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竹取妖呪~Act.4 かぐや姫の帰還/3

 物の怪との戦いは夕方まで続いた。しかし、日が暮れ始めると、とたんに物の怪は姿を消したのだ。御伽はトモミに正宗丸のことを伝えたが、サクラが来ている事を知っていた彼女はサクラに任せればいいと御伽を説得し、彼女は本来の目的を果たすため、タツヤを避難させていた場所へ向かう。そして、彼を連れてくると、月の姫が降りてくるという場所に急いだ。

 堕人が堕ちてくる場所。そこは山の頂上にあるやけに開けた空間だ。そこだけぽっかりとただの草原となっているその場所は、月明かりが眩しく輝いている。神秘的な光景だ。

「ここに、かぐや姫が降りてくるのですか?」

「ええ。堕人の長はそういっていました」

 タツヤは空を見る。しばらくそうしていると、不意に月に影が射した。彼は空を指差し、見てください、と言う。

「あれが、かぐや姫・・・?」

 ゆっくりと空から降りてくるのは、御伽が想像していたかぐや姫とは明らかに違う存在だった。竹取物語から想像するに、きっと神々しい光に包まれた者なのだろうと思っていたのだ。

 だが、その予想とは大きく外れ、古びた着物を身に纏った女性。不老不死だと言う噂の通り、その姿は若く美しかったが、話のような輝きも、美しさもなく、まさに、囚われの姫のような雰囲気だった。

