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第13話 交差する想いと予期せぬ一歩

 週末、ついに橘紗月とのデート当日がやってきた。映画館の前に少し早めに到着した俺は、心臓が高鳴るのを抑えながらスマホの画面を見つめていた。いつもは何とも思わない服装も、今日は「ちゃんとしてるだろうか」と妙に気になってしまう。


「お待たせ、杉村君!」


 紗月の明るい声に顔を上げると、白いトップスとデニムスカートを身にまとった彼女が手を振りながら近づいてきた。そのシンプルなコーディネートが彼女らしく、眩しく映る。


「いや、俺が早く着きすぎただけだよ。あ、その服、すごく似合ってる。」


「本当に? ありがとう!」


 笑顔でそう言われると、こちらまで顔が熱くなりそうだった。


 映画は恋愛コメディだった。紗月は映画の中のドタバタ劇に何度も笑い声をあげ、時には身を乗り出して驚いている。その反応が可愛らしく、思わず映画よりも彼女を見てしまう。


「ねえ、杉村君。これ、面白かったね! 主人公、最初はダメダメだったのに、最後にちゃんと自分を変えたよね。」


「そうだな……確かに。俺も変わらなきゃいけないのかな。」


「えっ、何か言った?」


「あ、いや、なんでもない。」


 映画館を出た後、近くのカフェで軽食を取ることにした。注文したパンケーキを前に、紗月は家族の話をぽつりと口にした。


「そういえば、お母さん、最近少し元気になってきたんだ。杉村君のおかげかも。」


「それなら良かった。でも俺は、ちょっと手伝っただけだから。」


 彼女の表情には感謝の色が浮かんでいたが、その奥に一瞬だけ物思いにふけるような影が見えた。


 一方その頃、内藤麻奈は図書館の片隅で一人、本を開いていた。静けさに包まれた空間は、唯一の心休まる場所だった。それでも、心の奥底にはどうしようもない虚しさが漂っていた。


(結局、私には居場所なんてないのかな……。)


 ページをめくる手が止まる。彼女の視線は、本の文字ではなく窓の外へ向けられた。そこに映るのは、週末を楽しむ人々の姿だった。


(私がこんなふうに一人でいる理由なんて、きっと誰も分からないんだろう。)


 彼女は小さく息を吐いた。男子からの告白を何度も受けたこと――それが原因で一部の女子グループから嫌われているなんて、自分ではどうしようもない。誰かに嫉妬される理由が、自分の意志ではどうにもならないことだというのは、余計に辛かった。


(告白されるのなんて私が望んだわけじゃない。なのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの……。)


 思わず本を閉じて席を立つ。けれど、心の中には、いつも声をかけてくる杉村君へのわずかな興味が渦巻いていた。


(あの人、どうして私に話しかけるんだろう……。)


 紗月とのデートが終わり、帰り道を歩いていると、偶然麻奈と出会った。彼女は街灯に照らされながら、一人で歩いていた。


「杉村君……?」


 麻奈が少し驚いたように声をかける。普段よりも疲れた表情に見える彼女に、思わず足を止めた。


「やあ、内藤さん。こんばんは。」


「こんばんは……今日は、なんとなく散歩してただけ。」


 彼女の素っ気ない返事に、俺は一瞬躊躇したが、意を決して言葉を続けた。


「また少し思い詰めた顔してるよ。大丈夫?」


 麻奈は一瞬だけ視線を逸らし、何かを言いかけて口を閉じた。しかし、次の瞬間には小さな声で答えた。


「……何もないよ。ただ、たまにそういう風に思ってくれる人がいるのも悪くないかもね。」


 その言葉に込められた微かな安堵と感謝を感じ取りながら、俺はそれ以上踏み込むのを控えた。


 その夜、部屋で「ドリームノート」を手に取った。紗月との楽しい時間、麻奈の儚い笑顔――二人のことが頭の中で渦巻いていた。


(ノートがあるから、俺はこうして誰かと関わることができている。でも、このままで本当にいいのか?)


 ペンを握りしめたまま、次の願いを書くべきか迷った。けれど、ふと胸に手を当てて、自分の心の声を聞く。


(もう少し、自分の力でやれることを探してみよう。ノートに頼らなくても、俺は少しずつ変われるはずだ。)


 ノートを閉じ、ペンを置く。今は書かない――そう決めた俺の心は、不思議と晴れやかだった。


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