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竹取妖呪~Act.1 もう一つの竹取物語/1

「竹取物語、ですか?」

 雑誌の編集者は御伽の家に来るなり、企画書を渡してきた。

「そうなんです。ほら、古典文学の中でもかなり有名なものじゃないですか。先生なら詳しいと思って」

 そうですねぇ、と御伽は腕を組む。正直、あまり興味は無い。今まで読んできた文献だって妖に関係するものばかりだし、そんなに古典文学には詳しくなかったのだ。文学者は皆一様にその系統の物事に詳しいとでも思っているのだろうか。

「無駄よ。この人ってば、妖怪関係の本以外は読まないから」

 お茶を持ってきたトモミが編集者に言う。

「あれっ、先生の奥さんですか?」

「姉です。弟がいつもお世話になってます」

「ああ、はじめまして。御伽先生担当の谷口といいます」

 谷口という苗字を初めて知った。御伽はまあ、そんなことはどうでもいいか、と思いながら、今回の仕事は断ろうと決める。

 しかし、その間にトモミが割って入った。

「竹取物語は、中学校や高校でも教材に取り上げられるほど有名な古典文学よね。いつ書かれたのかはあまりよく知られていないし、実は今この世に存在する竹取物語自体も、オリジナルと同じものなのかは定かじゃないわ。現存する一番古いものは安土桃山時代の写本。でもまあ、源氏物語にも取り上げられるほどの話なんだから。それ以前に書かれたものと見ていいでしょうね。十世紀の中ごろくらいかしら」

 編集者はその話に食いついた。

「お姉さん、詳しいんですね」

「ええ。まあ、この手の話は好きでして」

 この人の場合はリアルタイムで本物の竹取物語を読んでいるのかもしれない、と御伽は思う。原本が無いのも彼女が人間界から存在を消して自分だけの物にしているからという説明もつくし。

「話に登場する五人の貴公子のモデルとなった人物から、奈良時代初期が物語の舞台とされているわ。また、作者は不明とされているんだけど、紀貫之が書いたものではないかとする説もあるわね」

 だが、そんな風を思わせないように喋るのが、このトモミという妖である。あいまいに言っているけど、その全ての答えは知っているだろう。本当に恐ろしい人だ。

「―――やっぱり、文学者の姉も文学者なんですね。そうだ、だったら、お姉さん。お姉さんが記事を書いてはどうですか?」

 編集者谷口はそう言って、御伽に渡していた企画書をトモミによこす。トモミは「竹取物語の真実」と書かれた企画書に目を通し、不敵に笑った。

「そうですね。引き受けましょう」

「ありがとうございます! じゃあ、詳細は後日説明しますね」

「ええ、楽しみにしています」

 始終腹黒い笑顔で対応するトモミ。一体どうなってしまうのやら。





「で、実際どうなんですか」

 御伽は先の疑問をトモミにぶつけた。しかし、彼女がまともな答えをするはずもなく、案の定あいまいな返事だけが返ってきた。

「知らないわよ。大体、あんな程度の知識なんてその辺の図書館でも行って探してみればすぐ出てくるわよ」

 まあ、実際そうなのだが。有名すぎるが故に本当にこの程度ならばすぐに得られてしまう知識なのだ。まさか、と嫌な予感がする。

「トモミさん、まさか・・・」

「安心なさいな。ちゃんと読んだことあるから」

 それならいいのだが、と御伽はほっとする。しかし、次の瞬間、サクラがひょっこりと部屋に入ってくる。そして、入るなり奇妙な話をしだす。

「あなたが読んだのは、今あるほう? それとも、もう一つのほう?」

 トモミはさあね、とはぐらかし、部屋を出た。どういう事だろうか。竹取物語は二つ存在し、その一つはこの長い歴史の中で消えていったとでもいうのか。御伽がそれを訊ねると、サクラは待ってましたと言わんばかりに笑顔になった。どうやら聞いて欲しかったのだろう。

「現存する方の竹取物語は知ってるわよね。でも、実は歴史の中に消え去ったもう一つ、別の作者が書いた竹取物語があるのよ」

 後は自分で調べなさい。サクラはそう言って一瞬で姿を消した。さすがは魂魄。逃げ足が速い。

「あ、そうそう」

 そう言って、再びサクラが戻ってきた。

「あなたの好きな、妖関連の話よ。これ」

 再び消える。御伽は妖、という言葉に興味を惹かれた。歴史の中で淘汰された妖に関係する竹取物語―――かなり面白そうな話だ。

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