桜散花~Act.1 五大妖/3
決着は一瞬だった。
トモミは能力を開放すると同時に空から矢の雨を降らせた。無から有を生み出す力とは言ってしまえばどんなものでも自在に作り出せる力。トモミの物量はどんな妖であっても覆せない絶対的不利である。
しかし女性はそれを紙一重で回避した。日本舞踊でも踊るがごとく、優雅に全ての矢の隙間を潜り抜けたのである。しかし、トモミもそれだけではない。上空からの矢に続いて、今度はトモミから直線的に放たれるナイフ。さらに、地上には針の山を作り上げ、その動きを封じた。完全に逃げ場を失ったにもかかわらず、女性はまだその表情を崩してすらいなかった。
いまだ降り止むことのない矢の雨。放たれた銀のナイフ。足元には針の山。これだけの状況、勝敗は決したように思われた。しかし、女性は未だ笑顔だった。あの状態に立たされているにも関わらず、その優雅さを失わない。妖とは恐ろしい存在なのだと改めて思い知る。
「終わりよ」
トモミの言葉。しかし、その言葉とは裏腹に、女性は呟いた。
「じゃあ、次は私の番ね」
刹那。トモミの放ったナイフと矢の雨はその動きを止めた。
ただの扇子の一振りで、女性はトモミの攻撃を全て止めたのである。
「何よ。これ・・・」
「可愛そうに。四百年も眠ってたから力がうまく使えないのかしらね」
自由落下し、針の山にからん、と乾いた音を響かせる矢とナイフ。驚くトモミを見つめ、女性は未だに笑っていた。
「何なのよ。それは」
「あら、見えないのかしら。妖のくせに霊感がないのね」
じゃあ、見えるようにしてあげる。女性の笑顔は急に優雅さを失い、妖しく不敵な笑顔に豹変した。
それは―――蝶。緑色に鈍く輝く蝶だった。それらは女性の周りを飛び、辺りを照らしている。その蝶は彼女が呼んだのか。御伽はその光景を呆然と見つめていた。
「私を包囲したとでも思っていたのかしらね。本当はその逆だったというのに」
女性は扇子をトモミの方に向け、笑う。刹那、色とりどりの光を宿した蝶たちがトモミを取り囲んでいた。
「あなた。誰なのよ・・・」
「ふふ。教えてあげるわ」
女性はにやりと笑い、そして次の瞬間、トモミを包囲していた蝶が一斉に彼女の体にまとわり付く。
「五大妖が一人。『霊冥姫』、桜よ」
膝を崩しトモミはその場にへたりこんだ。
「妖術王―――『妖忌妃』智魅。あなたの妖扇子、私に頂戴ね」
サクラを名乗る女性は扇子を横に振り、蝶を針山に密集させる。そして次の瞬間、蝶が爆発し針の山は粉々に砕け散った。
「―――トモミさん!」
御伽はトモミの元へ走る。しかし、彼女は近寄るなと言う。
「この蝶はその者の魂のエネルギーを吸い取る。あなたが近寄れば、命はないわ」
「じゃあ、どうすれば・・・」
戸惑う御伽に、トモミは微笑みかける。
「御伽、逃げなさい。今の私じゃ、こんな幽霊にも勝てないみたい」
少々寝ぼけてたみたいね。彼女はそう言って、二つの扇子を御伽に渡す。その刹那、再び風景が変わり、今度は山の中にいる。
「あれ、ここは・・・?」
トモミの能力で飛ばされたのだろう。恐らくは先ほどの山の中だろう。トモミを助ける為にも、彼女が会わせたかった妖に会うしかない。御伽は山道を進んでいく。
「待たれよ」
この先にはあなたの求めるものはない。そう言って道の前に立ったのは、一人の少女だった。