第21話 内藤麻奈から相談
放課後の教室に、夕陽が差し込む時間帯。悠人は机の上に腕を乗せ、うとうとしていたところに、紗月と結衣が声をかけてきた。
「悠人、昨日の話だけどさ……ちょっと報告があるの。」
紗月が椅子を引き、悠人の正面に腰掛ける。結衣も隣に座り、何やら意味深な表情をしている。
「内藤さんのところ、昨日二人で話しに行ったんだよね?」
「そうそう。でも、うーん……上手くいかなかったかな。」
紗月がため息をつくと、結衣がその続きを補足する。
「内藤さん、こんなこと言ってたの。『私と話して、何か得るものなんてないと思うけど』だって。」
「そっか……。」
悠人は少し眉をひそめた。その言葉の裏にある、麻奈の本音が引っかかる。
「でもね、表情が少し変わった気がするんだよね。」
「表情?」
紗月は頷きながら続ける。
「ほら、告白されて大変だったとか、そういうことを考えてそうな顔だったの。精神的に辛いことがあったのかもしれない。」
結衣が頷いて補足する。
「私たちも入学した頃、男子からの告白で一時期大変だったしね。それに似てるかも。」
その言葉に、悠人は納得するように頷いた。彼自身、麻奈の孤独感や緊張感を感じていたが、それがどこから来るのかを深く考えるきっかけになった。
「なんとか助けてあげたいんだよな……。」
「悠人、そんなに気にしてるの?」と紗月が少し驚いた顔で尋ねる。
「なんか、昔の俺を見てるみたいでさ。麻奈さんも、本当はもっと人と話したいんじゃないかと思うんだよ。」
「なるほどね、悠人がそう思うなら、私たちも協力するよね?」
「もちろん!」
二人の明るい反応に、悠人は少しだけほっとした。
翌日の放課後、悠人が黒板の落書きを消していると、背後から声がした。
「杉村君……ねえ、空き教室で話さない?」
振り返ると、麻奈が立っていた。その表情は硬く、何かを決意しているようにも見える。
「うん、いいよ。」
悠人は頷き、麻奈と共に静かな空き教室へ向かった。
「ここなら、他の人には聞かれないから……。」
麻奈はため息をつきながら椅子に腰掛けた。その姿を見て、悠人も向かいに座る。
「何か話したいことがあるの?」
麻奈は少し迷ったようだったが、やがて話し始めた。
「男子から告白されて、それが……その人がある女子グループの好きな人だったの。」
その言葉に、悠人は何も言わずに耳を傾ける。麻奈の声には、抑えられない感情が混ざっていた。
「それで、その女子たちに嫌われたの。悪口とか、無視とか……。私が何か悪いことをしたわけじゃないのに。」
彼女の声は次第に震え、拳をぎゅっと握りしめる。
「関係なくない? 私がそんなの望んだわけじゃないのに……!」
その激昂に、悠人は一瞬驚いたが、冷静に見守る。やがて、麻奈は気持ちを整理するように深呼吸し、小さく呟いた。
「……ごめん。杉村君は関係ないのに。」
その言葉に、悠人は首を横に振る。
「内藤さんが辛い思いをしてるなら、それを聞くのが俺の役目だよ。」
麻奈は驚いたように目を見開いた。
「役目……?」
「俺も今まで、クラスで浮いてたからさ。こういうのって誰かに話を聞いてもらえるだけで、すごく助かるんだよ。」
悠人は穏やかな声で自分の過去を語り、麻奈を安心させようとした。
「だからさ、紗月と武田さんも協力してくれると思うし、少しずつ変えていけるんじゃないかな?」
麻奈はしばらく考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「……分かった。ありがとう、杉村君。」
その微笑みに、悠人はほっと息をついた。
その日の放課後、校内で文化祭の準備が進む中、悠人はふと廊下で武田結衣を見かけた。
「武田さん?」
結衣は足元がおぼつかない様子でふらついていた。悠人が駆け寄ると、結衣がか細い声で言った。
「……ちょっと、疲れちゃったかも。」
次の瞬間、結衣は力が抜けたように倒れ込んできた。悠人は慌ててその体を支えながら、心配そうに声をかけた。
「武田さん!!大丈夫?!」
筆者の励みになりますので、よろしければブックマークや★の評価をお願いいたします。温かい応援、よろしくお願いいたします。




