第16話 初めての勉強会、そして告白の夕べ
放課後、教室には夕陽が差し込んでいた。橘紗月はカバンを手に取り、悠人の席に向かって小走りでやってきた。
「悠人、ちょっといい?」
「あ、紗月……どうしたの?」
悠人は少し驚いた表情で顔を上げる。紗月はそんな彼ににっこり笑いかけながら椅子を引いて隣に座った。
「ねえ、もうすぐテストでしょ? 勉強会しない?」
「勉強会?」
「そう! 私、数学とか英語とか本当に苦手でさ、悠人に教えてほしいの。お願い!」
紗月の瞳は純粋な期待で輝いている。悠人は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
「うん、俺で良ければ。」
「やった! じゃあね、土曜日に家に来てほしいの。それから……お母さんが夕食も一緒にどう? って言ってたから、よかったら食べていってくれる?」
「え、夕食まで?」
悠人は少し困惑したように目を泳がせたが、紗月は勢いよく頷いた。
「そうそう! ほら、一日中勉強してたらお腹も空くしね。ね?」
「……じゃあ、お邪魔させてもらうよ。」
「決まり! あ、あと連絡先交換しようよ。」
その言葉に、悠人は一瞬固まった。
「えっと、俺、連絡先交換って初めてなんだけど……。」
「えっ!? 私が初めてなの?」
紗月は驚きつつも、すぐに頬を赤らめた。
「ど、どうしよう、なんか私までドキドキしてきた……。」
「えっ、なんで紗月がドキドキするの?」
「い、いいの! 早く教えて、悠人!」
少し慌てた様子の紗月に押される形で、悠人はスマホを取り出し、連絡先を交換した。交換後、紗月は満足そうに微笑んだ。
「これで準備万端だね!」
土曜日の朝、悠人は駅のベンチに座り、少し緊張しながら待っていた。すると、少し遅れて紗月が駅に到着した。
「お待たせ、悠人!」
紗月は軽やかに手を振りながらやってきた。彼女の服装はカジュアルながらもどこかおしゃれで、悠人は思わず見とれてしまう。
「いや、俺が早く来すぎただけだよ。それに、その服、似合ってるね。」
「本当? ありがとう!」
二人はバスに乗り込み、紗月の家へ向かった。家に到着すると、紗月は早速リビングに勉強道具を広げ始めた。
「さ、やるよー! 数学のこの問題、全然分かんないんだけど……。」
紗月が苦戦している問題を見て、悠人は簡単に解き方を説明する。
「なるほど……って、分かった気がするけど、全然分かんない!」
「じゃあ、もう一回最初からやってみようか。」
二人で問題を解き進める中、紗月の集中が切れるたびに軽いやり取りが飛び交った。
「ねえ、これって本当に将来使うのかな?」
「それ、みんなが思うことだよ。でもテストには出るから、覚えないと。」
リビングには二人の笑い声が響き、穏やかな時間が流れた。
勉強を一段落させたところで、紗月の母親がリビングに顔を出した。
「二人とも、勉強お疲れ様。夕食の準備ができたから、そろそろ食べましょう。」
テーブルに並んだのは、熱々の唐揚げにサラダ、みそ汁といった豪華な家庭料理。悠人は思わず目を輝かせた。
「うわ、唐揚げ……めっちゃ美味しそう!」
「うちのお母さん、唐揚げ得意なの! いっぱい食べてね。」
夕食を楽しむ間、紗月の母親は二人の様子を温かく見守っていた。
食事が終わり、最後の勉強をしようと紗月の部屋に向かった悠人。部屋にはライトノベルが並ぶ本棚や可愛らしい雑貨が整然と並んでいた。
「やっぱりラノベ好きなんだな、紗月。」
「うん、ほら、『異世界転生記』とか面白いよね。」
二人でラノベの話題で盛り上がりながら勉強を進めていると、紗月がふと手を止めた。
「悠人……。」
その声に、悠人は顔を上げる。紗月の表情はいつもの明るさとは違い、真剣そのものだった。
「ずっと、伝えたいことがあったの。」
「伝えたいこと?」
紗月は少し緊張した面持ちで、手をそっと悠人の手に重ねた。
「ねえ、私を彼女にしてくれない?」
その言葉に、悠人は驚きで言葉を失った。紗月はそんな彼を見つめ、小さく笑った。
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