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臨死此岸~Corpse river/2

「随分と珍しいお客さんだ。人間とは思えないような妖気を漂わせた人間なんてね。私は生と死を操る妖、死神さ。ああ、でも安心しておくれよ。所詮はこの川の船頭さ。命は取らないよ。名前かい? そうさねぇ―――ここいらじゃ死神小町って呼ばれてる。小町でいいや。そう呼んどくれ」

 小町はそう言って、隣の石に座るように言ってくる。

「座んなよ。ちょうど暇してるんだ、少し話し相手になっとくれ。私はね、喋ってないとどうにも調子が出ないんだ―――ところであんた、一体どうしてここに―――いや、なんでもないよ。人の死になんて理由は無い。その上、あんたはまだ死んでない。差し詰め臨死体験中といったところか。ああ、案外多いんだ。そういうやつ。人間の生と死っていうのは―――ああ、ここで言う生と死はあんたらの世界での生と死のことだよ? こっちじゃ結構あいまいでね、向こうで生きているくせにこっちに来てしまうものは多い。何故かって? それはね、この場所とあんた達の世界は同じ世界だから、条件を満たしたものは入り込めてしまうからさ。ここにいるものは実際にはまだ死んじゃいないんだよ。要するに人ってのは魂が死んでいなければ、ここから引き返すことで何度でも蘇れるものなのさ。所詮体なんて器に過ぎないからねぇ。―――じゃあ、どうして人は死ぬのかって言うのかい? まあ、そうだろうねぇ・・・。それは、ここ、この此岸で決めるのさ。此岸は魂を死なせるか、それとも蘇らせるかを選択する場所なんだ。とはいえ、それも難しいものでね。十分に生きた者や体がもう再生不可能なほどに壊れてしまい蘇る器の無い者、そして悪行を重ね、死神に命を刈られた者なんてのは蘇ることはできない。そうなってしまった者は私と共にこの川の先にある彼岸へ渡ることになる―――あの船でね。要するに、だ。ここにいる者は肉体こそ現世に置いてきてしまっているものの、まだ死んでいないってことだ。そしてその肉体もまだ生きているのならばここに来たとしても蘇ることができる。でもまあ、死ぬことも可能だけどねぇ、オススメはできないけど。まだあんたは向こうでやるべきことを残してきているみたいだし、なら、まだ私の世話にはならないだろうねぇ。それに、私の世話になるとも限らないか、船頭はたくさんいるしね。―――へえ、あんた、面白い仕事をしているみたいだね。妖の研究か―――ん? どうしてわかったんだって顔してるじゃないか? はっは、これは死神の力でね、魂からその者が一体何をしてきたのかを読み取ることが出来るんだ。妖の研究ってことは、あれかい? もちろん死神である私にも興味があるわけだ。そうだろう? そうだよなぁ、なら丁度今日は暇してるんだ。この小町さまが死神について少し教えてやろう」

 小町は肩に掛けていた物―――死神の大鎌を手に持って御伽に見せてくる。禍々しいまでに黒く染まった鎌だ。それを見ているとどうにも魂を吸い寄せられるような錯覚に陥ってくる。

「これが死神の鎌さ。これで、魂を刈り取るんだ。とはいえ、私はそんな仕事をしているわけじゃないからね、この鎌は使わないよ。使うのはこっちの持ち手の方。こっちを櫂にして船を進めるのさ。ん? そうだねぇ、私としてもそれは不本意なんだが、まあ、死神なんてものは案外そんなものさ。死神って言ってもね。あんたたちの世界で言う死神と、地獄での死神の意味は違うんだ。命を刈り取るものという意味の死神は、ほんの一部の死神だけ。地獄じゃ、地獄で人の形を留めていられる者全てを死神と呼ぶんだよ。そういう意味でなら、今のあんたも死神ってことさ。死神は今全部で大体三千人くらいいてね――数が多い分、死神という職業で食っていけるものは少ないのさ。それ故に私の場合は船頭を職業にしているんだよ。どうしてかって? そうさねぇ、暇そうだったから、だろうね。私にはこれくらいゆったりした仕事が似合うんだよ―――あはは、そうだろう、そうだろう。でも、私の妹は死神としてちゃんと仕事してる。優秀な死神でね、鎌は小さいがちょっと変わっていてね、鎖鎌を使うんだよ。

 ―――死神の仕事? さっきも言ったように皆それぞれだよ。私のように船頭をしている者もいれば、地獄で店をやっている者、農家だっている。地獄はあんたらの世界でいうところの共産主義社会に似ていてね、国家の直営する機関―――地獄省に雇われた働き手なんだよ。地獄省にはたくさんの課があってね。そこに皆所属して働いているんだ。適性とかそういったものにもよるけど、一応は職業選択の自由がある。だから、どの課に所属するかは自分で決められるのさ。私は地獄省魂管理課に所属している。こっちに来た魂を管理し、ちゃんと地獄まで送り届ける仕事だね。で、あんたらの言うところでの死神は死神課に所属する連中のことを指す。連中の仕事内容はあんたのほうが詳しいんじゃないのかい? 本当にあれだけだよ。地獄に行くべき人間の命を刈り取り、地獄に連れて行く。でも、その仕事が入るまでは基本的に自由だね。何しててもいいからって、妹は現世に出かけては妙な服を買ってくるんだ。ほら、私の今着ているこの服だってそうだよ。あの子の趣味は変わっていてね。自分は―――なんだっけ、確か、ごす、ろり、だったか。そんな服装をして死神の仕事をしてる。動きにくいからやめたほうがいいって言ってるんだけどね、カワイイからいいんだって聞かないんだ。まったく、しょうがない子だよ。―――っと、話がそれたね、えっと、死神の仕事の話だったか。地獄に行くべき人間っていうのはね、単純に極悪人のことを指すわけじゃないんだ。本来は誰であろうと死んで地獄に行ってから裁判を受けるんだけど、生きているうちにとある条件を満たした者は地獄から召集され、死神によって魂を強制的に運び込まれて直ちに裁判を受けることになる。その条件は秘密だよ、こればっかりは言えないんだ―――っていうより、私も知らないだけなんだけど。こればっかりは閻魔さまに訊くしかない。

 ま、おそらくだけどあんたは違うだろうね。体もまだ現存しているし、ここに来た者は前後の記憶を失っているケースが多いとはいえ、あんたを刈り取った死神も引継ぎに来ないようだし、あんたは少なくとも閻魔さまに呼ばれたわけじゃないよ。私の気が向いた頃にちゃんと送り返してやる。

 しかし、無口だねぇ。あんた。そんなんじゃ疲れるだろう? あんたも何か話しなよ? 現世にはあまり行ったことが無いんだ。向こうの話を聞かせとくれ―――ん? いつ送り返してくれるのかって? そりゃあ、私が満足したらに決まってるじゃないか」





「あら、お帰りなさい。―――よく眠れたかしら?」

 ようやく死神に開放されて目覚めると、居間にいたサクラはこれまでのことを知っているのかニヤニヤと人の不幸を喜んでいる。御伽はまるで二日酔いのように痛む頭を押さえながら最悪ですよ、と答えた。

「悪夢でも見たのかしら? ねえ、どんな夢だった?」

 知っているくせに言葉に出させようとする。御伽は仕方なく、今まで体験していたことを要約する。

「此岸で、ジャージを着た死神に一方的に話を聞かされる夢でした」






臨死此岸~Corpse river /了 

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