竹取妖呪~Act.2 真実の物語/2
「結局、手がかりは何もありませんでしたね」
午後はカヤノと共に図書館で資料探しをした。正宗丸は成果がなかったことがつまらないのかため息をつく。
「まあ、分かっていたことですけどね」
一人状況を把握していないカヤノは特に暇そうにしていたらしく、まだ眠い目をこすっていた。
「すみませんね、カヤノ。車を出してもらったというのに」
「あ、いえ。いいんですよ。どうせ暇だったし」
それよりも、とカヤノは興味津々に正宗丸を見た。
「いつのまに子供なんか作ったんですか?」
「「違います」」
御伽と正宗丸の声が重なった。
「親戚の子を預かってるんですよ」
「第一、私は子供じゃありません。二十歳前ではありますけど」
「ふぅん・・・。でも、まあ。御伽さん、くれぐれも間違いのないようにしてくださいね」
彼女は一体何を勘違いしているのだろうか。気にはなるが追求はしないで置こう。御伽はため息一つ、彼女の車に乗った。
「本当にここまででいいんですか?」
最寄りの駅まで車に乗せてもらい、二人はそこで降りた。
「ええ。これからまた取材に出かけますので」
「気をつけてくださいね」
正宗丸は去っていく車を見つめながら、再びため息。
「どうかしましたか? 正宗丸」
「いえ。勢いだけで妙なことをしてもダメな気がするだけです」
もう少し考えて行動したらどうでしょうか。正宗丸の言葉に、勢いだけじゃありませんよ、と御伽はそう言ってメモ帳を取り出した。その中には竹取物語の内容と、それに関するありとあらゆる情報が適当に羅列してある。正宗丸はそれを見て、頭が痛くなる。何せ手のひらサイズのメモ帳に殴り書きの文字でそれだけの情報が記入されているのだ。本人以外が読めるようなものではない。
「竹取妖呪、という名前である以上、呪いがテーマとなっているのでしょう。だとすれば竹取物語そのものか或いは登場人物や作者に恨みのあるものが書いたということになる。紀貫之が書いたとあなたの主が明言した以上、竹取物語の作者は紀貫之であると断定できる。だとすれば、これに恨みがある人物は多数いるでしょう。――――ですが、推測と仮説はこれで終わりじゃない」
それが、今回の行き先です。御伽はそう言いながら歩き出した。正宗丸もそれについていく。
「その多数の恨みを持つ者たちに関する情報は残念ながら得られませんでした。ですがトモミさんとサクラ、二人の発言を受けて竹取物語を真実の話とするならば、話も違う。この呪いは恐らく紀貫之に対するものではなく、竹取物語の登場人物―――かぐや姫に向けられた何者かの呪いだと予想しました。そこで竹取物語を解き明かすとうらみの感情を抱いている可能性が高いのは五人の貴公子でしょう。これらのモデルとなった貴族たちの中で、唯一、現在でも大きな力を持った家系があるのです」
それは、藤原不比等の家系です。御伽がにやりと笑ったのを見て、正宗丸はぎょっとする。温厚そうな彼がこんな表情をするのかと。
「彼の家系は現在でもとある山を所有し、そこのふもとで生活しています。しかし、その周辺地域には町などはなく、特にこの家は大きな事業も、家庭菜園のような自給自足の生活もしていないそうです。不思議だと思いませんか? 働きもせず、町にも出ず、その屋敷の中だけで生活できているというこの状況。―――そこで、トモミさんに教えてもらったことがひとつ」
『人間妖怪や物の怪とは違い、生物ではない物憑きや魂魄たちは食物を取ることこそ出来るものの、それは生物であった時の習慣であり、存在を維持するのに必要ではない』
「つまり、この家に住む藤原氏の子孫は食べることを必要としない妖なのではないだろうか、と推測したのです。これからこの藤原家に向かい、真相を解き明かします」
「―――図書館にいただけなのに、どうやってそれだけの情報を得たのですか?」
彼女の質問に、御伽はまた笑う。
「私の情報網をなめてはいけませんよ」
本当は彼も妖なのではないだろうか、と思う正宗丸であった。