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第10話 新たな出会いと成長の兆し

 夜、机に広げた「ドリームノート」を前に、俺はペンを握り締めていた。橘紗月との交流を通じて少しずつ変化を実感している自分。でも、さらなる成長には新たな挑戦が必要だと思った。


「次は……クラスメイトとの関係を深めるのが目標かな。」


 ノートを開き、慎重に書き込む。


『クラスメイトと自然に仲良くなるきっかけを得る。』


 文字を最後まで書き終えると、ノートが淡く光り消えた。その瞬間、胸に高揚感と不安が入り混じる。


「さて、どんな展開になるかな……。」


 期待と不安を抱えつつ、俺はノートを閉じた。


1日目: クラスメイトとの関わり


 翌朝、学校では自然とクラスメイトとの距離が縮まる出来事がいくつも起きた。


 隣の席の子が消しゴムを落としたのに気づいて、反射的に拾って渡す。


「ありがとう、杉村君!」


「いや、全然。」


 以前の俺なら無言でやり過ごしていたかもしれない。些細な一歩が自分にとっては大きい。


 体育の授業では榊原がタオルを忘れて困っているのを見て、予備を貸した。


「助かるわ、杉村!お前って案外気が利くんだな!」


 彼が笑いながら言うのを聞いて、少し照れくさかったが「どういたしまして」と返す。


(こういうことが自然にできるのは、きっと橘さんのおかげだよな。)


 放課後、榊原と文化祭の企画で話し合う機会があった。


「もっと派手なことがいいと思うんだよな!杉村はどう思う?」


「俺は落ち着いたものがいいかな……。」


 意見がすれ違い、少し気まずい空気になったが、榊原は笑って「まぁ、どっちにしても楽しい文化祭にしようぜ!」と場を和ませた。


(違う価値観の人と付き合う難しさを少し感じたけど、今の俺には新鮮だな。)


 小さなことだが、確実に一歩を踏み出した。


2日目: 内藤麻奈との再会


 学校帰りに立ち寄った本屋で、思いがけず内藤麻奈を見つけた。彼女は真剣な表情で本を探している。


「内藤さん?」


 声をかけると、彼女は少し驚いたように振り返った。


「杉村君……。なんでここに?」


「いや、たまたま寄っただけ。」


 彼女の顔にはどこか疲れが滲んでいる気がした。俺がそのことに気づいたのは、彼女が普段の姿と少し違ったからだ。


「そういえば、この前おすすめしてくれた本、すごく面白かったよ。」


 俺がそう言うと、彼女の眉間の緊張が少し緩んだ。


「そう……ちゃんと読んだんだ。」


「うん。キャラクターの成長が良かった。次も何かおすすめある?」


 彼女が選んで渡してくれた本を受け取る。その時、ふとした疑問が浮かんだ。


「内藤さん、なんか無理してない?」


 無意識に口をついて出た言葉に、彼女は動きを止めた。その表情には一瞬、苛立ちが混じった。


「無理なんてしてない。何も知らないくせに、私のことを分かったように言わないで。」


「分かってないよ。ただ、疲れているように見えたから……。」


 俺の素直な言葉に、彼女はため息をつきながら視線をそらした。


「……最近、ちょっとね。」


 思わず本音が漏れた彼女の顔には、微かな疲労感がにじんでいた。


「頑張るのもいいけど、たまには休むことも大事だよ。」


 俺が言うと、彼女は呆れたように笑った。


「本当に変わった人ね、杉村君。」


3日目: ノートの力への再考


 夜、ベッドに横たわりながら「ドリームノート」を見つめる。3日間の出来事を振り返ると、ノートの力だけではなく、自分自身が少しずつ変わり始めているのを実感していた。


(今まで、人と深く関わるなんて想像もしていなかった。それが当たり前だったからだ。)


 けれど、榊原や内藤麻奈と過ごした時間を思い返すと、誰かと話したり、気遣いをしたりするのは決して悪いことじゃないと思えるようになってきた。


(関わることで面倒なことも増えた。でも、それ以上に、学校生活が今までよりずっと楽しく感じられるようになった。)


 心の中でそう呟くと、自分の中に少しだけ自信が芽生えたような気がした。ノートに頼らずに、自分自身の力でこの世界をもっと色鮮やかにできるのではないか――そんな気がしたのだ。


(たぶん、大人になるってこういうことなんだろうな。)


 社会に出てお金を稼ぐことは、生きていくために必要なこと。でも、今の俺にはそれ以上に大事なものが見つかりつつある。


(誰かと繋がることで得られるもの。それが、これから先の俺の人生を作っていくのかもしれない。)


 ノートをそっと閉じ、静かな夜の空気の中、目を閉じた。そして心の中で新たな目標を描く。


(これからは、もっと自分の力で人と関わって、世界を広げていこう。)


 部屋の灯りを消すと、眠りにつくまでの間、心の中は少しだけ暖かい気持ちで満たされていた。


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