竹取妖呪~Act.1 もう一つの竹取物語/2
「とはいえ、どうやって調べればいいのか・・・」
現存しないものをどうやって探せばいいのやら。御伽はそう思いながら、ひとまずは今存在するほうの竹取物語を読んでみることにした。
竹取物語とは、いわゆる「かぐや姫」である。
昔々、竹取の翁という人が、竹林の中に光る竹を発見した。その竹を切ると、中には小さな女の子が入っていた。その女の子は数ヶ月で成長し、たいそう美しい姫になった。そんな彼女に求婚した五人の貴公子。しかし、姫の出した難題に彼らは応えられず、さらに彼女は帝からの求婚すらも断った。
それから数年して、姫は月を見ては泣くようになった。どうしてかと翁が訊ねると、姫は月に帰らなくてはならないと言う。月よりの使者から姫を守る為、帝はたくさんの兵士を送り、翁の屋敷を守らせた。しかし、やってきた使者の神々しさを見てだれもが戦意を失い、姫は月に帰っていった。その際に姫から送られた不死の薬は帝の命によって山に捨てられた。それからその山は不死の山となり、その山からは常に煙が上がるようになったという。
これが、世間一般的に広まっている竹取物語である。古代日本のSF小説とでも言えばいいだろうか。ところどころに当時の人間が考えたとは思えない完成度の高さを感じさせる物語である。だが、それ故にその完成度に違和感を覚えた。まさか、と思う。
気になった御伽は、すぐにトモミの所へ行き、その疑問を訊ねた。
「もしかして、竹取物語は本当にあった話なのですか?」
何を今更、とトモミは言う。
「今までこれだけのものを見てきてからに、そういうことを言うの、あなたは」
呆れかえるわ、と御伽から視線をそらして、まるで他人事のように言った。
「何にも無いところからモノを生み出す妖がいるくらいなんだから、月にウサギくらいいるわよ」
トモミの向かいでお茶を飲んでいたサクラも他人事のようだ。そんなんじゃ一生かかっても竹取妖呪には至らないわね、とも言ってくる。
「竹取、よう、じゅ?」
「そう。竹取妖呪。それが、もう一つの竹取物語の俗称ね」
呪い、という言葉がタイトルにある時点で嫌な予感がする。しかし、一度気になってしまったものは解き明かすまで止められない。御伽は一体どんなものなのかと、サクラに訊ねた。
「知らないわよ。私は平安末期の生まれだもの、私が物心ついた頃には既に竹取妖呪は噂だけのものになっていたわ。でも、結構悪い噂は聞いたわよ。平安京では一時期、結構呪いとかそういう騒動があったじゃない? それは全部竹取妖呪を用いたものだとか。そのせいで、竹取妖呪を読んだものは死ぬ、なんて噂になってたっけ」
「平安時代の不幸の手紙とでも言えばいいのでしょうか。そういった風にその本を怨みのある者に送りつけたりする習慣があったと、主上から聞きました」
突然、先日の剣士が姿を現した。正宗丸、とかいったか。正宗丸はどこから持ってきたのか分からないが、煎餅の袋を持っていた。
「主上。買って参りました」
「うん、偉い偉い」
煎餅の袋を開けながら、正宗丸の頭をなでる。
「でも、私が生まれるちょっと前くらいには、その本は一冊も無くなってた。普通はどこかの貴族がその本の写しを持っていたり、お寺とかに保存されているものなんだけどね。そんな噂があったから、処分されちゃったのかしら」
煎餅を一枚食べるサクラ。そしてちょっと考え込み、ああ、と呟く。
「もしかひて、わぁなたのしわざかひら」
「主上、食べながら話さないでください」
その質問に、トモミはさあね、と曖昧に返した。
「私も読みたいのよ。もし持ってたら、私に貸してよね」
「あなたに貸したら、本の間に煎餅の食べかすが入ってそうね」
もし持ってっても、貸さないわ。トモミはそう言って笑っていた。
「なによー、意地悪ね」
サクラは不機嫌そうにして、もう一枚煎餅を食べていた。