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第20話 絡み合う意図と揺れる友情

 放課後の教室。文化祭準備の進むざわめきの中、俺は黒い段ボールをカットしながら、教室の隅で一人作業をしている内藤さんの姿をちらりと見ていた。何度も思う――彼女にはどこか孤独な雰囲気がある。


 その日の夕方、隣の1年3組の教室で紗月と結衣に相談するため、放課後の準備作業を手伝いに行った。


「悠人、どうしたの? 今日は随分真剣な顔してるね。」

 紗月が笑いながら声をかけてくる。その後ろで、結衣が腕を組みながら小首を傾げていた。


「実は、相談があってさ。」

 俺が切り出すと、二人は少し驚いた顔を見せた。


「相談? どんな?」

 結衣が興味津々な表情で近づいてくる。


「俺のクラスの内藤さんのことなんだけど……。」


「内藤さん?」

 紗月が少しだけ眉を寄せる。その表情を見て、俺は言葉を選びながら続けた。


「なんか、彼女を見てると、昔の俺を思い出すんだ。周りと距離を取って、一人でいる方が楽だって思い込んでる感じ。だけど、本当は違う気がして……。」


「なるほどね。で、悠人はどうしたいの?」

 結衣の問いに、俺は少し考えてから答えた。


「正直言って、助けたいんだ。彼女が何か困ってるなら、少しでも力になりたい。」


 紗月が少しだけ目を伏せ、ため息をつく。


「悠人らしいね。でも、簡単にはいかないんじゃない? 内藤さんって、どっちかというと壁を作ってるタイプでしょ?」


「うん……それは分かるけど。」

 俺は紗月の言葉にうなずきつつ、何か答えを見つけたいと思った。


 結衣が不意に口を開く。


「それって、内藤さんが周りの目を気にしてるってことかもね。私たちも、入学してすぐの頃、告白されたことが何度もあってさ。そのせいで変な噂立てられたりしたこと、覚えてる?」


「うん。あの時は本当に大変だったよね。」

 紗月が少し苦笑いを浮かべた。


「もしかして、内藤さんも同じようなことを経験してるのかもね。」

 結衣がそう言うと、紗月も何かを考え込むような表情になった。


「そうだね……それなら、私たちが直接話をしてみるのもいいかも。どう?」


「助かるよ。俺が一人で話すより、紗月たちの方がきっと聞き出せると思う。」

 俺はそう言って二人に頭を下げた。


 翌日の昼休み。紗月と結衣は1年2組の教室に向かい、内藤さんに話しかけた。


「内藤さん、こんにちは。」

 紗月がにこやかに声をかけると、内藤さんは少し驚いたように顔を上げた。


「橘さん……何か用?」

 内藤さんの声は静かだったが、その視線には警戒心が滲んでいた。


「用事ってわけじゃないんだけど、ちょっとお話したくて。」

 紗月が軽い調子で続ける。その隣で結衣も微笑みながら相槌を打った。


「そうそう、紗月がね、内藤さんと話してみたいって前から言ってたの。」

 結衣が笑いながら付け加えると、内藤さんは困惑したように目を瞬かせた。


「……私と話して、何か得るものなんてないと思うけど。」


「そんなことないよ!」

 紗月が少し力を込めて言う。その真剣な表情に、内藤さんも一瞬だけ動揺したようだった。


 それでも、内藤さんは表情を戻し、短く答えた。


「……ありがとう。でも、大丈夫。」


 その一言に、紗月と結衣はそれ以上踏み込むことができなかった。昼休みが終わり、内藤さんが教室を出て行った後、紗月は結衣にぽつりと言った。


「難しいね、内藤さんって……。」


「まあ、最初から上手くいくわけないでしょ。でも、紗月の頑張りは伝わってたと思うよ。」

 結衣がそう言って肩を叩いた。その言葉に、紗月は少しだけ笑顔を取り戻した。


 その夜、俺は机に向かい、ドリームノートを開いた。ペンを手に取り、心に決めた願いを書き込む。


「自分と同じクラスの内藤麻奈から相談を受ける。武田結衣さんの困っている場面に遭遇し、解決する。」


 ノートに書き込みながら、俺は静かに決意を固めた。


「紗月と結衣が助けてくれたから、俺も誰かの力になりたい。それができるなら……。」


 ノートを閉じ、ベッドに横たわる。明日から何が起きるかは分からないけれど、自分にできることを精一杯やるつもりだった。



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