竹取妖呪~Act.4 かぐや姫の帰還/2
物の怪狩りが始まって既に数時間が経過していた。トモミは見つけた物の怪を片っ端から消し去っていく。その表情には一切疲労の色は伺えない。だが、物理的攻撃を中心とする正宗丸やそもそも人間である御伽は別である。すっかり疲労し、動きは鈍りつつあった。
「情けないわね。―――それでもサクラの刀なの?」
「言うな。―――元々、私は剣士じゃなくただの小間遣いだ。剣術など、主上の趣味につき合わされてるだけなんだ」
大体、小さな少女のような体なのだ。手足もかなり細く、とてもじゃないが剣など振れる体ではない。その体型で身長二メートルを超える物の怪を一撃で真っ二つにするだけでも十分におかしいのである。
「まあ、たかが百年級の物憑きにしては、十分よ」
ここにいる物の怪は皆、二百年から三百年級のものだもの。本来なら、あなたじゃとても倒せるものじゃないわよ。トモミはそう言って、正宗丸の頭を撫でた。子ども扱いするなと、その手を払いのける。
「では、なぜ―――倒せるの、ですか・・・」
息が上がって、苦しそうに訊ねる御伽。トモミはさあ、とあいまいな言葉で返事する。
「普通、満月は物の怪の力が増すものなのに、今日はなぜか落ちている。―――どういうことなのかしら」
トモミは宙に浮遊しながら考え出した。しかし、考えつかなかったのか、今、気にすることじゃないわ。そう言って再び群れの中に飛び込んだ。
「消えなさい。愚かな物の怪たち」
手をかざすだけで物の怪たちは跡形もなく消滅する。あれが本来の妖術王の姿。あらゆる妖を凌駕する、圧倒的なその能力に御伽は息を呑む。
「―――しかし、おかしい、ですね」
それと同時に、御伽はトモミの行動に疑問を抱いていた。妖と人との共存を目指したあの妖忌妃がどうして物の怪だけには容赦なく攻撃を加えるのだろうか。先日の妖についての講義の際に、確かに物の怪を嫌っている様子はあった。だが、トモミはただの毛嫌いだけで殺してしまうような低俗な存在ではない。あの行動には何か理由があるのだ、御伽はそれを考えていて、すぐ近くまで迫ってきていた物の怪の存在に気がつかなかった。
がさっと、木々を分ける音がした瞬間にはもう遅い。物の怪は一瞬で御伽の体を切り裂こうと刃のように鋭い爪を振るう。正宗丸が小太刀を投げてその爪を壊していなければ、それにやられて死んでいただろう。すぐさま妖扇子で物の怪を薙ぎ払うと、正宗丸の小太刀を拾う。
「すみません。考え事をしていました」
「全く、気をつけてくださいね」
御伽から小太刀を受け取ると、正宗丸は再びやってきた気配に身構える。今度はどうやら大物のようだ。
「来ますよ。どうやら、この群れのリーダー格のようです」
刹那に飛んできたのは引っこ抜かれた森の木。御伽に当たらないように切り裂くと、正宗丸は二刀を構え、森の奥を見つめた。
「―――少しは出来るようだな。物憑きの女」
「少しじゃないな。―――ひとまずあなたよりは優秀だ。物の怪」
森の奥から現れたのは、巨大な猿。大きさは今まで戦ってきた物の怪の倍以上はある。明らかに今までのものとは違う。正宗丸は、御伽に逃げるように言う。だが、御伽は逃げるつもりはないと、妖扇子を構えた。
「バカっ! あなたじゃ相手にならないんで―――」
言葉は中断させられた。物の怪が放った見えない一撃が正宗丸を吹き飛ばしたのである。
「正宗丸っ、無事ですか?」
「―――普通、物の怪は知性を持つことを自らの能力とし、特別な能力などは宿さないものなのです。だが、あれは違う。あれは長く生きたため、また別の能力を獲得した物の怪。―――これまでの連中とは一線を画す存在です」
早く逃げて、トモミさんに知らせてください。正宗丸はそう言って、御伽の体を遠くに投げ飛ばす。少女に投げられたとは思えない飛距離に吹き飛んだ御伽は、木にぶつかった後、トモミの元へ走った。
「逃がすのか、―――まあ、どうせ後で殺すがな」
物の怪のリーダーはそう言って、拳を握る。
「待て、物の怪。その前に聞きたい事がある。―――どうして今、この森にやってきた? ここにはお前たちが求めるものなど何もないだろう」
その言葉に、彼は笑う。
「何を言っている? ここにはあの五大妖『竹取妖呪』がいるのだぞ? それだけで十分じゃあないか」
「―――そんなもの、お前たちには必要ないだろう?」
「貴様、我らを何か勘違いしていないか? 物の怪は、ただの動物ではない。貴様らと同じ妖だ。力を示し、五大妖の地位を得ようとしてもおかしくはないだろう?」
五大妖の中でも三番目の実力を持つという妖である『呪縛王』を倒すつもりなのだろうか。正宗丸は笑う。
「何がおかしい?」
「こんな小娘一人、一撃で葬り去れないような妖が、五大妖になれるとでも思っているのか?」
正宗丸は刀を一度収め、構える。
「愚かにもほどがある」
放たれた剣撃は一撃で物の怪を穿つ。そのまま倒れ、消え去ったのだが、正宗丸は気付いていなかった。この物の怪の後ろに隠れていた妖こそ、真のリーダーであることに。
「真に愚かなのはキミのほうじゃないかな?」
正宗丸の体に妖の膝が入る。不意を突かれた一撃に、彼女は何一つ抵抗できなかった。
「竹取妖呪が五大妖だと・・・。最近の妖は、誰が五大妖なのかを知らないと見える。この物の怪たちといい、本当に愚かだよ」
そのまま彼女は気絶し、妖にもたれかかった。それを抱えて、妖は姿を消す。
サクラは、突然消えた正宗丸の気配に動きを止めた。周辺を見渡すが、どこにも彼女の気配はない。
「正宗丸に何かあったのかしら。―――まあ、弱っているとはいえ物の怪は物の怪。油断すれば負けることもあるかしらね」
後でおしおきね。サクラは呟いて、先に進んだ。