桜散花~Act.2 山名天狗/3
山名は知っていた。彼女は鬼の末裔であることを。だからこそ、力では勝てないということを。最初の一撃はわざと受けたのだ。そして、気絶したと少女をだまし、その間に風の力を蓄え、最大出力で突進攻撃を行う。これが山名の作戦だった。
御伽はそれを察知した。先ほど蝶の追撃を振り切ったあの速さを持ちながら、あの攻撃をかわし損ねるはずがないと。あれは何らかの作戦だ。そう思い、御伽は時間稼ぎに出た。最初の一撃を止められなかったために当初の予定からは外れたものの、少女の気まぐれで助かったため、次は山名のほうに意識が行かないように目くらましをすることにした。風の力を蓄えるのが山名の能力であると予想した彼は、無風状態の洞窟内で山名のほうから異様な空気の流れがあってはさすがに気付かれると思ったのだ。そのため、わざと空気の流れを妖扇子によって発生させ、少女にばれないようにした。そして、最後の突風。山名にとって一番攻撃を当てやすいであろう部屋の中心に少女が来た瞬間に、今までの軽い風ではなく全力の風を彼女に叩き込むことで、彼女の動きを止めさせた。
敵を欺くために御伽をだまそうとして気絶を装った山名。その意思を汲み取り、少女の意識が山名に向かないように行動し、さらには彼の攻撃が一番当たりやすい場所に少女を誘いこんだ御伽。二人は、一度も作戦を立てるようなことも、目を合わせることすらすることなく、それをやって見せたのである。
洞窟の外の木にぶつかって止まった御伽は四肢がちゃんとついていることを確認してから、山名を待った。数分して、笑い声が聞こえる。洞窟の中に入ると、少女は大口を開けて豪快に笑い転げていた。
「あっはっはっは・・・。すごいなお前ら。こんな大博打、出来ると思っていたのか?」
少女は涙を流して笑っている。
「やっぱ妖扇子を持つ者のつながりって奴か? いや、まいったよ」
少女はそう言って、立ち上がった。
「いい主に恵まれたな。天狗」
「いや、こいつは代理のようなものだ。―――これから俺の本当の主を取り返しに行くんだよ」
その言葉に、少女は興味を持つ。
「ケンカか? そりゃ面白そうだな。―――よし、このあたしもついて行ってやる」
少女はにやりと笑った。
「安心しろ。茨城童子の末裔たるこの睦月さまがいれば、どんな相手もちょちょいのちょいだ」
行くぞ、天狗と人間。少女はそう言って走り出す。目的地も知らないというのにどうする気なのだろうか・・・。
「ああ、そういえば、目的地はどこなんですか?」
御伽は疑問に思い、山名を見る。すると、彼は言う。
「霊冥姫の住む屋敷―――桜花亭だ」