第23話 一緒に乗り越える
文化祭準備の真っ只中、教室はクラスメイトたちの楽しげな声と作業音で賑わっていた。1年3組のテーマである「カフェ風レストラン」の装飾が、少しずつ形になり始めていた。
「結衣、このリボン、もうちょっと長く切ってくれる?」
「わかった!」
いつも通り笑顔で答えた結衣だったが、少し焦っていた。作業が遅れていることに加え、細かい指示が飛び交う中でミスをしてはいけないと緊張していた。
その瞬間――
「バリッ!」
結衣の手元からリボンが滑り、近くの大きな装飾が倒れてしまった。教室が一瞬静まり返る。倒れた装飾の上にはクラスメイトが時間をかけて描いた看板が無残に壊れていた。
「結衣、何やってんの!?」
「これ、直せるのか……?」
クラスメイトの声が結衣の耳に突き刺さる。彼女は慌てて装飾を拾い上げるが、どうにもならない。胸の奥から湧き上がる罪悪感と涙が交錯し、言葉を発することができなかった。
「ごめん……本当にごめん……」
結衣は小さな声で呟くと、教室を飛び出していった。
教室を出た結衣は、人気のない階段の踊り場で膝を抱えて涙を流していた。
「……私、なんでこんなに不器用なんだろう……」
声に出しても誰も答えてくれるわけではない。だが、それでも気持ちを吐き出さないと耐えられなかった。
その時、階段を登る足音が近づいてきた。驚いて顔を上げると、そこには悠人と紗月の姿があった。
「結衣!」
紗月が慌てて駆け寄り、隣に座る。結衣は顔を隠すようにしてそっぽを向いた。
「ほっといてよ……私なんか……」
「ほっとけるわけないでしょ!」
紗月が力強い声で言った。
「結衣がこんなに落ち込んでるの、見過ごせるわけないじゃん。」
悠人も階段に腰を下ろし、優しい声で話しかける。
「何があったか、話してくれないか? 僕たちで力になれることがあるかもしれない。」
結衣は一瞬二人を見つめたが、すぐに顔を伏せた。数秒の沈黙の後、小さな声で話し始める。
「……私のせいで、みんなが頑張って作ったものを壊しちゃったの。教室に戻るのが怖い……」
紗月が結衣の手をぎゅっと握る。
「大丈夫だよ。誰だってミスはするよ。でも、結衣はいつもクラスのために頑張ってるって、みんな分かってると思う。」
結衣は俯いたまま首を振る。
「そんなことないよ……私がいるせいで、クラスの雰囲気まで壊れちゃった……」
悠人がふっと微笑む。
「なら、壊れたものを一緒に直せばいいだけじゃない?」
「え……?」
「壊れた装飾をリメイクして、新しいデザインにするんだ。もしかしたら、前よりもいいものになるかもしれない。」
悠人の言葉に、結衣は目を丸くする。紗月も頷いた。
「それ、いいアイデア! 私も手伝うから、結衣も一緒にやろう?」
結衣は二人の顔を交互に見て、やがてゆっくりと頷いた。
「……ありがとう。私、もう一度頑張ってみる。」
教室に戻った三人は、リメイク作業に取り掛かった。壊れた装飾を組み合わせ、新たなデザインを考える。結衣は初めこそ緊張していたが、次第に手が動き始めた。
「結衣、それいいじゃん! そのまま貼り付けてみて!」
「うん、やってみる!」
紗月も手際よく作業を進め、悠人は全体を見渡しながら指示を出す。三人の連携はスムーズで、あっという間に装飾が完成した。
「できた……!」
結衣が呟く。新しい装飾は、クラスメイトたちにも好評だった。
「これ、めっちゃいいじゃん!」
「結衣が作ったの? すごいよ!」
周囲の反応に、結衣の頬が赤くなる。紗月が微笑みながら結衣の肩を叩いた。
「ほら、みんな分かってくれてるでしょ?」
結衣は小さく頷き、涙ぐんだ声で答えた。
「ありがとう……本当にありがとう、紗月、悠人くん。」
その日の帰り道。三人で歩きながら、結衣がふと立ち止まる。
「紗月、もっと頑張るから、これからもよろしくね!」
紗月は照れくさそうに笑う。
「当然でしょ! 結衣が元気でいてくれないと困るんだから。」
結衣が続けて冗談っぽく言う。
「それにしても、悠人くんって冷静で頼りになるよね。紗月、取られないように気をつけなよ?」
「ちょっ……! 何言ってんの!?」
紗月が慌てて反論する横で、悠人は少し照れたように笑って言った。
「取られるわけないだろ。紗月のこと、ちゃんと守るから。」
その一言に、紗月の顔が真っ赤になった。結衣はニヤニヤしながらそれを見ていた。
「ふふ、いいね、青春してるね~。」
紗月は結衣を軽く小突き、恥ずかしそうに笑う。その様子を見て、悠人も自然と笑みを浮かべていた。
こうして、文化祭の準備は少しずつ形を整えていった――。
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