第31話 勉強会
ファミレスのドアをくぐると、冷房の心地よい風が迎えてくれた。入口近くで待っていた紗月と結衣が俺に気づき、手を振る。
「悠人、こっち!」
「待たせた?」
「全然、私たちも今来たところだよ。」
席についてメニューを開くと、結衣がすかさず提案する。
「ドリンクバー、頼もうよ。せっかくだし、長丁場になりそうだしね。」
「いいね。俺もそれにする。」
全員一致でドリンクバーを注文し、飲み物を取りに行く間もなんとなく会話が弾む。席に戻ると、テーブルにノートと教科書が並び始めた。
「じゃあ、勉強会スタート!」
結衣がノートを広げ、気合いを入れる。紗月も同じく準備を整え、俺も筆箱を取り出した。
「まずは数学からやろうか。テスト範囲、結構ボリュームあるよな。」
「ねえ、悠人、数学得意なんでしょ? 私たちに教えてよ!」
「まあ、嫌いじゃないけど……紗月、どこが分からない?」
紗月がノートを開き、手書きのメモを指差す。
「ここなんだけど、どうやって式を立てるのか分かんなくて。」
「なるほど。じゃあ、こう考えてみて――。」
丁寧に説明をすると、紗月は真剣にメモを取りながら頷いた。
「なるほど! 分かった、ありがとう、悠人!」
「次は私も教えて!」結衣が少し焦ったようにノートを差し出す。
「こっちはね……こんな感じで整理すると分かりやすいと思う。」
「おお、悠人くん、意外と教えるの上手いんだね! 頭いいじゃん!」
「いや、たまたまだよ。そっちがちゃんと聞いてくれるからだと思うけど。」
軽い会話を交えながら、勉強は順調に進んでいった。二人とも積極的に質問をしてくれるので、教える側としてもやりがいがあった。
休憩を挟んで、文化祭の話題に移る。
「そういえば、文化祭すごく盛り上がったよね。」紗月が楽しそうに言う。
「特に1年2組のお化け屋敷、めっちゃ怖かった! 悠人、中心で頑張ってたでしょ?」
「まあ、みんなが協力してくれたからだよ。」
「でも、あの時、私が保健室で倒れた時も助けてくれたじゃん。ありがとう、あの時、本当に心強かったよ。」
結衣が少し恥ずかしそうに感謝の言葉を口にする。俺は首を振った。
「気にするなよ。困ってるのに放っておけないだろ。」
「悠人くん、本当に優しいね。紗月、こういう人を捕まえておかないとダメだぞ?」
「な、なにそれ! 変なこと言わないで!」
紗月が慌てて反論する姿に、結衣が笑いながら肩をすくめた。
そんなやり取りをしていると、紗月が席を立った。
「ちょっとお手洗い行ってくるね。」
彼女がいなくなると、結衣がふと真剣な表情になり、俺に向き直った。
「悠人くん、ちょっといい?」
「どうした?」
「実は、紗月の誕生日、7月7日なんだよね。」
「えっ、そうなのか。知らなかった。」
「でしょ? でも、テスト期間だし、準備が遅れると間に合わなくなりそうでしょ? だから、悠人くんもプレゼント渡したいなら、一緒に選びに行かない?」
「俺が、紗月にプレゼント……?」
不意を突かれて言葉に詰まる。だが、結衣の提案を考えると、確かに一人で選ぶ自信はないし、相談に乗ってもらえるのはありがたい。
「分かった。そういうの、俺全然分からないけど、力を借りてもいい?」
「もちろん! サプライズで渡すんでしょ? 紗月には内緒にしなきゃね!」
「ありがとう、結衣。」
そう言って、スマホを取り出して連絡先を交換した。
紗月が戻ってきたとき、俺と結衣は何事もなかったかのように勉強を再開した。
「何話してたの?」
「ん? 大したことじゃないよ。」結衣が軽く笑ってごまかす。
「なんか怪しい……。」
「気のせい気のせい! ほら、次は理科の範囲だよ!」
そう言って結衣がノートを広げ、勉強会は再び再開された。
ファミレスの外に出たのは夕方近く。充実した時間を過ごしたおかげで、三人ともいい表情をしていた。
「今日はありがとう! 次回もよろしくね!」
結衣が手を振りながら去っていき、紗月と俺は駅まで並んで歩いた。
「勉強会、楽しかったね。」
「そうだな。次も頑張ろう。」
夕陽が街を染める中、紗月との距離が少しだけ近づいた気がした。結衣の提案が心の片隅に残るまま、その日を終えた。
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