竹取妖呪~Act.3 月と物の怪/4
どんなに探しても、彼女の姿はなかった。もう既に時間は正午を過ぎている。闇雲に探し回ったため、もう既に道など分からない。このまま日が暮れてしまえばもはや遭難ともいえるレベルだ。それでも御伽は正宗丸を探して走った。
「くそ・・・どこに行ったんですか。あの妖は」
薄暗い森の中。木漏れ日すら射さないような深い森の奥。御伽はそのさらに奥を目指して進んでいく。獣道すらないその場所。あまりの道の悪さに思うように先へ進めない。鞄に入れていたサバイバルナイフを片手に道を切り開いていく。すると、突然やけに開けた場所に出た。辺りを見回すと、そこには古びた屋敷がある。どうやらこれが目的の藤原氏の家らしいが、今は正宗丸を探すほうが先だ。
玄関のほうに周り、再び周囲を確認する。すると、さらに先に進んだ奥に、先の妖の姿が見えた。
「正宗丸っ!」
妖を追いかける。だが、不意に現れた黒衣の女性にそれを阻まれた。
「あら、御伽じゃないの。どうしたの?」
「正宗丸が妖にさらわれたんです。その妖は『呪縛王』を追っているみたいなんです」
「呪縛王を? まさか、あの妖は消息が定かじゃない妖なのよ? 私だって一度も見た事がないくらいなのに」
「いいから、早く! 正宗丸を見失います!」
トモミの手を掴み、妖の後を追う。しかし、その気配を察知したのか、妖は堕人をこちらにけしかけた。彼らは道を塞ぎこちらの進路を妨害するつもりなのだろう。だが、今はもう先の御伽ではない。トモミから彼女の妖扇子を受け取ると、堕人を薙ぎ払う。
「私が出る幕はなさそうね」
トモミも面倒なのか、自ら手を下さない。全てを御伽に任せ、彼に手を引かれるがまま森の中を走る。そうしているうちに、妖が自らの目で確認できるほどの距離までやってきた。
「大猿の物の怪ね。蛮族のくせに『呪縛王』を倒せると思っているのかしら」
後は私に任せなさい、と御伽の手を離し、刹那、姿を消す。次の瞬間、物の怪の真正面に現れて妖の腕を切り落とす。
「下賎の妖が、五大妖の刀に触れるんじゃないわよ」
切り落とされた右腕から、正宗丸の刀が落ちる。すると不意に正宗丸が姿を現し、刀を抜く。
「はあぁぁぁぁっ!」
低い姿勢からの切り上げ。その一撃は妖を一刀両断し消滅させる。彼女はその場にしゃがみこみ、ようやく一息ついた。
「大丈夫かしら、正宗丸?」
「ええ。一応は」
正宗丸はすぐに立ち上がる。そして、森のさらに奥を見る。
「あなたがいながら、この惨状は一体何なのですか?」
「私がいてもこうなる運命だったのよ」
しょうがないじゃない。トモミは森の奥にいる物の怪の群れを見つめながらそう言った。
朝、トモミがタツヤの家を訪れた時、既に森の中は物の怪で溢れていた。一体どうしてこうなったのかは分からない。タツヤが言うには今までこんなことは一度もなかったらしい。月の姫が帰ってくることを妖たちも察知して、彼女を見物に来たのであれば平和的だが、相手は妖の中でも蛮族とも言える存在の物の怪だ。姫を力でねじ伏せて、我が物にしようとしている可能性のほうが高い。
トモミはタツヤを一時的に安全な場所に避難させた後、物の怪の退治に動き出した。しかし、物の怪の数は増すばかり。物の怪にとって月の姫はそんなにも重要な存在だっただろうかと思い返すが、心当たりはない。
「一体何の目的で集まっているのやら」
トモミは再び姿を消す。刹那、正宗丸のところへ一斉にやってくる物の怪たち。
「正宗丸、危ない!」
御伽は妖扇子で物の怪を薙ぎ払う。しかし、それだけでは倒せなかった物の怪は正宗丸に爪を立てる。だが、それは彼女に触れる前に切断された。
「残念ですが、遅すぎますね」
一度、刀を鞘に収めてから、再び刃を抜く。刹那、正宗丸のほうに向かっていた三体の物の怪が同時に消滅する。居合い抜きだ。
「すごい腕前ですね。生前の特技か何かですか?」
「いえ。物憑きになってから覚えた技です。四十年ほどしかやっていませんよ」
それだけやっていれば人間なら達人レベルだ。強いわけである。
「トモミさんを追いますよ。正宗丸、行けますか?」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
しっかりついてきてください。彼女はそう言って真正面の物の怪を薙ぎ払った。