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第18話 文化祭の準備と交差する想い

 放課後の教室は、文化祭準備に追われる生徒たちの声で賑やかだった。1年2組の教室では、お化け屋敷の飾り付けを行っている最中。俺もその一人として、段ボールを切ったり、黒い布を貼ったりと作業に没頭していた。


 ふと目を上げると、教室の隅で内藤麻奈が一人で作業をしているのが目に入った。大きな黒い壁紙を広げ、それを慎重に裁断している彼女の姿は真剣そのものだった。


「内藤さん、手伝おうか?」


 俺が声をかけると、麻奈は一瞬だけ顔を上げた。少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに静かに首を振った。


「平気。これくらい一人でできるから。」


「でも、一人だと結構大変そうに見えるけど……。」


 彼女はしばらく俺を見つめ、ため息をつきながら言葉を漏らした。


「……人と一緒にやるのが、ちょっと苦手でね。」


 その言葉に、俺は少しだけ考えた後、笑って答えた。


「苦手でも、一緒にやったら楽しいこともあるかもよ。俺だって前までは人と話すのも苦手だったし。」


 麻奈の手が一瞬止まり、彼女の目が俺を見据える。その中にほんのわずかだが、興味が宿っているように感じた。


「……そういう風に思えるのって、少し羨ましいかも。」


「俺だって、簡単にそう思えるようになったわけじゃないよ。内藤さんも、少しずつでいいんじゃない?」


 麻奈は一瞬だけ微笑み、小さな声で「ありがとう」と呟いた。その言葉はどこかぎこちなく、けれど確かな感情が込められていたように思えた。


「私、昔から一人でいる方が楽だと思ってた。でも、そうじゃないのかもね……。」


 その小さな呟きに、俺は麻奈が抱える孤独感の一端に触れた気がした。


 その日の放課後、校内の共通スペースを通りかかると、1年3組の生徒たちが忙しそうに動き回っていた。紗月の姿を見つけた俺は、思わず足を止めた。


「悠人!」


 紗月が俺を見つけて手を振る。その明るい笑顔に、周囲の視線が一斉にこちらへ向いたのが分かる。


「ちょうどよかった! 手伝ってくれる?」


「え? 俺が?」


「うん、これ、持ってて!」


 紗月は俺に装飾用の紙袋を押し付けると、特に説明もなく作業を進め始めた。戸惑いながらも彼女の指示通りに動くうちに、なんとなく流れに乗れてきた。


「悠人、これどう思う? このリボン、もう少し派手なのにした方がいいかな?」


「うーん、シンプルな方が落ち着いていいんじゃない?」


「なるほどね、さすが悠人!」


 そんなやり取りを続けていると、結衣が近づいてきた。


「杉村くん、さっき内藤さんと話してた?」


 その一言に、紗月がぴたりと動きを止めた。


「あ、うん。ちょっと作業のことで話してただけだよ。」


「ふーん。」


 結衣の微妙に含みのある声に、紗月がちらりとこちらを伺う。俺はその視線に少しだけ居心地の悪さを感じた。


 準備がひと段落した後、紗月と二人で休憩していると、彼女がぽつりと呟いた。


「でも……クラスが違うと、こうやって一緒に準備するのも難しいよね。」


「確かに。文化祭とか体育祭、どうしてもクラス単位になるしな。」


「そうなんだよ! しかも、たまに別のクラスの方が面白そうなことやってたりして、ちょっと悔しいし。」


 紗月は頬を膨らませ、悔しそうにテーブルを軽く叩いた。その仕草があまりに自然で、思わず笑ってしまう。


「じゃあ、次は何か一緒にできる機会を探してみる?」


「うん! 悠人と一緒に何かやりたいな。」


 その一言に胸が少しだけ高鳴った。


 帰り道、校内の昇降口付近で偶然内藤麻奈の姿を見つけた。紗月と一緒にいた俺は、自然と声をかけた。


「内藤さん!」


 麻奈が足を止め、こちらを振り返る。その表情には一瞬驚きが浮かんだが、すぐに普段の無表情に戻る。


「杉村君……それに、橘さん?」


 紗月が軽く首を傾げながら微笑むと、麻奈は少しだけ困ったように目をそらした。


「クラスが一緒だから……たまに話す程度。」


「そうなんだ。内藤さん、前からちょっと気になってたんだよね。何か落ち着いてて、かっこいいなって。」


 紗月の素直な言葉に、麻奈の頬がわずかに赤くなる。


「……かっこいいなんて、そんなことないよ。」


「いや、本当だって! 悠人もそう思わない?」


「えっ、まあ……確かに内藤さんは冷静だし、頼りになるタイプだと思うけど。」


 俺の言葉に麻奈が一瞬だけ目を見開き、そっぽを向いた。


「……ありがと。」


 その後、紗月が軽く笑いながら言った。


「内藤さんと、もっと話してみたいかも。」


 その言葉に俺は答えず、二人の間に流れる空気を感じ取った。何かが少しずつ動き始めている。


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