竹取妖呪~a story of thousand curse
蓬火~old would 第三章
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす
とある満月の晩に、サクラは不意にその歌を口ずさんだ。正宗丸は気になってどうしたのかと訊ねると、サクラはやさしく微笑んだ。
「この歌、正宗丸も知っているかしら?」
「いろは歌でしょう? 知ってますよ」
じゃあ、この歌にまつわる伝承も知っているかしら。その問いに、正宗丸は首を傾げる。
「このいろは歌は一般的な手習い歌よね。正宗丸も江戸時代の人間なら、この歌を歌ったことくらいあるんじゃないかしら。でも、この歌、実は、結構深いのよ」
色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならん
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず
「―――と、この歌はこの世の何もかもは常に存在してはいない、いつかは消えるもの―――諸行無常を歌っているのよ」
「そうだったのですか・・・。知りませんでした」
主上は物知りですね、と正宗丸は言う。しかし、サクラは再び笑って、正宗丸に問いかけた。
「このいろは歌を七文字に分けて、各行の一番下の文字を読んでみるといいわ」
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
「―――とかなくてしす。ですか?」
「そう。『咎無くて死す』―――この歌を歌ったのは、無実の罪で殺された人なのよ。ああ、五文字目もそういう風に暗号になっているのよ。ほをつのこめ。『大津の小女』―――大津は奥さんの居場所でしょうね。この歌は、自分の奥さんに向けて歌われた暗号ってところかしら」
死に際に会うことも許されず、無実の罪で殺された男の悲しい歌なのよ。サクラはそう言い、扇子で口元を隠した。
「そんな歌が、どうしてこの現代に至るまで、語り継がれているのか」
それは、とサクラは呟く。
「百年でも千年でも語り継がれる、呪いなのよ、それ」
姫が彼に与えた難題は蓬莱の玉の枝
彼が持ってきたそれは偽者だと姫は言う
しかし、それは紛れも無く本物だった
彼は姫を怨む、月に帰ったその姫を
いつか月に昇り、お前を呪い殺すと
その呪いは死してなお、力を増していく
不死の薬など無くとも、人は呪いで命を紡ぐのだ
それに終わりなど無く、今もなお、続いている
竹取妖呪~a story of thousand curse