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妖忌妃~first strange

蓬火~old world 第一章


 ここは、古来より妖が棲むといわれた山。近隣の村に住む者たちは、この山を恐れ、誰一人、この山を登ろうとはしなかった。

 そんな山の入り口に、男が二人立っていた。一人はさも嬉しそうに目を輝かせている。男の名は御伽という。この山を訪れた理由はもちろん妖に会うためである。御伽の後ろにいるのは彼の案内役として山にやって来た村役場の人。恐ろしげに山を見上げ、御伽に言う。

「なあ、本当にこの山を登るのかい?」

 その言葉に、御伽はもちろんと答えた。

「そのためにここに来たのですからね。当然ですよ」

「止めておいたほうがいいって。悪いことは言わない。ここは俺のばあちゃんが妖怪の出る山だってよく言っていたんだ。最近だって、週刊誌の記者が山頂の祠を探索に行って帰ってこなかった」

 明らかに山を恐れている男の言葉に御伽はひとつ、興味を示す。

「貴方の祖母の話・・・ですか。少し、その話について詳しく聞かせてくれませんかね?」

 役場の職員はアンタ、ホントに変わってるなと呟いて、ため息の後、思い出すようにゆっくりと話し始めた。

「ばあちゃんも同じようにばあちゃんに聞いた話だって言っていたが、この山の上に封印されている妖怪はかつて人里に妖怪を放ち、村を占領しようとした大妖怪らしい。だが、その際に配下の妖怪に人を殺すな、なんてばかげた命令をしたもんだから、妖怪に裏切られて殺された。だが、何度でもよみがえる大妖怪を倒すのは不可能で、結局、妖怪たちは人間に協力してもらってむりやり祠に封印し、閉じ込めたって話だ。それ以来、それ以来、あそこに近付くと人間だろうと妖怪だろうと関係なく大妖怪の怨霊に襲われるらしい」

 御伽はさも楽しそうに相槌を打つ。そして、少し考え込んだ。

「どうしてその妖怪は人を襲うな、なんて言ったのでしょうね?」

「さあなあ。俺も、ばあちゃんに聞いただけの話だし・・・。だが、まあ普通に考えたら人間を奴隷にしようとしたのか、或いは・・・」

「或いは?」

「人間と一緒に暮らそうとした、なんてな」

 ありえないか、妖怪だしな。男はそう言って笑っていた。だが、御伽は真剣に返す。

「そうでしょうかね・・・。―――案内はここまでで結構です。帰りは歩いて帰りますので」

「ああ、先生!」

 男は御伽を引き止めた、振り返ると男はお気をつけて、と手を振っていた。御伽も手を振り返し、山を登っていった。

「しっかし、まあ、あんなものの研究で飯が食ってけるんだから、幸せものだよな、あの人も」

 男はそう呟き、車に乗って来た道を引き返した。



 少女は満ち足りた笑顔を浮かべた

 これで自らの望む世界が見えるのだと

 皆が欲しがった永遠の平和が手に入るのだと

 しかし、現実は違っていた

 皆に否定され、拒絶され

 あざ笑うかのように、裏切られ

 待っていたのは、暗く、狭い、岩の中

 私の望んだ世界は、誰からも必要とされていない

 そう思うと、笑えてきた

 誰よりも望んだ平和は

 誰にも望まれていなかったのだ

 そうして、少女は心を閉ざした



妖忌妃~first strange  

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