臨死此岸~Corpse river/1
しかし、暇なものである。ついこの間までは休む暇も無いほどに忙しかったこの仕事だが、今ではこうして働いている時間よりも休んでいる時間の方が長くなるほどである。こうなってくると元来の性格である怠け者の本性が露呈してくるのだ。木陰で休んで、昼寝でもしようと横になったらそのまま就業時間になってしまうほどである。
今日も今日とて仕事は開店休業のようなもの。こうなればまた今日も昼寝でもしゃれ込もうかと思うのだが、まあ、午前中くらいは真面目に仕事してやろうかと、客を待つ。しかし何時間待っても客どころか通りがかるものすら現れない。まあ、通りがかるだけ、なんてありえないのだが。
その辺の石に腰掛けて、手に持っていたものを肩に掛ける。退屈のあまり今日三回目の溜息が出た。上司の監視も最近ではあまり無くなったため、本当に何もすることが無くなったのだと最近、感じ始めている。私が暇を持て余しているということは上司の方は変わらずに忙しいのだろうな、まあ、仕事の内容が別口に変化はしているのだろうが。なんて、ニヤニヤ笑ってみるものの、暇なのは変わらず。
本日四回目の溜息。そして、改めてこの事態を考え直す。この事態、本当はあってはならないことなのである。だからこそ上司の方はこの事態を打開する為に対策を検討している故に忙しいのだ。自分にも何かできることはないのだろうか、とまじめな顔して考える。だが、それと同時に、考えることを放棄した―――考えるのが面倒くさくなったのである。いろいろ物事を考えるのは自分の領分じゃない。自分はただ、上司の命令に従って動くだけの駒。自分で考えて働く優秀さは持っていないと勝手に解釈し、再び上司が忙しいことを思い返した。
そしてニヤニヤ笑う。今までこちらに来ては真面目にしなさいとか、ちゃんと働いているのですかとか言ってきたあの上司が今は自分の様子を見に来る暇さえないほどに苦労しているのかと思うともう笑いが止まらないのである。楽しい気分になってついつい腰にぶら下がっている瓢箪に手が伸びた。中にはつい昨日手に入れたばかりの上物の麦焼酎が入っている。杯を手に、酒を注ぐ。そして、それに口をつけて女性は喋り始めた。
「―――いや、ホントおかしいねぇ・・・あんたもそう思わないかい?」
気が付けば後ろにはパジャマを着た男―――御伽が立っていた。
そこは、生と死を別つ場所。
それは、行く末を船頭に任せ、自らの在り様を検める場所。
そして、死した人が最後に渡る、川。
ここは此岸。
そこにいる少女は、船頭。
そして、その少女のもう一つの顔。
それは、人の死を司ることを生業とする妖だった。
臨死此岸~Corpse river