクラはにっこり微笑んで、そして呪縛王の頭を切り落とした。

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