第28話 文化祭 その3
午後も遅くなり、文化祭は終盤に差し掛かっていた。1年2組のお化け屋敷は、朝から絶え間なく訪れる来場者で賑わい、クラス全体がその対応に追われていた。
「次のお客様、どうぞ!」
榊原が元気よく声をかけると、子ども連れの家族や笑いながら怖がる女子グループが中に入っていく。その背後で、俺は入口付近で案内をしながら、装飾や音響のチェックを続けていた。
「杉村、これが最後のグループだってよ!」
榊原が嬉しそうに報告してきた。疲れているはずの彼の顔には、どこか達成感が滲んでいる。
「本当か。じゃあ、ラストスパートだな。」
「おう! 最後まで全力でやりきろうぜ!」
その言葉に、クラスメイト全員が「おー!」と声を上げる。朝から続く忙しさに、体は正直きつかったが、不思議と気持ちは高揚していた。
最後の来場者を送り出した後、クラス内には達成感と安堵の空気が漂っていた。誰もが椅子や床に座り込みながら、「楽しかったな」や「めっちゃ盛り上がったね」と感想を言い合っている。
その時、内藤さんが俺に近づいてきた。静かに、けれどしっかりとした足取りだった。
「杉村君、今日もありがとう。スピーカーとか全部調整してくれてたでしょ?」
「いや、みんなが頑張ったからこそだよ。内藤さんだって、いろいろサポートしてくれて助かったよ。」
俺がそう言うと、内藤さんは少し驚いたように目を瞬かせ、それからふわりと笑みを浮かべた。
「……ありがとう。今日、なんだか楽しかった。」
その控えめな笑顔が、いつもより少し柔らかく見えた。それに胸が高鳴りそうになるのを抑えつつ、俺は返事をした。
「文化祭って、やっぱりいいよね。みんなで一つのものを作り上げるっていうのがさ。」
内藤さんは小さく頷きながら「そうだね」と答えた。その瞬間、彼女との距離がほんの少し縮まった気がした。
片付けの準備が進む中、クラスメイトたちは一日の成果を振り返りながら思い思いに話していた。
「本当、今日の盛り上がりすごかったね!」
佐藤がクラス全体に向けて声を上げると、榊原も続けた。
「マジで大成功じゃん! これ、絶対他のクラスに負けてないぞ!」
その言葉に、クラス全員が「確かに!」と笑い合う。文化祭前日に感じていた不安は、もうどこにもなかった。
「これだけ成功したんだから、打ち上げやろうよ!」
佐藤が楽しそうに提案すると、榊原が即座に賛成する。
「いいね! 打ち上げ、やろうやろう!」
クラス全員が声を揃えて「賛成!」と笑顔で答えた。その場には、一体感と満足感が溢れていた。
一方、1年3組では、紗月と結衣が片付けを進めていた。文化祭の締めくくりに向けた準備で忙しい中、俺の姿を見つけた紗月が笑顔で手を振ってきた。
「悠人! お疲れさま!」
「そっちも頑張ってるみたいだな。」
「もちろん! こっちも大成功だよ。でも……明日片付けが残ってるから、それがちょっと大変かな。」
「明日も文化祭の一部みたいなものだよな。最後まで楽しもうぜ。」
その言葉に、紗月は嬉しそうに微笑む。その横で、結衣がいたずらっぽい笑みを浮かべながら言った。
「さすが悠人君、いいこと言うね! 紗月、取られないようにしっかりリードしないとね?」
「ちょ、結衣! 余計なこと言わないで!」
顔を赤くしながら抗議する紗月を見て、結衣がケラケラと笑った。そのやり取りに、自然と俺も笑顔になった。
文化祭の最後を飾るこの瞬間は、1年2組と1年3組にとって忘れられない思い出となった。次に待つのは片付けと、その後の打ち上げだ。誰もがこの一日を胸に刻みながら、笑顔で文化祭の幕を閉じた。
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