桜散花~Act.4 似たもの同士/2
「よかった、主上! ご無事で・・・」
「ごめんね、正宗丸。迷惑かけて。―――もう、あなたは自由よ。これからは好きに生きなさい」
正宗丸の頬に手を当てて、サクラは言う。正宗丸は涙を拭いて、では、と言う。
「私は主上と一緒にいたいです」
「正宗丸?」
「主上はずっと、義高さまのことばかり考えておられた。私はまだ主上に仕えて数十年程度の未熟者ですが、主上を思う気持ちは、義高さまにだって負けていないと思います」
顔を赤くして、正宗丸は口ごもる。それを見て、サクラは微笑んだ。
「そうね、いつまでも過去に捕らわれるなんてよくなかったわ」
サクラは正宗丸の顔を自分に寄せて、正宗丸の頬に口づけする。
「こんなかわいい娘が出来たんですもの。義高さまも喜ぶわ」
「しゅ、主上?」
「さて、と。いつまでもこんなことしてられないわ。義高さまが帰ってきたら笑われてしまうわね」
サクラは立ち上がり、トモミを見る。
「妖忌妃、借りが出来たわね。そのうち返すから、覚えておいて」
「安心なさいな。すぐにでも返してもらうわよ」
そう言って、トモミは万年桜を指差した。
「この万年桜。かなり完成された魂の管理システムね。今後も、しっかりと魂の管理を続けて頂戴。それだけでいいわ」
トモミは山名に御伽を運ぶように言い、門のほうに向けて歩き出す。タカヤはそれについて来た。
「本当にあれで大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。今度何かあっても、私が何とかできるもの」
この力の使い方をようやく思い出してきたからね。トモミはそう言って、タカヤに平手打ちする。
「だから、その勇者ごっこ、もう辞めなさい。流行らないから、そういうの」
「肝に銘じておきますよ」
タカヤはそう言って、倒れているムツキを抱えてどこかに去っていった。トモミはやれやれ、と肩をすくめ、そして呆れ笑う。
「これで懲りたかしらね。この妖研究家は」
しかし、そんな予想など、御伽には通用しなかった。
数日後、御伽は目覚め、これまでとなんら変わりない生活を取り戻した。もちろん、いい意味ではなく、なのだが。
「トモミさん、今日は何を教えてくれますか?」
「―――あのねぇ、この間のあれで少しは懲りなさいよ。どれだけ危険なことをしているのか、分かったでしょうに」
しかし、御伽は一切の迷いが無い。
「それでも、探究心には勝てないんですよ」
「はぁ・・・。私が馬鹿だったわ。―――よし、いいでしょう。こうなったらもうとことん付き合うわ」
トモミは呆れるようにそう言って、妖扇子を取り出した。
「これ、もうあなたは知っているわよね。妖扇子。妖怪が持つ武器のようなものね。一般的には人間妖怪の物なんだけど、一部の力の強い妖怪たちもこれを所有しているわ」
霊冥姫もそれに当たるわね。彼女は魂魄だけど、これを所有しているわ。トモミは不意に立ち上がりキッチンのほうに行く。
「これには妖の能力の大半が封印されているわ。普段はその扇子の中に力を封印しておいて、妖であることを隠して行動する。そして必要になった際にそれを開いて真の力を解放するのよ」
「要するに、これが無いと妖は実際の半分しか能力を仕えないわけですか・・・」
「そう言うことね。他にも妖扇子は主従関係の成り立ちを示しているわ。私と山名の関係みたいなものよ。主は部下の妖扇子を所有してその力を我が物にする。部下は主に妖扇子を預け、主が危機の時は妖扇子から呼び出してもらい、主を守る」
トモミはお茶を淹れて戻ってくる。
「はい、お茶、淹れたわよ」
「ああ、すみません」
御伽はそう言ってトモミの淹れたお茶を飲む。
「私はかつて天狗を仲間にしたくてあの山に行った事があったのよ。そこで出会ったのが、当時、山名天狗と呼ばれる天狗の一派の軍団長であった山名よ。あの頃は私も若かったな、ボコボコにして無理やり妖扇子を奪い取ったっけ」
その頃を懐かしむように目を細め、お茶に口をつける。
「あ、トモミ。私の分も頂戴」
「はいはい、ちょっと待ってなさい―――って、あなた、どうして」
居間にはいつの間にかサクラがいた。サクラはニヤニヤと笑ってトモミを見ている。
「桜花亭の修繕工事も一段落したからね。バカンスに来たのよ」
しばらく私も御伽に妖のことを教えてあげるわ。御伽は桜の手を握り、大歓迎ですよ、と言う。くそ、御伽の扱い方を心得ているな、とトモミは思う。
「主上、いい天気ですし、どこかに花見にでも行きませんか?」
正宗丸は不意に現れてそう言った。サクラはいいわね、と言い、御伽の手を掴んで立ち上がった。
「桜の綺麗な場所まで案内して頂戴。トモミ、お弁当はよろしくね」
御伽をつれて、さっさと家を飛び出したサクラ。残された二人は互いに見合わせて笑う。
「昨日の敵は今日の友って言うけど・・・」
「これは、少々仲良すぎ、ですかね?」
一九八九年、四月。冥界の永遠に枯れない桜の物語。
桜散花~Eternal cherry blossom /了