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第35話 紗月の嫉妬劇場(紗月視点)

 雨上がりの朝、清々しい青空が広がる一方で、紗月の胸の中には重たい雲がかかっていた。昨日、悠人と結衣がショッピングモールで親しげにしている姿を見てしまった。その光景が頭から離れない。


 悠人と結衣が一緒にいた理由を考えれば考えるほど、紗月の心は暗い感情に飲み込まれていく。結衣が保健室で倒れたとき、真っ先に助けた悠人の姿を思い出す。あの時から二人の間には何かが生まれたのかもしれない。自分の知らないところで、悠人が結衣を意識し始めているのだとしたら――。


 胸が締め付けられるような苦しさが押し寄せてくる。黒い感情が渦巻き、自分の中に潜む嫉妬という名の怪物が目を覚ました。


 目を閉じても、あの二人の笑顔が脳裏をよぎる。そのたびに、自分が惨めに思えて仕方がない。どうして自分ではなく結衣とあんなに楽しそうにしていたのか、その理由を知りたくてたまらない。


 「嫉妬……。」


 教室の窓から差し込む光をぼんやりと見つめながら、紗月は胸の中で膨らむ疑問と不安を押し込めようとした。だが、それは簡単に収まるものではなかった。軽く頬杖をつきながら、深い息をつく。


 昼休み、クラスメイトたちが楽しげに談笑する中、紗月は上の空だった。友人たちの話が耳に入らず、ただ漫然と頷くばかり。ふと聞こえた「昨日、杉村と武田さんが一緒にいたらしいよ」という何気ない一言が、紗月の胸に突き刺さった。途端に息苦しさを感じ、その場を抜け出した。


 「一緒に? 何してたの?」


 友達の声が遠くなる。紗月は何気ないふりを装いながら、その場を離れた。廊下を歩きながら、足は自然とある方向へ向かっていた。悠人と結衣が何をしていたのか、それを確かめたくてたまらなかった。


 空き教室の隣にある廊下。紗月は物陰から二人の様子を見つめていた。悠人と結衣は向かい合いながら、楽しそうに話している。結衣が手にした小さな包みを差し出すと、悠人がそれを受け取り、二人で笑い合う。


 「あの笑顔、あのやり取り……。」


 胸が痛い。二人があまりにも仲睦まじく見えて、視界がぼやけていく。耳元では、二人の笑い声が響いているように感じた。


 その後も頭の中で繰り返されるのは、ショッピングモールでの光景、教室での会話、そして空き教室での二人のやり取りばかり。心臓が重く、全身が鉛のように動かない。自分の知らないところで悠人が結衣に心を寄せているのではないかという不安が、さらに嫉妬を煽り立てる。


 「私は何をしてるんだろう……。こんなの、私らしくない。」


 だけど、止められない。このままでは気持ちが爆発してしまいそうだった。


 帰宅途中、空は快晴だったが、紗月の心は晴れることはなかった。何度も立ち止まり、深呼吸をするが、頭の中を占めるのは悠人への疑念と結衣への苛立ちだった。


 ベッドに横たわりながら、スマホを手に取り、悠人にメッセージを送るべきか悩む。しかし、指が動かない。送ったところで何を伝えればいいのかもわからない。


 深夜になり、ようやく紗月は一つの結論に達した。翌日、悠人と結衣に直接話を聞くしかない。このままでは自分の気持ちが押しつぶされてしまう。それだけは耐えられない。


 「明日……直接聞こう。」



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