表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/35

第14話 交差する未来の選択

 放課後の教室で、俺は机に突っ伏してぼんやりしていた。橘紗月との距離が縮まり、内藤麻奈とも会話を重ねる中で、自分が少しずつ変わってきた気がしていた。


「杉村君!」


 明るい声に顔を上げると、目の前に紗月が立っていた。


「何ぼーっとしてるの? 放課後だよ? 帰る準備してる?」


「いや、まだだけど……。」


「じゃあさ、一緒に帰らない? ついでにちょっと寄り道しようよ!」


 彼女の笑顔に断る理由なんて見つからない。


「いいけど、どこに?」


「それはついてからのお楽しみ!」


 紗月は嬉しそうに俺の手を軽く引っ張った。


「ほら、早く!」


 手を握られた瞬間、周囲の視線が気になって顔が熱くなる。


「橘さん、手……!」


「あ、嫌だった?」


 不安そうに見上げる彼女に、俺は首を振った。


「いや、そんなことないけど……。」


「じゃあいいよね。ほら、行こ!」


 紗月に手を引かれ向かったのは、商店街にあるクレープ屋だった。


「ここ、私がよく来るお店なの! 美味しいから絶対食べてみて。」


「クレープか……甘いの苦手じゃないけど、どれがいいんだろ。」


 メニューを眺めて迷っていると、紗月が「これにしなよ」と指差す。


「チョコバナナ! 定番だけど間違いないよ。」


「じゃあ、橘さんのオススメにする。」


 2人で並んでクレープを受け取り、一口食べる。


「どう? 美味しいでしょ?」


「うん、甘すぎなくて食べやすい。美味しいよ。」


「でしょ~? 私のオススメだもん!」


 紗月は楽しそうに笑いながら、学校のことや好きな音楽のこと、そして――俺のことを話題にした。


「そういえば、私のこと『橘さん』って呼んでるよね。そろそろ『紗月』って名前で呼んでくれない?」


「え、急に?」


「え、だめ?」


 彼女の期待に満ちた目を見て、断るなんてできなかった。


「……じゃあ、さ、紗月。」


「やった! じゃあ、改めてよろしくね、悠人!」


 彼女の笑顔が眩しくて、胸が高鳴った。


 放課後デートの帰り道、偶然本屋の前で麻奈と出会った。文庫本を手に持つ彼女の表情には、疲れが滲んでいた。


「あれ、内藤さん。」


「あぁ、杉村君……。今日は何?」


「いや、たまたま通りかかっただけ。内藤さんは?」


「……ちょっと息抜きに。」


 その言葉に陰を感じた俺は、思わず問いかけた。


「大丈夫? 今日も元気なさそうだけど。」


 麻奈は一瞬きつい表情を見せたが、すぐに目を伏せた。


「……杉村君、なんでそんなに人のこと気にするの?」


 問いに詰まる俺を見て、彼女は小さく笑った。


「ごめん。怒ってるわけじゃない。ただ……慣れてないの。」


「慣れてない?」


「誰かに気にかけられるのとか、心配されるのとか……。」


 その一言に、彼女の孤独が垣間見えた気がした。


「それでも、俺は気にするよ。気になったら、ほっとけないから。」


 彼女は目を伏せたまま、小さな声で言った。


「……杉村君みたいな人、あまり周りにいなかったから。ちょっと新鮮かも。」


 その言葉に胸が少し高鳴る。麻奈が少しずつ心を開き始めているのだろうか。


 夜、自分の机の上で「ドリームノート」を開いた。紗月との楽しい時間、麻奈の儚い笑顔――二人の存在が胸の中で渦を巻いていた。


(紗月の明るさや温かさ、麻奈の静かな強さと孤独……。)


 ペンを手に取るが、すぐにその手を止めた。


(でも、ノートに頼るのはもうやめよう。自分自身で向き合って、答えを見つけたい。)


 ノートを静かに閉じ、机の引き出しにしまう。そして、窓から見える夜空を見上げた。


(どういった未来を選ぶにせよ、自分の足で歩いていきたい。)


 そう胸に決めた俺は、少しだけ自信を持って眠りについた。

筆者の励みになりますので、よろしければブックマークや★の評価をお願いいたします。温かい応援、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