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桜散花~Act.2 山名天狗/1

「すぐに引き返しなさい。ここは危険な場所です。先日も野生の猪に人が襲われたそうです」

 金色の髪飾りをつけた、おかっぱ頭の少女。服装はどこかの学校の制服のようにきちんとしている。身だしなみの整ったその姿は手に持つ得物さえなければ本当にただのお嬢様だった。

 手には銀に輝く片刃の剣。本物の日本刀を見たのは初めてだった。腰にはそれよりも小さい小太刀をつけている。その立ち姿はまるで時代劇の辻斬りでも見ているかのようだった。

「実際のところ、猪よりもあなたが危険なのではないでしょうか」

 御伽が言うと、少女は鼻で笑った。

「我が名は正宗丸。主上、サクラ様に仕える剣士。いざ、尋常に勝負」

 刹那、正宗丸と名乗る少女の姿が消えてなくなる。あの子も妖か、御伽は嫌な予感を感じ咄嗟に身を引いた。

 ぶん、と空を切る音。予感は的中した。かわさなければ真っ二つになっていただろう。少女は姿を現し、御伽を見た。

「霊感はない。ただの勘でかわしたのか」

「―――これは、まずいですね」

 一度かわしたからといって二回目もかわせるとは限らない。正宗丸は再び姿を消した。今度は本当にまずい。御伽は適当に回避する。しかし、正宗丸の剣は御伽のすぐ側面に迫っていた。

 銀閃。御伽を切らんと放たれたその一撃は御伽の服の袖を切り、再び風を切った。危ないところだった。後コンマ一秒でも同じ場所にとどまっていたら体から腕がなくなっていただろう。

 続けて攻撃が開始される。今度はかわせないように向こうも狙ってくるだろうと予測をつけ、御伽は大きくバックステップした。

 その予想は的中した。正宗丸は姿を表し、足を切ろうと低く刀を横に薙いだ。狙うなら今しかない。御伽は咄嗟に正宗丸の腕を掴む。だが、その腕はすぐに消え去り、状況は再び先と同じになってしまう。

「幽霊・・・ですか」

 しかしこの幽霊はなぜ自分を狙うのだろうか、御伽は疑問に思う。サクラに仕える者であるならば、目的は既に自分の主人が果たしているだろう。トモミは既に捕らわれたのだ。

 だが、刹那、先のサクラの言葉を思い出す。

『妖術王―――『妖忌妃』智魅。あなたの妖扇子、私に頂戴ね』

 妖扇子。もしかして目的はトモミではなく最後に受け取ったこの扇子なのではないだろうか。だとすればこれはまずい。なぜトモミはこの状況において持っていると危険なこの扇子を自分に預けたのだろうか。まあ、奪われたくないからであろうが。

 この扇子は一体なんなのだろうか。そう思い、御伽は扇子を手に取った。

『それを開きなさい』

 声が聞こえる。御伽はその言葉に従い、扇子を開いた。

「余所見をしている暇などないぞ!」

 正宗丸の声。そしてその刹那に放たれる刃の軌跡。御伽を真っ二つに切り分けるようなその太刀筋は、まさしく刀の扱いに長けたものである証だった。

 その一撃を、御伽は止めたのである。

「なにっ!」

 驚いているのはお互い様だった。ただの扇子一本で、日本刀の剣閃を止められるわけがない。これが妖扇子というものなのだろう。御伽は咄嗟に理解し、そのままの状態で動きを止めている正宗丸をなぎ払うように扇子を横に振った。

 突風。その風圧に正宗丸の小さな体は大きく吹き飛ばされた。木に激突し、気絶する。御伽ははあ、と息を吐いた。あの五大妖が欲しがるわけだ。これだけの力を持った扇子。

 あの子が目覚める前に逃げてしまおう。そう思い、御伽は山道を進んでいく。トモミによって飛ばされたのだから当然道も分かるわけなく、適当に進んでいく。十分位して、御伽は立ち止まった。あの気配が再び近くに来ているのである。扇子を開き、どこから来るか考える。相手も妖とはいえ思考は同じはず。なら、今このタイミングでどこから仕掛けてくるか、予測くらい出来るはずだ。

 木に囲まれた地形。獣道から外れた草の生い茂るこの場所。先ほどの戦闘を思い返す限り、彼女は霊として姿を消していては攻撃が出来ないらしい。要するに攻撃に移る数秒の間ならば、姿は見えるということだ。この草むらであれば走ってきたとしても草の揺れ動く動きで場所は特定できる。本人は恐らく自分以上に弱点を把握しているはず。ならば、恐らく地上からはやってこない。だとすれば、答えは一つだ。

「そこですね」

 扇子を上空に振り上げる。その風に押し戻されるように、正宗丸の体は宙に舞った。予測どおりだった。木の上を伝って、落下しながらの攻撃。やはり相手は馬鹿じゃない。馬鹿じゃないが故に、御伽にも予測できる。地面に落下した正宗丸はじっと御伽の姿を見つめている。

「どうやら、小細工は無用、ですか」

 正宗丸は腰の小太刀を抜いて、二刀流の構えを見せる。

「いいでしょう。もう姿を消すのは止めます。本気でいきますよ」

 刹那、二つの剣が一斉に御伽に襲い掛かった。その刃の速さは、先ほど以上に鋭い。今度は本気ということだろう。二本の刀に一本の扇子では心もとないと、御伽はもう一つの扇子も開いた。

 小太刀を、そのもう一つの扇子で受け止めた。すると、その小太刀は扇子に飲み込まれるように消えてなくなった。

「なんだとっ!」

「これは、まさか。トモミさんの?」

 御伽がそう呟いた刹那、一陣の突風が吹く。今度は吹き飛ばされないように、正宗丸は自分の刀を地面に刺して突風に耐える。そして、御伽はなす術なくそのままその風にさらわれた。風の中心にいる何かによって体を掴まれたのだ。

「逃げたか・・・おのれ」

 正宗丸はそう呟いて、刃を失った小太刀を見つめる。

「私の鍛えた刀を消し去る力。なるほど、主上が興味を持つわけだ」

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