「―――さあ、早く竹取妖呪を」

 タツヤはトモミを急かす。しかし、トモミは落ち着いた様子で、彼を見たまま動かなかった。

「あなた、本当は何者なのかしら?」

「何を言っているんですか。今はそれどころじゃないでしょう?」

 いいえ、とトモミは首を振る。

「もう分かっていることなのよ。―――あなたがただの竹取妖呪を狙う妖だってことは」

「――――っ」

 そうか、とタツヤは笑う。そして彼は右手を掲げ、堕人を呼び寄せた。周囲を取り囲む、堕人の群れを見て、御伽はすぐさま妖扇子を取り出す。

「さあ、お前たち。竹取妖呪を奪い取れっ!」

「奪う必要はないわ。欲しいならあげるわよ」

 そもそも堕人と戦う気なんてないわ。トモミはそう言い、本をタツヤに渡した。

「これが、これが、俺が追い求めた呪いの書、竹取妖呪・・・。これがあれば、妖忌妃など、怖くはない・・・っ!」

 さっそく、お前を呪い殺してやる。トモミを睨みつけ、彼は本を開いた。

「ついに貴様への恨みを晴らす時が来た。さあ、呪い殺せっ!」

「愚かね」

 呟くトモミ。タツヤは竹取妖呪を開いて呪いをかけようとするのだが、何も反応はない。トモミはタツヤから竹取妖呪を取り上げると、彼を吹き飛ばした。

「竹取妖呪で私を殺せると思っていたのかしら? だとすれば残念」

 この原本は、呪いの本ではなく呪縛王の残した本にすぎないのよ。彼女はタツヤの体を無に返す。タツヤはまるで土に還るかのように崩れていき、その姿を消した。

「さて、後はこの堕人を元の洞窟に帰せばおしまいね」

「待ってください」

 その声に、トモミは彼女を見た。ゆっくりと降下してきたかぐや姫がようやく地に降り立ったのである。

「私は月の姫。あなたの世界で『かぐや姫』と呼ばれる者です。彼らの処遇は、私に任せてはもらえないでしょうか?」

「別にいいけど、一体どうする気?」

 それは、と呟き、そして、姫は笑う。

「喰らうのですよ」

 姫の周囲に、異様な妖気が漂う。トモミはすぐさま御伽を抱き寄せてその場を離れた。

「トモミさん、あれは・・・?」

「不死の死は長すぎる生による精神崩壊と言う話は本当だったのね」

 どす黒い土が、周囲にばら撒かれ、その刹那、そこにいた堕人は飲みつくされる。あれがあのかぐや姫なのかと思うと、トモミは嫌気が差した。不意に彼女は御伽に言う。

「あれが、不老不死となったものの末路よ。覚えておきなさい、御伽。人には不死なんてもの、必要ないのよ」

 長すぎる時、永遠に終わらない自らの存在は死よりも恐ろしいもの。それに耐えるだけの強い精神力は人間にはないのよ。

「これで、いい。ようやく、あなたたちも救われたでしょう?」

 姫は笑う。そして次はトモミを見つめた。

「面白そうなおもちゃ、見ぃつけた」

 空を飛び、一気にトモミまで距離を詰める。咄嗟に御伽を捨て、そのまま空に上がるトモミ。それを追って、姫も急上昇した。

「あなたは、まだまともなのかと思っていたわ」

 トモミの言葉に姫は首をかしげる。

「あら、私は最初からまともよ。とりあえず、かわいそうな同胞を殺してあげただけね。―――これが普通の不死者なら、あの姿を見てすぐにでも発狂死しちゃうわ」

 でも、私は違うの。姫はそう言い、その刹那、光の弾を呼び寄せた。

「私はね。狂ってなんかいないわ。最初からこうだったのよ。考えても見なさいな。私は竹取構想のためだけに数年も人生を無駄にした。しかも、不死者の陰謀に巻き込まれて私まで不死にされて、姫として祭り上げられても、不死だってことがばれたらすぐに閉じ込められた。そんな、そんな人生で、満足できるわけないじゃない」

 私は、恨んでいるのよ。

「月の民も、不死の人間たちも、そして、のうのうと生きているあなたたちも。皆殺すまで、私だって死ねないのよ!」

 光の弾はトモミに発射される。その存在を消し去って、彼女は姫に接近する。

「かぐや姫。愚かね」

 トモミは姫を地上に叩きつける。ずん、と地上が揺れた。

「私は、何もかもを殺すの。復讐するまで、死ねないのよ」

「そうやって何もかもを恨み、呪うことで心を壊すことなく今日まで生きてきたのね」

「そうよ。だから、殺させなさい。私の呪いで」

 姫は呟くように何かを言う。その刹那、黒い土がトモミを飲み込んだ。堕人を喰らったあの土だ。しかし、トモミは動かない。

「残念すぎるわね。こんなのが、竹取妖呪の結末だなんて」

 土が、トモミを飲み込む。だが、それでも彼女は動かなかった。

「もういいわ」

 しかしその土はトモミに触れたと同時に消滅する。

「さ、次は何かしら? どんなものが来ても良いわよ。私、今日は機嫌が悪いから。相手をしてあげる」

 ずっと追い求めた竹取物語の完結。しかしそれに竹取妖呪を狙う妖による罠と物の怪の襲撃という無粋な邪魔が入り、そして結末も、このようなお粗末さ。千年近くも待たされた物語の結末が、これだなんて。トモミは怒りに震えていたのだ。

「殺してあげるわ。あなたの、全てを・・・」

 かぐや姫は再び攻撃に入る。黒い土、空から落ちる光、彼女から撃ちだされる光の弾、だが存在を操る彼女には、どんな攻撃も通用しないのだ。全てを破壊され、持てる全てを出し尽くしたかぐや姫は驚き、目を丸くしていた。そこに、彼女は竹取妖呪を投げ渡す。

「それでも読んでいなさい。―――その間に、私は一仕事終わらせてくるわ」

 トモミは御伽を捨てた場所まで戻り、彼を呼ぶ。

「何をしているのかしら? さっさと戻りなさい。じゃないと、永遠に竹取妖呪が読めなくなるわよ」

「竹取妖呪があるのですか?」

「かぐや姫が持っているわ。私はこれからサクラの所に行って来るから、あの子のそばにいてあげて」

 御伽は了解しました、と先の開けた場所に戻っていく。トモミはそれを見送ると、すぐにサクラの気配がする場所に向かった。

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