第14話 交差する未来の選択
放課後の教室で、俺は机に突っ伏してぼんやりしていた。橘紗月との距離が縮まり、内藤麻奈とも会話を重ねる中で、自分が少しずつ変わってきた気がしていた。
「杉村君!」
明るい声に顔を上げると、目の前に紗月が立っていた。
「何ぼーっとしてるの? 放課後だよ? 帰る準備してる?」
「いや、まだだけど……。」
「じゃあさ、一緒に帰らない? ついでにちょっと寄り道しようよ!」
彼女の笑顔に断る理由なんて見つからない。
「いいけど、どこに?」
「それはついてからのお楽しみ!」
紗月は嬉しそうに俺の手を軽く引っ張った。
「ほら、早く!」
手を握られた瞬間、周囲の視線が気になって顔が熱くなる。
「橘さん、手……!」
「あ、嫌だった?」
不安そうに見上げる彼女に、俺は首を振った。
「いや、そんなことないけど……。」
「じゃあいいよね。ほら、行こ!」
紗月に手を引かれ向かったのは、商店街にあるクレープ屋だった。
「ここ、私がよく来るお店なの! 美味しいから絶対食べてみて。」
「クレープか……甘いの苦手じゃないけど、どれがいいんだろ。」
メニューを眺めて迷っていると、紗月が「これにしなよ」と指差す。
「チョコバナナ! 定番だけど間違いないよ。」
「じゃあ、橘さんのオススメにする。」
2人で並んでクレープを受け取り、一口食べる。
「どう? 美味しいでしょ?」
「うん、甘すぎなくて食べやすい。美味しいよ。」
「でしょ~? 私のオススメだもん!」
紗月は楽しそうに笑いながら、学校のことや好きな音楽のこと、そして――俺のことを話題にした。
「そういえば、私のこと『橘さん』って呼んでるよね。そろそろ『紗月』って名前で呼んでくれない?」
「え、急に?」
「え、だめ?」
彼女の期待に満ちた目を見て、断るなんてできなかった。
「……じゃあ、さ、紗月。」
「やった! じゃあ、改めてよろしくね、悠人!」
彼女の笑顔が眩しくて、胸が高鳴った。
放課後デートの帰り道、偶然本屋の前で麻奈と出会った。文庫本を手に持つ彼女の表情には、疲れが滲んでいた。
「あれ、内藤さん。」
「あぁ、杉村君……。今日は何?」
「いや、たまたま通りかかっただけ。内藤さんは?」
「……ちょっと息抜きに。」
その言葉に陰を感じた俺は、思わず問いかけた。
「大丈夫? 今日も元気なさそうだけど。」
麻奈は一瞬きつい表情を見せたが、すぐに目を伏せた。
「……杉村君、なんでそんなに人のこと気にするの?」
問いに詰まる俺を見て、彼女は小さく笑った。
「ごめん。怒ってるわけじゃない。ただ……慣れてないの。」
「慣れてない?」
「誰かに気にかけられるのとか、心配されるのとか……。」
その一言に、彼女の孤独が垣間見えた気がした。
「それでも、俺は気にするよ。気になったら、ほっとけないから。」
彼女は目を伏せたまま、小さな声で言った。
「……杉村君みたいな人、あまり周りにいなかったから。ちょっと新鮮かも。」
その言葉に胸が少し高鳴る。麻奈が少しずつ心を開き始めているのだろうか。
夜、自分の机の上で「ドリームノート」を開いた。紗月との楽しい時間、麻奈の儚い笑顔――二人の存在が胸の中で渦を巻いていた。
(紗月の明るさや温かさ、麻奈の静かな強さと孤独……。)
ペンを手に取るが、すぐにその手を止めた。
(でも、ノートに頼るのはもうやめよう。自分自身で向き合って、答えを見つけたい。)
ノートを静かに閉じ、机の引き出しにしまう。そして、窓から見える夜空を見上げた。
(どういった未来を選ぶにせよ、自分の足で歩いていきたい。)
そう胸に決めた俺は、少しだけ自信を持って眠りについた。
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