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第5話 新たな出会いとノートの選択

 放課後の教室。窓の外は夕日が差し込み、教室全体がオレンジ色に染まっていた。クラスメイトたちが楽しげに談笑しながら帰っていく中、俺――杉村悠人は一人、机に突っ伏していた。


 目を閉じると、橘さんの笑顔が頭に浮かぶ。バスでの会話、図書館での偶然の再会。今まで遠い存在だと思っていた彼女と、こんなふうに話せるようになるなんて――ただそれだけで、心が温かくなるのを感じていた。


(俺が……誰かとこんなに話せるなんて。)


 それは「好き」とか「特別な感情」ではない。ただ、人と自然に会話ができたという事実が、これまでの自分にはなかっただけに嬉しかった。


 だが、すぐに違和感が胸に広がる。


(でも……これは俺の力じゃない。全部、ノートの力だ。)


 カバンにしまった「ドリームノート」を指でなぞる。その感触に、どうしても現実離れした重みを感じずにはいられない。


(ノートの力を使ってきっかけを作った。それは間違いない。でも、これってズルだよな。)


 自分の努力で積み上げた関係ではない。ノートの力で与えられた偶然――いや、運命と言ってもいい出来事。それを思うと、胸の中に引っかかるものがあった。


(そもそも、どうしてこんな力が俺の手元に……?)


 あの日、夢の中で会った管理者。淡い光の中で、彼はこう言った。「君の選択次第だ」と。それだけだった。それ以上の説明も、リスクについての警告もなかった。


(もし、俺が間違った使い方をしていたらどうなるんだろう? 管理者が何も言わなかっただけで、隠されたルールがあるんじゃないか……?)


 自問自答を繰り返すうちに、カバンに入ったノートの存在が、現実以上に重く感じられた。


「さて、帰るか。」


 深く息をつき、机から顔を上げる。立ち上がると、橘さんの姿が目に浮かんだ。


(橘さん……今、どうしてるんだろう。)


 気になって隣の教室を覗くと、友達と談笑している橘さんの姿が見えた。目が合うと、彼女がにっこりと手を振る。


「杉村君、やっほー!」


「え、あ、うん……やっほー。」


 ぎこちない返事。それでも彼女は気にした様子もなく、友達に何か話してからこちらに歩いてきた。


「今日はどうしたの? 遅くまで残ってたんだね。」


「あ、うん……ちょっと用事があって。」


「そっか。じゃあ、帰り一緒に帰ろっか。」


「えっ……?」


 予想外の提案に、一瞬頭が真っ白になる。だが、次の瞬間には自然と答えていた。


「う、うん。いいよ。」


 橘さんと並んで歩きながら、帰りのバス停へ向かう。今までの「偶然」とは違う、彼女自身の意思で一緒にいる――それが妙に嬉しかった。


 次の日。帰りのバスの時間まで余裕があった俺は、近くの書店に立ち寄った。本棚を眺めていると、隣で同じように本を見ている人の姿が目に入る。


(あれ……内藤さん?)


 内藤麻奈――俺と同じクラスの女子だ。橘さんのように目立つタイプではないが、控えめで本が好きそうな印象を受ける。いつも読書をしている姿を見かけていたから、ここで会うのも不思議ではなかった。


「杉村君?」


 声をかけられて驚きつつも、頷いて答える。


「あ、内藤さん……だよね。」


「うん。こんなところで会うなんて珍しいね。」


 彼女は柔らかく微笑む。その笑顔に、何となく安心感を覚えた。


「よくここに来るの?」


「たまにね。家の近くだし、本屋の静かな雰囲気が好きで。」


「そっか……。おすすめの本とかある?」


 ふと口にした言葉に、彼女は少し驚いた表情を浮かべ、それから楽しげに笑った。


「杉村君、本好きなんだね。じゃあ、この辺りなんてどう?」


 彼女が指差したのはファンタジー小説のコーナーだった。


「ありがとう、ちょっと読んでみる。」


 短い会話だったが、俺にとっては貴重な体験だった。ノートを使わず、普通にクラスメイトと話せたのだから。


 家に帰り、ベッドに横たわりながら「ドリームノート」を見つめる。


(ノートに頼らなくても、人と話せる……。)


 書店で内藤さんと話せたことが、逆にノートに対する違和感を強めていた。自分の力で築く関係と、ノートの力で得た関係――どちらが本物なのか。


 だが、橘さんは俺にとって特別な存在だ。ノートの力を借りてでも、彼女との関係を深めたいという気持ちは変わらない。


(橘さんとのデート……計画してみようかな。でも、それでいいのか?)


 迷いが胸に広がる中、ノートを開いた。


「次は……どうする?」


 ペンを握り締めながら、次の一手を考え続ける俺がいた。

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