竹取妖呪~Act.3 月と物の怪/2
その死因は発狂死。あまりに長すぎる生は、とうとう人間の気を狂わせたのだ。それをきっかけにして、次々と不死者は死んでいった。中心となっていた不死者の死を受け、再び月の民が月の政権を獲得する。長すぎた生に疲れ果てた不死者は再度行われた竹取構想に従って、次々と星送りにされた。そして、その最後となるのが彼女「かぐや姫」である。最後の不死者にして、未だ強い力を持つ彼女。本来ならばまだ幽閉し、死が近づくのを待つべきなのだが、一刻も早く不死者を全て葬り去らなければならないと焦る月の民たちによって彼女は今夜、月から追放され、地上に降りてくる。
トモミは竹取構想のことは知っていた。しかし長きに渡る封印で力を奪われていたため、昨今の情報は一切入っていなかった。それ故に、今回の「かぐや姫の帰還」は予想外で、何よりも楽しみであった。
彼女はまさかこんなにも早くかぐや姫が星送りにされるとは思っていなかったのである。正直、もう千年はかかるかと思っていたくらいだ。結末のない物語を嫌う彼女にとって、竹取妖呪とは完結までに千年かかる不完全なものだった。だが、もうすぐこの物語は結末を迎える。数百年待ったかいがあった、とトモミはこの夜が待ちきれないほどにワクワクしていたのである。
「月も変わったわね。私の知っている月は、ちょうど、一人目の不死者が死んだ頃よね。まあ、こうなることは予想通りだったけど」
遅かれ早かれ物語は終わるわ。彼女は夜明けの光を見つめて、笑う。
「明けない夜はない。どんなに長い物語も、いつかは結末を迎え、終わってしまう」
でも、私は違う。トモミは呟いて、タツヤのいる家に向かった。
「御伽さん、御伽さんってば」
正宗丸は御伽の体を揺らす。しかし、一切起きる気配のない彼を見て、彼女は困ったような表情で笑った。
「やれやれ、一人で野宿して。そのくせ寝坊とは困ったものです」
目的の町には昨日の夜のうちに到着した。しかし、何せ勢いだけの旅。金もろくに持ってきていない御伽は安い宿に正宗丸を泊まらせ、自分はその辺の公園に野宿したのである。別に二人で泊まっても問題はなかったのだが、御伽はそういうことにこだわる性格らしく、正宗丸の言葉も聴かずに出て行ってしまったのだ。
「私は冥界と現世を自由に行き来できるのですから桜花亭に帰っても良かったのですが・・・全く、変わった人だ」
正宗丸はまだ御伽が目覚める様子がないのを確認して、一人、歩き出した。人の少ない静かな農村。遠くにはちらほらと農作業をする人の姿はあるものの今までいた東京とは違う懐かしい風景に正宗丸は嬉しそうに深呼吸した。
「あの町とは大違いですね。―――今も昔も変わらないこの風景」
主上は一人で大丈夫なのでしょうか、とふと思うが、まあ、心配いらないだろうと御伽のほうに向き直る。御伽はようやく目覚めたようで、ゆっくりと起き上がった。彼女はそれを見て、すぐに御伽の元に走る。
「おはようございます。―――さあ、今日は藤原家の屋敷に行くんでしたよね?」
「ええ・・・。すぐに行きましょう。山奥だそうですから、早く行かないと、山で夜を向かえることになるかもしれません」
気だるそうに御伽は立ち上がり、鞄を手に持って、彼女を見た。
「さて、行きますか」
出発進行です、と無邪気に笑う正宗丸。